*白銀劇場* 〜とある長兄の裏仕事〜
※本編に全く関係ありません。
時系列でいうと、ぼたん加入後くらい。
これは、とある長兄が密かに行なっている処理のお話――。
この日も旭は、早朝から書斎にこもっていた。
ぼたんという優秀な右腕ができたとはいえ、総司令代理も担っている今、時間は常に足りないくらいだった。
不意に扉が叩かれ、使用人が入ってくる。
「失礼いたします旭様。こちら、先程届きました」
豪奢な作りの封筒を手渡された。
ご丁寧に家紋まで箔押しされている。
使用人が出ていくと、旭は渋々封を開けた。
「またか……」
封筒から出てきたのは、身上書と大量の写真。
そして、長々と書かれた紹介状だ。
「家柄も相楽より低いというのに……」
旭は大きなため息をつく。
憩が白銀に所属し外に出るようになってから、頼んでもいない縁談が毎日来るのだ。
全く、手紙1枚でキミの何がわかるっていうんだ。
こんな不届な奴の元へ、憩を嫁がせるわけがない。
せめて、自ら足を運ぶのが礼儀ではないのか?
挨拶もなしに、紙切れ1枚でどうにかしようとするなんて。
そもそもあの子には、相応しい相手がいるんだ。
ぶつぶつと、身上書を見ながら愚痴をこぼす。
旭は便箋を取り出すと、万年筆を手にする。
几帳面な字で、相手方に手紙を書きはじめた。
拝啓 初夏の候。
先日は妹への手紙、感謝申し上げます。
大変ありがたい申し出ではございますが、
貴殿に対し、我が妹は勿体なく存じます。
目に入れても痛くない大切な妹を、
貴殿の元に嫁がせる気は一切ございません。
誠に勝手ながら、以降の申し出は固くお断りいたします。
敬具
「よし、これでいいだろう」
旭は丁寧に便箋を折りたたみ、家紋が入った封筒へと入れる。
何度同じ文章を綴ったのかなんて、もう記憶にない。
それでも、不届な奴に憩を嫁がせるわけにはいかないんだ。
旭は使用人に封筒を手渡す
「これ、速達で出してきてもらえるかい?
期待させてしまっていると申し訳ないからね」
「かしこまりました。旭様、こちらも先程届きまして……」
申し訳なさそうに差し出される手紙。
これも中身はどうせ同じなのであろう。
「ありがとう。すぐに返事を書くから少し待っていてほしい」
「かしこまりました」
旭は書斎で再び文字を綴る。
重度のシスコン兄貴の手によって、少女の未来は知らぬ間に護られていた。




