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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ


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緋の瞳

「いこ、大丈夫か?」

「大丈夫、これぐらい平気」

 2人は目的地に向かって走っていた。

 ガス灯の光が溶け込んだのか、憩の金色の瞳は緋色に輝いている。

「偵察する場所って遠いの?」

「今回は近ぇ方だな。遠い時は、現地に泊まることもあるぞ」

「そうなんだ! お泊まりなら美味しいものたくさん食べられていいね!」

「お前はまた食い物の話かよ……」

 朔夜は呆れながらも、自由に羽ばたいている憩の姿が嬉しかった。

 これまで出来なかったことを、好きなだけさせてやりたい、そう思った。

「……あ、やっと来ました」

 2人の姿を見つけた千歳が指を差す。

「おい寒凪(かんなぎ)、人に指差すのは失礼だって教わんなかったのか?」

 バッと朔夜が千歳の手首を掴む。

「朔夜、すぐ喧嘩腰にならないの。

 千歳様、お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした」

 憩は千歳の手首から朔夜の手を解く。

「……別に大丈夫。あと、千歳でいいから」

「よくねぇよ!! しつけぇんだよテメェは!!」

「はいはい、朔夜。仕事だから落ち着こうか」

 旭が仲裁に入ると、2人とも大人しくなる。

「憩、僕の隊服でも大きかったね。動きにくくはないかい?」

「はい、問題ありません。袖も朔夜が捲ってくれました!」

「へぇ、そうかい。朔夜がね……」

 旭は意味深な顔で朔夜を見る。

「おい、いこ余計なこと言うなよ!!」

「どうして? 髪も結ってくれたのに」

「憩の髪、(そま)が結ってるのか!! もしかして、昨日もか?」

「はい! このリボンも、朔夜が京で買ってきてくれたもので」

 ニヤニヤしながら問う(れん)に、憩は嬉しそうにリボンを見せる。

「いこ、頼むからもうやめてくれ!!」

「……この人たち、仕事に来てる自覚ある?」

 千歳はため息をついた。


 今回の任務は、行方不明者が増えている地域にある、市井(しせい)の偵察だ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が関係しているのか否か、それが明確にならない限りは、特務部隊も迂闊に行動できない。

