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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
第4折 終わりの始まり

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64句 木下闇


「早く甘味来ないかなー」

「今頼んだばっかだろ……」


 憩と朔夜は甘味処へと来ていた。

 視察から戻ってきた千歳にも声をかけたのだが「久しぶりに(そま)さんと2人で行ってきなよ」と送り出されたのだ。


「千歳さんも一緒に来たかったなぁ」

「また次来ればいいだろ」

「そうだね……!」


 返事はしてっけど、寂しんだろな。

 

 久々に2人で出かけられたのは、朔夜としてももちろん嬉しかった。

 だがそれで、憩が喜ばないのであれば不本意だ。


 ……だから余計な気ぃ遣わなくていいのによ。

 つーかあいつ、後輩のくせに生意気だな。


「ねぇ、お姉様と来たとき、朔夜は何食べたの?」

「うん? (なごみ)のあまりだよ。あいつ、頼むだけ頼んで全部残すからな」

「そうなんだ! それお兄様にも同じことして、いつも怒られてるよ」

「だろうな」


 まぁ、旭のことだから、叱りつつも食ってやるんだろ。

 

 2人のやりとりが容易に浮かび、思わず笑みがこぼれる。


「失礼します! みつ豆、ぜんざい、おはぎ、豆大福をお持ちしました」

「ありがとうございます!」


 姉妹で頼み方はそっくりだが、憩はこれを1人でペロッと平らげる。

 むしろ足りないくらいだ。


「はい朔夜! どうぞ!!」


 ズイッと、みつ豆の乗ったスプーンを憩に差し出される。

 

 前にも同じようなこと、あったな……。


 朔夜は少し懐かしく思いながら、そのスプーンを制した。


「いこ、同じことを寒凪(かんなぎ)が和にやったらお前どう思う?」


 朔夜の言葉に、憩は目をぱちくりとさせるばかりで返事はない。

 

 やっぱりわかってねぇか。これは、あいつも大変だよな……。

 

 少し千歳に同情しつつ、朔夜は再び口を開く。


「寒凪が和に、同じスプーンで甘味食べさせてたら、いこは嫌じゃねぇのか?」

「千歳さんが、お姉様に?」

「そうだ。嫌じゃねぇのか? 踊ってるだけで嫌だったくせに」

 

 千歳さんが、お姉様にみつ豆を食べさせてたら……?

 そんなこと、考えたくない。

 そんなの、そんなの絶対に嫌だ!!


「嫌!! 千歳さんがお姉様とお出かけしてるのも嫌!!」

「だろ? だから俺にもするな。自分がされて嫌なことは、相手にしちゃいけねぇのわかってるだろ?」


 眉を下げながら、憩はこくりと頷く。


「だから朔夜は、千歳さんに許可取るように言ったの?」

「そうだ。嫌だろ? 知らないうちに出かけてたら」

「そう、だね……」

「わかったなら、落ち込んでないでさっさと食え。時間なくなんぞ」

「うん! 朔夜に半分あげる!」


 楊枝で半分に切られたおはぎを、笑顔で差し出された。

 

「ありがとな。土産も買ってくか?」

「いいの!?」

「あぁ。だから早く食え」

「うん!」


 穏やかな兄妹の時間が流れていくのを、朔夜は感じていた。




「いいのかー? 2人で行かせて」

「……別にいいでしょ。杣さんだし」

「とか言って、本当は気になんだろー?」

(れん)さん、あんまり言うのは失礼だよ」


 漣、千歳、夕梨(ゆうり)は、居間で紅茶を飲んでいた。

 共通の話題といえば、先程見送った朔夜と憩のことである。


「だってよー、心配じゃね? 憩なんて、距離近えしよー」


 漣の言葉に、千歳の顔が強張る。


 ……細小波(いさらなみ)さんの言うように、憩はたしかに距離が近い。

 だけど、相手は杣さんだ。何かあるわけない。


「……2人は、家族みたいなものだし」


 そうだ。あの2人は家族みたいなものだ。

 それ以上はないって杣さんも言ってたし、憩も僕のことが大好きだって言ってくれた。

 だから大丈夫だ。そう思わないと、居ても立っても居られなくなる。


「よし! 迎えに行くか!!」

「……え?」

「まだ時間あるし、俺も甘味食いてえしさー!」


 細小波さんが勢いよく立ち上がった。

 僕への気遣いが3割と、後は2人への興味が7割ってところだろう。


「寒凪も行くだろ? 夕梨はもちろん来るよなー!」

「私はついていくけど……。いいのかな、2人の邪魔をして」

「別にいいだろ! 同じ席に座るわけじゃねえし!!」


 当たり前でしょ! と、細小波さんが夕梨さんに叱られている。

 

