歌姫
「そうじゃ、白銀の5人目は憩、お主だ。しっかり励むように」
「は、はい……!!」
黄山に白銀への配属を告げられ、憩は嬉しそうに返事をする。
(やった!! これで朔夜と一緒に居られる……!!)
憩の顔が思わず綻んだ。
喜んでいる憩とは裏腹に、旭と朔夜の顔は険しい。
「憩を白銀に入れるだなんて、正気ですか!?」
「なんじゃ、旭。総司令である儂の目に狂いがあると言いたいのか?」
「そういうわけではありませんが……。朔夜も反対だろう?」
黄山の圧に耐えられず、旭は朔夜に助け舟を求めた。
「俺は……、いこを危険な目に合わせたくない。
でも、いこが望むなら、それを叶えてやりたい。そう、思っています」
朔夜は憩を真っ直ぐ見つめながら答えた。
憩はその言葉を聞いて、金色の瞳を細めながら微笑む。
「お熱いねぇ……、本人理解してないけど」
「……ちょっと、重いんですけど」
漣は千歳に寄りかかりながらつぶやく。
朔夜は黄山の前に立つと
「……爺さん、いこを白銀に入れる理由はなんですか?」
と、皆が1番気になっていることを問うた。
「うむ、そうじゃな。それについてはきちんと話そう。少し長くなる。皆、楽にしなさい」
黄山はそう答えると、使用人を呼んだ。
6人は書斎のソファに腰をかけていた。
そこに、使用人がお茶とお菓子を持ってくる。
「お祖父様、これ食べてもよろしいですか?」
「いこ、これから大事な話をするんだから、後にしろよ」
「だって、お腹空いてきちゃったんだもん」
「終わったら、なんか食いに連れて行ってやっから。爺さん、いいですか?」
「構わんよ。もう憩も白銀の一員じゃからな」
「だってよ、だから今は我慢しろ。な?」
「うん!! 楽しみだなぁ」
憩は嬉しそうに笑う。
「では、話そうかのう。憩を白銀に入れた理由はな、女子がいた方が華があるからじゃ!」
カカッ、と黄山は楽しそうに笑う。
「……お祖父様、ふざけるのはやめてください」
旭がものすごく怖い顔で黄山を見る。
「ふざけておらんよ。最近の吸血鬼の動きは、旭も知っておるじゃろ?
眷属が現れるばかりで、吸血鬼は姿を現さん。これは実にまずい状況じゃ」
「確かに、最近の吸血鬼の動きはおっしゃる通りです。ですが、それと憩にどんな関係が……」
「爺さん、まさかいこを囮に使う、なんて言わないですよね?」
朔夜がそう発言すると、憩以外の視線が朔夜へと向く。憩はお菓子に釘付けだった。
「なんじゃ、朔夜もそのようなことを申すのか。まだまだじゃのう」
黄山はやれやれ、というような表情をすると
「囮ではない。憩は歌姫として、白銀を護る最強の矛じゃ。これは憩にしかできぬ役割じゃよ」
そう、きっぱりと告げた。
「最強の矛、って言っても憩は戦ったことねぇよな?」
「もちろん。剣術や武術は稽古の一環で身についているけれど、実戦で使えるかどうか……」
あの後、
「そういうことじゃからの、では解散!!」
という黄山の一言で会議は終了、お腹を空かせた憩を連れて朔夜は外出していた。
残された旭と漣、千歳の3人は客間へと移動し、先ほどの話を振り返っていた。
「それにしても、まさか憩が5人目だとはなぁ」
漣は紅茶を啜りながらつぶやく。
「僕も驚いたよ。お祖父様から、白銀は憩を護るために結成したって聞いていたからね」
「……へぇ、そうなんですね」
「お前、知らなかったのか?」
「……はい、興味もなかったので」
「じゃあ1個、面白いこと教えてやる!! 杣は憩のことが好きだから、揶揄うと楽しいぞ!!」
