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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
第4折 終わりの始まり

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69句 霹靂


「……憩、大丈夫?」

「はい、問題ございません寒凪(かんなぎ)閣下」

 

 (れん)たちと別れた後、千歳と憩は再び挨拶に追われていた。

 ようやくそれにも目処がたち、やっと休憩に入るところだった。


 ……やっぱり表情が暗い、疲れてないわけがないんだ。


「……挨拶もだいぶ済んだし、ビュッフェに行こうか」


 千歳のその提案に、憩の顔がパッと明るくなる。


「よろしいのですか!?」

「……もちろん。好きな物、あるといいね」

「はい、とても楽しみです!」


 千歳が少女の手を取ると、憩は自然と彼に身を委ねる。


「ねぇ、見てあの子……」

「初めて見るわ。今晩がデビューかしら」

「私たちのところには、挨拶に来ていないわよ?」


 ヒソヒソと、名も知らぬ令嬢たちが顔を寄せながら話している。

 言われている本人の耳には入らずとも、千歳はしっかり聞いていた。


 ……憩から挨拶に行く義理ないんだけど。


 そんな千歳の視線に気づいたのか、令嬢たちがいそいそと寄ってくる。

 年頃の令嬢たちからすれば、18歳で将官であり、顔も整っている彼は好物件だ。


「ごきげんよう。(わたくし)たちもご一緒しても?」

「……すみません、パートナーがいるので」


 あっさり断られたリーダー格の令嬢は、隣にいる憩を睨みつける。

 少女は千歳から少し離れると、完璧なカーテシーを披露した。


「ごきげんよう。お初にお目にかかります。相楽 憩と申します」

「さ、相楽ってあの――」

「……相楽侯爵令嬢のエスコートがありますので、失礼します」


 それだけを言い残し、千歳は憩の手を取り去っていく。


「よかったわね、優しいご令嬢で……」

「えぇ、本当に……。家がなくなってしまうわ……」


 取り巻きに慰められながら、令嬢は2人の後ろ姿を見つめていた。




「わぁ、見て! 千歳さん!! お料理がたくさん!」

「……憩、素が出てる」

「あっ……!! も、申し訳ございません……」


 頬を桜色に染めながら俯く憩。

 そんな姿を見て、千歳の目尻が下がる。


 ……やっぱり、いつもの憩がいいな。

 令嬢として振る舞う姿もかっこいいけど、素直な方がこの子らしい。


「……大丈夫。人も少ないし、小声ならいつも通りでいいよ」

「ありがとう! ねぇ、お料理取りに行こう?」

「……うん、そうだね」


 あれと、これと……と、嬉しそうに料理を選ぶ憩。

 その姿を、千歳は隣で眺めていた。


 穏やかな空気が流れる中、悲鳴のような驚嘆のような声が広間に響き渡る。

 人集りができ、急にざわつき始めた会場に、千歳は意識を集中させた。


 ……なにか、あったのか?


 その場で様子を伺っていると、1人の男がこちらへと近づいてくる。

 できていた人集りは、まるで彼を2人の元へ導くかのように道を作っていた。


 男の姿が見えた瞬間、千歳は憩を背に隠した。


「千歳さん? どうしたの?」

「……お願い、そこにいて」


 背筋に冷たいものが走る。

 相手が誰かはわからなくとも、敵であることは明らかだった。


 ……なぜ、特務部隊の大礼服を着てるんだ。


 彼らの大礼服は、縫糸で階級が見分けられるようになっている。

 一般隊士には部隊の象徴である銀糸が使われ、四門にはそれぞれの象徴色が使われる。

 東門なら青、南門なら朱、西門なら白、北門なら玄といった具合だ。


 徐々に近づいてくる謎の男。

 その姿がはっきり見えると、千歳の動揺は最高潮に達した。


「……なんで、お前がその大礼服を」

「なんで、と問われても。これが僕の大礼服だからさ」

「……そんなはずない、それは――」

「あぁ、初めましてだもんね。僕は元東門の相楽 冬至(とうじ)、よろしくね」


 挨拶を済ませると、冬至はにっこりと笑う。

 どこか壊れたようなその笑顔が、千歳の恐怖をより一層煽った。


 ……相楽を名乗れる一族は、この世に1つしかない。

 つまりこいつは、憩や旭さんたちの――。

 

