*白銀劇場* 〜とある乙女の隠し事〜
※本編に直接関わるネタバレはありません。
ほんのり47句の女子会に繋がります。
51句まで読み終わっていると、ちょっと感慨深い?かも。
これは、とある芸花魁が、ずっと閉じ込めてきた想いのお話――。
「朔夜! 見てみて!」
「うん? 何描いてんだ、今度は……」
彼が相楽家にやってきて数ヶ月。
今日も15歳の朔夜は、10歳の憩の相手をしていた。
許可が下りない限り外に出られない少女は、外の世界を知る青年が大好きだった。
「あのね! お庭の桜の木を描いたの!」
「桜の木?」
「うん! ここにね、お兄様とお姉様と朔夜と私がいるの!」
「花見でもしてんのか?」
嬉しそうに絵を見せる憩を、朔夜は優しい眼差しで見つめる。
「憩ちゃん、今日も朔夜くんにべったりね」
そんな2人の様子を、和は陰から覗き見ていた。
朔夜くんに懐くのも無理ないわね。
口は悪いけれど、なんだかんだ優しいもの。
お兄様も私も忙しくて、あまり相手をしてあげられないし……。
この頃、和は芸花魁として人気が出たばかり。
この機を逃すまいと、午前中は芸事を、午後は仕事と動き回っていた。
そうなれば、幼い妹はどうしても1人で過ごすことになる。
憩が何よりも大切な彼女にとって、朔夜の存在はとてもありがたいものだった。
「でも、いいなぁ憩ちゃんは。
お兄様からも朔夜くんからも大事にされて……」
絵を描いただけで褒められて、喜ばれて。
そこにいて、笑っているだけでみんなを笑顔にできて。
憩ちゃんがいるだけで、みんなが幸せそうで――。
……私だって。
本当は、もっとお兄様に甘えたい。
本当は、もっと朔夜くんとお話したい。
本当は、もっと思っていることを伝えたい。
「……憩ちゃんが羨ましい」
気づいたときには、そんな言葉が口から出ていた。
「でも、私はお姉様だから……」
お兄様と決めた。憩ちゃんを護るって。
そのためならなんだってするって。そう、決めたの――。
「お姉様、どうされました?」
心配そうに顔を覗き込むのは、16歳になったかわいい妹。
何よりも大切で護りたい、目に入れても痛くない最愛の子。
「ごめんなさいね、少し考えごとをしていて」
「いえ! あのお姉様……。
千歳さん、どちらが好みでしょうか……」
2種類の袴を当てながら、恥ずかしそうに問われる。
明日、憩は千歳と博物館へ行く約束をしていた。
今はそれに向けて、作戦会議の真っ只中だった。
「うーん、博物館でしょう? 濃い色は合わないんじゃないかしら?」
「なるほど! では、これはやめておきます!」
姉の助言を受け、憩は嬉しそうに服を選んでいる。
どうして、こんなときに昔のことを……。
明日、朔夜くんと甘味処に行くから?
だから、あんなことを思い出してしまったのかしら……。
妹を羨んでしまったあの日、和は自分の心に蓋をした。
姉として、最愛の妹を護るために。
その妹が想いを馳せる相手を好きにならぬように。
だから、私は芸花魁として彼と接した。
演じていれば、貴方は私の想いを知らずにいられるでしょう?
だけど、憩ちゃんが千歳くんを選ぶのなら……。
私が貴方を、朔夜くんを選んだっていいのよね――?
「憩ちゃん、私の服も選んでくれる? 明日、朔夜くんと甘味処へ行くことになったの」
「朔夜とですか?」
「そうなの。嫌だったかしら?」
最愛の妹が、目をぱちくりとさせている。
びっくり、させちゃったかしら……。
憩ちゃんは気づいているものね。
朔夜くんが、私に苦手意識を持っていることも。
「いえ! お任せください!」
「ありがとう! 私もかわいいって言ってもらいたいわ」
「お姉様なら、朔夜もきっとイチコロですよ!」
「ふふっ、そうだと嬉しいわ」
明日、私の想いを伝えてもいいかしら?
だけどその前に、私にはやらなきゃいけないことがある――。




