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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
第4折 終わりの始まり

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65句 始夏


「さて、みんな準備はいいかな?」


 各々着替えを済ませ、いよいよ会場へと移動する。


「お兄様、お祖父様は出席されないのでしょうか?」

「ごめん、伝えていなかったね。直接会場に向かうと連絡をもらっていたんだ」

「そうでしたか! それならよかったです!」

「総司令だもの。忙しくても欠席するわけにはいかないわよねぇ」


 旭の言葉に、姉妹は安堵の表情を浮かべる。

 祖父であり、特務部隊の総司令である黄山(おうざん)が、屋敷を空けることはこれまでも度々あった。

 しかし、数ヶ月も帰ってこないのは今回が初だったのだ。


「四門が各領土から抜けてしまったからね。大変だと思うよ」

「……それでも、晩餐会には顔を出さなきゃいけない。欠席なんてしたら、面倒ですからね」


 千歳の言葉に旭が静かに頷く。

 特務部隊の体裁を保つのも、総司令としての責務だ。


「なあ、そろそろ行こうぜ! 俺と旭の車で行くけど、どう分かれる?」

「旭といこは一緒の方がいいだろ」

「てことは、(そま)は俺とだけどいいのか?」

「嫌だ、って言ったらテメェ降りんのかよ」

「なんで俺が降りんだよ!!」


 いがみ合いを始めた(れん)と朔夜を見て、旭は大きなため息をつく。


「ほら、喧嘩しないよ。僕たちは早めに着いておかないと」


 全く、この状態で本当に大丈夫なのだろうか。

 僕たちがしっかりしないと、大変なのは彼女たちだというのに……。


「そうだな! よし、さっさと行こうぜ!!」


 漣の言葉でそれぞれ車に乗り込むと、会場へと車を走らせた。




 会場は、厳重な警備体制が敷かれていた。

 入り口にも一般陸軍が待機しており、入場の際には招待状の提示を求められる。

 

「お、恐れ入ります! 招待客のみ、ご入場いただけます!」


 門を警備していた軍人に、8人は止められた。


 この顔に見覚えはない。

 おそらく入隊したばかりなのだろうと、旭は微笑んだ。


「ご苦労様。僕たちは招待されているよ」


 そう伝え、招待状と階級章を見せる。


 致し方ないことだ。

 僕たち特務部隊の大礼服は、一般陸軍たちとはデザインが違う。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が急に現れてもすぐ対処できるよう、華美な装飾もなければ肩章もない。


「た、多大なるご無礼を……」

「気にしなくていいよ、入ってもいいかな?」

「ど、どうぞお通りください!!」

 

 青ざめた表情で敬礼をする若い軍人の肩を、漣が軽く叩いた。




 会場内は、(きら)びやかな装飾で包まれている。

 まばゆいシャンデリアが、キラキラと天井から見下ろしていた。

 

「じゃあ、ここからは各々で」


 旭の言葉に、四門たちは静かに首を縦に振る。

 領土のトップが固まっているのは風紀を乱しかねない。

 若手が将官であることを喜ぶ者は、軍に存在しないからだ。


「憩、千歳のそばを離れないようにね。挨拶には行くけれど、あとは自分で頑張るんだよ」

「はい、お兄様。練習通り頑張ります」

「うん、いい子だね。千歳、悪いけれど頼んだよ」

「……はい。僕が絶対に護ります」


 彼の言葉に、旭は安心したように微笑む。


 あとは、みんなに頑張ってもらうしかない。

 

「……憩、行こうか」

「よろしくお願いいたします、寒凪(かんなぎ)閣下」


 千歳のエスコートによって、憩はホールへと入っていく。

 戦場へと踏み出した妹の背を、旭は静かに見送ることしかできなかった。




 開場はしているものの、まだ会は始まってはいない。

 早めに来たこともあり、給仕たちがわらわらと動いている。

 憩と千歳の2人は、ホールの隅で小さくなっていた。


「……大丈夫?」

「う、うん……。あ、はい……」


 憩は不安そうにそわそわとしている。

 教育自体は受けているとはいえ、実践は初めてだ。

 緊張しているのだろう。

 