「ねぇ、朔夜。偵察って何するの?」

 憩は口に串カツを運びながら問う。

「まぁ、人の流れを見たり、あとは吸血鬼(奴ら)が隠れやすいところはねぇかとか、色々だ」

「ふーん、じゃあこの間みたいに戦ったりはしないの?」

「人通りが多いところでは戦わねぇよ。巻き込んだら大変だし、特務部隊(俺たち)は目立たない方がいい」

 朔夜は憩の口元に付いたソースを拭ってやりながら答える。

「憩には、そのあたりからきちんと教えないとダメだね」

 旭は空になった皿を寄せながら、憩に笑顔を向ける。

「つーか暇だなぁ、騒ぎも起きねぇし。ハズレじゃね?」

「漣、騒ぎなんて起きない方がいいだろう? 憩も初任務なんだ」

「そうだけどよぉ、流石に暇すぎねぇか?」

「……ご飯食べてますしね、僕たち」

 5人は偵察も兼ねて、小さな串カツ屋台で食事をしていた。

 あまり生活様式が整っていない地域で資金を使うのも仕事の一環だ。

「憩、あまり食べすぎないでよ。目立つからね」

 10本目の串カツに手を伸ばす憩に、旭は声をかける。

「では、これで最後にします……」

「もう十分、目立ってるけどな」

 朔夜が辺りを見ながらつぶやいた。

 道ゆく人々が憩をまじまじと見ながら通り過ぎていく。

 楚々(そそ)とした少女が隊服を着て、串カツ10本をペロリと平らげているのだ。目立たない訳がない。

「……どいつもこいつもジロジロ見んじゃねぇよ」

「おい、杣。一般人に喧嘩売るなよ、ガキだなー!!」

「おいテメェ、表出ろや!!」

「……どっちもガキだよ」

「全く、漣と朔夜が揃うとこれだからなぁ……」

 旭は2人を見ながら呆れたようにつぶやく。

 ふと、旭は憩が全く喋らなくなったことに気づいた。

 食事をする手も止まり、一点を見つめている。

「憩、喋らないけれど、疲れたのかい?」

 旭の言葉に、3人の視線が一斉に憩に集まる。

「いこ、どうした? どこか具合でも悪いのか?」

「……ううん。ねぇ、朔夜。あそこにいる人って、人に見えてる?」

 憩の視線の先には、スーツを着た長身の男がいた。

「はぁ? 人なんだから人に見えてるだろ。何言って……」

 答えながら憩に目をやった朔夜は、言葉を失った。


「朔夜、どうしたんだい?」

「……旭、あそこの角にいる男、吸血鬼(奴ら)かもしれねぇ」

「……理由を聞かせてくれる?」

「いこの目、見てください」

 旭は朔夜に促されるまま、憩の目を見る。

 金色の瞳が、淡い緋色に輝いていた。

「これは……。憩、あの男はどんな風に見えてる?」

「はっきりと、姿が見えなくて……。人型の黒いもやがかかっているような感じです……」

 憩の言葉を聞いて、旭の目の色が変わる。これまでの穏やかな表情はない。

「漣、千歳。頼む」

「「了解」」

 旭が指示を出すと、2人はすぐさま男に近づく。

「おにーさん、すいませんねぇ。ここで何してるんすか?」

 漣のその言葉に、男は急いで踵を返そうとした。

「……残念。僕もいますよ」

 千歳が男の背後をとる。

『チッ……、何故分かった。気配は完全に消していたのに!!』

白金(うち)には、かわいい歌姫(カナリア)がいるもんでなぁ」

『カ、カナリアだと!? ……あの娘か!!』

 (獲物)を見つけた男は近寄ろうとするが

 ジャラッ……と、純銀製のチェインを取り出した千歳に行手を阻まれる。

「……あの子のところには行かせないよ」

『ガキが!! 調子に乗るなよ!!』

 男は千歳に殴りかかろうとしたが、易々と手首を捻られる。

「……ねぇ、選ばせてあげようか。

 これに縛られてじわじわ苦しんで死ぬのと、

 脳天ぶち抜かれて一瞬で死ぬのどっちがいい? あ、どっちにしても心臓(トドメ)は刺すけど」

 男にチェインを見せながら冷たく笑う。

「おい、やめろよ寒凪。そんな虐めたらかわいそうだろ?」

「……なら、細小波(いさらなみ)さんが楽にしてあげればいいじゃないですか」

「それは名案だな! ここじゃまずいからあっちに連れて行こうぜ!」

「……そうですね。念の為、縛っておきます?」

「バカ、それじゃ結局お前がやんのと変わんねぇだろ?」

「……確かに。じゃあ、このまま連れて行きましょう。

 ほら、さっさと歩けよ」

 2人は男を連れて路地裏へと入っていった。


 漣と千歳が路地裏に入ってからしばらくすると、憩の瞳は元の金色に戻っていた。

「いこ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ……」

 そうは言ったが、身体がものすごくだるい。

「憩、どこか痛かったりはしないかい?」

「はい、大丈夫です。どこも痛くありません」

「そうか、それなら良かった。

 朔夜、憩を連れて先に帰ってくれるかい? 僕は後処理があるから」

「分かりました。いこのことは任せてください」

「あぁ、頼んだよ。報告も済ませておくから、着いたら朔夜も休んでくれ」

 旭は朔夜の肩を叩くと、2人が入っていった路地裏へと姿を消した。

「いこ、帰るぞ」

「うん……」

 憩は立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

「どうした? やっぱりどっか痛ぇのか?」

「なんか、足に力が入らなくて……」

「……疲れたんだろ、初任務だったしな」

「えへへ、そうみたい……」

 憩の作り笑いに朔夜は気づいていた。

 憩の前にしゃがみ込んで、背を向ける。

「ほら、乗れ。さっさと帰んぞ」

「え、でも……、重いし……」

「お前みたいな細っこ、重くもなんともねぇよ。さっさと乗れ」

 朔夜に促され、憩はなんとか立ち上がると朔夜の背に身体を預ける。

「しっかり捕まっとけよ……」

「うん、ありがとう……」

 朔夜は憩を背負うと、市井を後にした。


 帰り道、憩は4年前の花火大会と今を重ねていた。

 あの時よりも広くなった背中に、伸びた身長、引き締まった身体、

 何もかもが4年前とは変わっていて、まるで別人のようだと思った。

「ねぇ、朔夜。花火大会のこと、覚えてる?」

「いこがはしゃいで、足挫いた時のか?」

「ふふっ、そうそう。まだ覚えててくれたんだね」

「忘れるわけねぇだろ」

「そっか、嬉しいなぁ……」

 憩は思わずギュッと背に抱きつく。

 大人になって変わった部分は多いが、匂いだけはあの日のままだ。

「なぁ、これからは窓から脱走しなくたって、どこでも行けるぞ。

 いこが行きたいとこ、食べたいもの、やりたいこと、なんでもさせてやる。

 だから……、俺以外にそういうことすんなよ」

 今の朔夜にとって、これが精一杯の言葉だった。

 が、憩からの返事はない。

「……なぁ、せめてなんか言ってくれよ恥ずいだろ」

 と、声をかけた時、すぅ…すぅ…と寝息が聞こえた。

「……寝てんのかよ。ったく、お前らしいな」

 朔夜は憩を背負い直す。背中に感じる温もりに、思わず笑みが溢れた。

明日から更新日時が変わります。

詳しくは活動報告をご覧ください。

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