「千歳さん、誰と話してるの?」

「……出てこないで!!」


 千歳の静止も虚しく、ひょこっと背後から顔を出した少女と、冬至は目が合った。


「あぁ……!! やっと……、やっと会えた……!!」

「千歳さんのお知り合い?」

「……違う!! お願い、後ろに隠れてて!!」


 何が目的なのか、千歳にはわからない。

 しかし、相手がまともでないことだけはたしかだった。


「ひどいなぁ……、久々の再会を邪魔するだなんて……。だって僕は――」

「それ以上、憩に近づくな!!」


 怒りに満ちた声が、会場に響き渡る。

 声の主は、いつも穏やかで感情を表に出すことなどない、東門の聖人・旭だった。




「久しぶりだね、旭。こんなに大きくなって、東門まで継いでくれてるんだろう? 僕は嬉し――」

「なんで……、なんで生きているんだ!! 死んでくれたと思っていたのに!!」

「全く、親に向かってその言い方はないだろう?」

「僕も(なごみ)も、あんたがいなくなって清々していたんだ!!」


 怒りのあまり、肩を振るわせる旭。

 状況が全くわからない憩が、兄に声をかけた。


「この人、お父様なのですか……?」

「違うよ、憩! こんな奴、気にしなくていいからね」

「そうだよ憩。ずっと会いたかったよ……」


 手を伸ばしながら近づいてくる冬至を、旭は睨みつける。

 その頃、ちょうどぼたんが全員を集め終わり、白銀の8人が同じ会場に揃っていた。


「嬉しいなぁ、和もいるじゃないか! 久々に子どもたちに会えた。帰ったら(あかり)にも教えてあげないと」

「未だ死んだ人間に縋っているのか。何も変わっていない」


 心底嬉しそうに笑う冬至に、旭は冷たい言葉を浴びせる。

 それを聞いた彼は、不敵に笑って見せた。


「旭は賢いと思っていたんだけど、まだ答えには辿り着いていないのか……」

「なんの話をしているんだ!! いいからさっさとここから――」

「どうして憩の血が、吸血鬼(ヴァンパイア)を強化してしまうと知ってるんだい?」

「それは、お祖父様が――」


 そこまで口にして、旭は言い淀む。


 なぜお祖父様は、憩の血が奴らにとって薬になることを知っていたんだ?

 吸血鬼は、明治初期に西洋文化に紛れて入ってきた。

 奴らが来てからこれまで、黄麟(おうりん)に選ばれた神子は()()()だというのに――。


「まさか……」

「あぁ、そのまさかだよ。灯は生きているんだ! あの日、吸血鬼に襲われたあの日! 灯は吸血鬼になってしまったけど、憩の血を摂取していたんだ!! だからお義父さんは、僕たち2人に城を与えてくれた!!」


 あまりの衝撃に、旭は言葉を失った。

 同時に、千歳の後ろにいた少女は、今まで知らされていなかった宿命と向き合っていた。


 私の血が、吸血鬼を強化する……?


 金色の瞳は吸血鬼を見抜ける、役に立つ力だと思っていた。

 だけど自分が捕まれば、大切な人たちを苦しめる原因にもなる――。


 大好きな人を見上げると、少し悲しい顔で微笑まれた。


 ……そっか、千歳さんは知ってたんだ。

 きっと私以外、みんな知っていることなんだ……。


 憩が俯くと、冬至が明るい声で話しかける。


「憩、僕と一緒に行こう! 灯を助けるのに、憩の力が必要なんだ!」

「ふざけるな!! 憩をお前なんかに渡すわけがないだろう!!」

「なら、力づくで連れていくまでさ。()()()を怒らせるわけにはいかないからね」

「あの方……!? 誰のことを言っているんだ!!」


 旭の言葉など、もう冬至の耳には入らない。

 ゆらゆらと、身体を揺らしながら笑みを浮かべる。


「憩……。僕と灯の幸せのために、死んでくれ」


 一瞬にして、冬至は千歳の背後に回り込む。

 そのまま、娘である憩に向かって純銀のナイフを振り下ろした――。


 

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