「……憩、周りに人もいないから、小声ならいつも通りでいいよ」

「ほ、本当……?」

「……うん、その方が話しやすいでしょ?」


 千歳の言葉に、憩はコクコクと首を縦に振る。


「ご、ごめんなさい……。上手にできなくて……」

「……そんなことない。むしろ付き合わせてごめん」


 本来、軍の晩餐会で憩がここまで萎縮する必要はない。

 身分でいえば、僕の方が明らかに劣っている。

 それでもパートナーとなれば、見られ方は変わってくる。


「千歳さんが一緒だから大丈夫。頑張るね」

「……ありがとう、一緒に頑張ろうね」


 ……僕がしっかりしないと。


 いつもより自信なさげに笑う少女を見つめながら、千歳は決意を改める。

 そんな2人の元へ、近づいてくる者がいた。


「お疲れ様です、寒凪さん! 特務部隊、東領所属の羽田っす!」

「……お疲れ様」


 ……誰、こいつ。


 一応挨拶は返したが、全く記憶にない。

 千歳が特に話をせずにいると、羽田が憩へ声をかけた。


「お嬢、お久しぶりです!」

「ごきげんよう、羽田様。巡回任務以来ですね」

「……憩、知り合い?」

「以前、閣下と屯所の巡回任務についた際、お会いした隊士です」


 先ほどまでの不安げな少女はそこにはいない。

 完璧なカーテシーを決め、凛とした姿で半歩後ろに立っていた。


「そうそう! 忘れるなんてひどいじゃないっすか!」


 ……心底うざい。


 千歳は、今にも口から出そうな言葉を飲み込む。

 憩が頑張っている横で、自分が台無しにするわけにはいかない。

 

「……ごめん、覚えるの苦手で」

「いいっすよ! 今日覚えてってくださいね!」


 変わらない調子で、羽田は千歳に絡む。

 そんな様子を見ていた憩が口を開いた。


「羽田様。(わたくし)たち、ご挨拶回りがございますので」

「あ、そうっすよね! そろそろ始まりそうですし、北門って大変すね〜」


 羽田はひらひらと手を振りながら去っていく。

 2人きりになった途端、憩が大きなため息をついた。


「き、緊張した……。大丈夫だったかな?」

「……すごく、かっこよかったよ。また好きになった」

「えへへ、嬉しい」

「……もう始まるから、またよろしくね」


 その言葉に、憩は微笑みながら頷く。


 ……ここからが本番だ。


 千歳が小さく息を吐くのと同時に、晩餐会が始まった。



 

「失礼いたします。総司令、お久しぶりです」

「旭、久しぶりじゃな。しばらく本部を任せてしまってすまなかった」

「いえ。東門として、相楽の長子として当然のことですから」


 祖父の言葉に、旭は淡々と答える。

 しかし、黄山の視線は彼ではなく、隣にいるパートナーへと向いていた。


「ご紹介が遅れました。私の専属書記をしていただいている、雲居(くもい) ぼたんさんです」

「お初にお目にかかります。雲居 ぼたんと申します」


 本紫色のドレスを持ち上げ、完璧なカーテシーを披露する。

 その姿に、黄山は満足そうに首を縦に振った。


「そうか、旭にもようやくそんな相手が……」

「いえ、業務上の付き合いですので」

「今日のところはそういうことにしておこうかのう」

「お祖父様!」


 黄山の茶化すような態度に、旭の素が漏れ始める。


「相楽中将閣下。総司令閣下もお忙しいでしょうし、この辺りで」

「ほほう、いい子を選んだじゃないか旭! 儂は大歓迎じゃよ!」


 まだ何か言いたげな孫を残し、黄山はその場を後にする。

 残された旭は、ため息をつくと静かに頭を抱えた。


「ごめんね、ぼたん……。お祖父様はああいう方なんだ……」

「いえ。とても仲がよろしいのが伝わってきて、嬉しかったですよ」

「それならいいんだけれど……」


 広い会場を見渡すと、漣・朔夜・千歳の姿が目に入る。


「みんな、頑張っているようだね」

「そのようですね。私もしっかりやります」

「大丈夫だよ、ぼたんはいつも完璧だからね」

「ありがとうございます」


 旭が手を差し出すと、ぼたんがそのエスコートに応える。


 やはり、彼女を選んでよかった。


 旭が隣のぼたんへと信頼を寄せる中――


「この、一家の恥晒しが!!」


 会場に、大きな怒号が響き渡った。


  

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