 ……本当にこの2人、お似合いだな。

 

 2人のやりとりを見ていると、憩に会いたくてたまらなくなった。

 同じ屋敷で生活してるから、ほんの数時間会ってないだけなのに。


「……僕も行く」

「よし! じゃあ行こうぜ!!」


 ニカっと笑う細小波さんが、任務中よりも頼もしく見えた。




 お土産を買い終わった2人が甘味処を出ると、見覚えのある3人が近づいてきているのが目に入った。


「あ! 千歳さんだ!」

「いこ!! 転ぶから走んな!!」

「千歳さん!!」


 そんな朔夜の声は届かず、憩は想い人目掛けて走っていく。


 あのバカが!! すぐ転ぶくせに!!

 

 すぐに追いかけたが、後の祭りである。

 誰が見てもわかるほどに、憩は盛大に(つまず)いた。


「あっ……」


 地面がどんどん近づいてくる。

 お兄様にもお姉様にも、絶対にケガをしないようにって言われてるのに――。


 憩はギュッと目を閉じた。



 

 ……あれ? 痛く……ない?

 

 転ぶと思った身体は、なぜか宙に浮いていた。

 

「……よかった、間に合って」


 その声に憩が顔を上げると、千歳が肩で息をしながら安堵の表情を浮かべていた。

 右腕で憩の腰あたりを抱えており、そのおかげで転ばずに済んだのだと状況から理解した。

 千歳は腕の力を緩めると、そっと憩を下ろす。


「あ、ありがとう千歳さん」

「……ううん。大丈夫? 痛くなかった?」


 咄嗟だったとはいえ、勝手に触れてしまったし、結構力も入れてしまった。


「大丈夫! ありがとう!」

「……そっか、よかった」


 憩の笑顔に、千歳はホッと胸を撫で下ろす。

 

 ……憩の腰、すごく細かったな。

 

 そんな邪な感情が入り混じり、振り払うかのように頭を振った。


「どうしたの?」

「……なんでもないよ」


 2人が話をしていると、追いかけてきていた3人も集まっていた。


「いこ!! だから走んなって言ってんだろ!!」

「ごめんなさい……」

「寒凪がいなかったら、お前ケガしてたんだからな!!」

「はい……」


 杣さんに叱られ、憩はシュンとしている。

 周りから見れば、だいぶ過保護に見えるだろう。

 でも、そうしなければいけない理由が僕たちにはある。


「まあ、無事だったんだからいいだろ!! にしても、寒凪がすげー速さで走ってったから、何事かと思ったぜ」

「ね、すごい速さだったよね!」

 

 ただ、憩が僕の名前を呼びながら駆けてきたのが愛おしくて。

 早くそばに行きたくて、それで向かっていっただけだった。

 でも、結果としてそれで憩を護れたから、思うまま走ってよかった。


「つーか、お前らなんでここにいんだよ」

「俺も甘味食いたくなっちまってよー!」

「あ、それならお土産ありますよ?」

「マジかよ!! ありがとな!!」

 

 叱られたばかりのため、憩は少し遠慮がちに会話に混ざっている。

 せっかく杣さんと2人で出かけたのに、この子はまた他人のことばかりだ。

 3人のやりとりを見ていると、憩が僕の顔を見上げた。


「千歳さん、迎えに来てくれてありがとう!」

「……ううん、僕が会いたかっただけだから」

「私も! 私も千歳さんに会いたかった!!」


 必死に想いを伝えてくれるこの子が、愛おしくてたまらない。

 

 恋人のようで、両想いなだけの僕たち。

 憩が恋を知るまで、僕は今のままで構わない。






























 

 ――同時刻、某所。

 

 そこに、特務部隊の総司令官である黄山(おうざん)の姿はない。

 昨日早朝、晩餐会に向けてこの()を出立していた。


(あかり)、また2人きりになれたね。よかったよかった」


 声の主は、虚な瞳でただ一点だけを見つめていた。


「今日は久しぶりに晴れているよ。晩餐会だからかな?」


 問いかけても、相手からの返事はない。

 

「まだ眠っているのかい? 僕は今日、やらなきゃいけないことがあるんだ」


 立ち上がると、椅子に固定されている愛しい妻の元へと向かう。

 

()()()が、僕たちにチャンスをくれたんだ」


 椅子に繋がれた鎖が、醜い音を立てる。


「ごめんね灯、もう少しの辛抱だから。だから、全てが終わったら……。また冬至(とうじ)って呼んでくれる?」


 焦点の定まらぬ妻を、冬至は愛おしそうに見つめた。

 

 

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