*白銀劇場* 〜とある才女と父の想い〜
※本編に関わるネタバレはありませんが、
第3折あたりまで読んでいないと『誰ですか?』状態になります。
これは、とある優秀な右腕が、久々に父親と想いを交わすお話――。
「おはようございます、旭さん」
「おはよう、ぼたん。今日も早いね」
「旭さんこそ。コーヒーお持ちいたしました」
「いつもありがとう、助かるよ」
旭はコーヒーに口をつける。
早朝の書斎には、柔らかい日が差し込んでいた。
「そうだ、ぼたんに手紙が届いていたよ」
「手紙、ですか?」
私に、手紙を送ってくるような相手なんていないはずだけれど……。
訝しげな表情を浮かべながら、ぼたんはそれを受け取る。
「父さん……?」
「うん、療養先の北領からみたいだよ。部屋で読んできたらどうだい?」
「では、お言葉に甘えて……」
「どうぞ。時間は気にしなくていいからね」
旭の笑顔に背を押されつつ、ぼたんは書斎を後にした。
「父さんから手紙だなんて……」
相楽のお屋敷でお世話になると決めたあの日から、父さんとの連絡は控えていた。
旭さんや憩さん、和さんは気にせず連絡を取るようにと言ってくれていたけれど、
こんな私を雇い、住まわせてくださっている相楽の方々に、申し訳が立たないと思ったから。
ぼたんは、ペーパーナイフでゆっくりと封を開ける。
久々に見た父の字は、以前よりずっと、力強いものだった。
ぼたんへ
元気にしているかい?
相楽様での生活には、慣れた頃でしょうか。
実は旭くんから、ぼたんの様子はずっと聞いていたんだよ。
そこまで目を通し、ぼたんは表情を歪める。
「旭さんを、くん付け……? 一体、いつからやりとりしていたの?」
驚きを隠せぬまま、再び手紙へと視線を落とす。
彼からの手紙には、いつもぼたんがいてくれて助かると書かれているよ。
父さん、最初の頃は旭様って呼んでいたんだけれど、やめてほしいって言われちゃってね。
それで、旭くんって呼ぶようになったんだ。
そしたらすごく喜んでくれてね――。
「これ、私宛なのよね……?」
ぼたんは宛先を確認する。確かに自分の名前だ。
しかし、そこに書かれているのは雇用主の話ばかりなのだ。
「父さん……、なんのために送ってきたの?」
数枚書かれている便箋のほとんどが、旭の話ばかり。
彼は素晴らしいだの、妹想いだの、優れた人格者だの、そういったことばかりだ。
ため息をつきながら、ぼたんは最後の便箋に視線を落とす。
父さんね、ぼたんには旭くんみたいな子が合うと思うんだよ。
「何訳のわからないこと言ってるの!?」
はっ、とぼたんは自らの口を手で押さえる。
早朝だというのに、あまりにも唐突すぎて大声を出してしまった。
天上人である彼と、そこいらの土塊である私が……?
あり得ないにも程がある。
そう思いつつも、とりあえず最後まで読もうと視線を落とした。
ぼたんのことだから、自分なんて相応しくないって思うんだろう。
でもね、旭くんにもぼたんが必要なんじゃないかって、父さん思うんだ。
じゃあ、元気でやるんだよ。また手紙書くからね。
「これが言いたくて、手紙を寄越したのね……」
ぼたんは小さなため息をつくと、返事を書き始める。
父さんへ
お元気そうで安心しました。
旭さんとのことだけれど――。