漣は千歳の背中をバンバン叩きながら話す。
「……痛いんですけど。それに、言われなくても知ってますよ。あんなに分かりやすいのに」
「千歳、あの2人にはそのこと言っちゃダメだよ」
「……分かっています。なんか……面白そうだし」
「なんだ、寒凪とは気が合いそうだな!!」
漣は千歳の頭をガシガシ撫でる。
「……この人、距離感おかしいです」
千歳は漣を指差しながら旭に助けを求める。
「漣はそういうやつなんだ、諦めてくれると助かる」
旭は眉尻を下げながら笑った。
一方、憩と朔夜は近くの甘味処に来ていた。
「えっと、みつ豆とおはぎとおだんごも食べたい!」
「はいはい、どうぞ」
「朔夜は何食べるの?」
「俺は別にいいよ、茶飲んでるわ」
「そっか……」
憩はあからさまに落ち込んだ顔をした。
「……いこのだんご、1個もらってもいいか?」
憩の顔がぱぁぁぁっと明るくなる。
(分かりやすいやつだな……)
朔夜は思わず顔が綻んだ。
「じゃあ、朔夜が好きなみたらしにしようかなぁ」
嬉しそうに話すと、注文を済ませた。
「美味しかった!」
「それは良かったな」
甘味処を出た2人は、屋敷へと向かっていた。
「朔夜は夜、偵察に行っちゃうんだっけ」
「あぁ、旭が担当しているとこの手伝いでな」
「そう、お兄様の……。頑張ってね!」
憩は寂しさを押し殺し、無理に笑って見せた。
「……爺さんから許可下りたら、いこも一緒に行くか?」
「え……? いいの?」
「いこも隊に所属するし、来て損はねぇからな。
それに、俺と離れるのが随分寂しいみてぇだしよ」
朔夜は笑うと、憩の頭を優しく撫でる。
「だって、やっと会えたんだもん……」
憩は後悔しないよう、素直に気持ちを伝えた。
「そうだな、でもこれからは嫌でも一緒だぞ。5人で行動するからな」
朔夜にとって他3人は特に必要なかったが、致し方ない。
「ふふっ、朔夜と居られるの嬉しいなぁ……」
憩は嬉しそうにつぶやく。
あっという間に屋敷へと着いた2人は
「んじゃ、爺さんとこ行くか」
「うん! 許可もらえるかなぁ」
と、黄山の居る書斎へと向かうのだった。
その夜、無事に許可を得た憩は、隊服に着替えていた。
「朔夜、隊服って結構硬いんだね。それに重い!!」
「いいからさっさと着替えろよ」
「待って! 後ちょっとだから!!」
白銀としての隊服がまだ間に合っておらず、旭のものを借りていた。
旭たちは憩を朔夜に任せ、先に任務へと向かっていた。
バン!!と憩は勢いよく扉を開ける。
「お前……。扉壊れっから、そんな勢いよく開けんなよ」
「見て見て!! お兄様のだからすごく大きい!!」
と、裾を持ち上げながら、ぶかぶかの隊服姿で部屋から出てきた。
長身だが細身の旭の隊服でさえ、小柄で華奢な憩にはだいぶ大きかった。
朔夜は一瞬、その憩の姿に言葉を失った。
「……朔夜? どうしたの?」
「……本当にお前はいい加減にしろ!!
裾も袖も捲れ!! 髪を結え!! 危ねぇだろバカ!!」
憩の言葉で我に返った朔夜は、憩の袖を捲ってやる。
憩の細く白い腕が、ちらりと袖からのぞき、朔夜は少しドキッとした。
「ねぇ、この髪型じゃダメなの?」
憩は、昨晩やってもらったようにハーフアップにしていた。
「あぁ、ダメだ。引っ掛ける可能性があるからな」
「そっか、朔夜にもらったリボン付けたかったのにな」
憩はがっかりしながら、リボンに手を伸ばす。
「ったく、結ってやるよ。時間ねぇから簡単なやつだけどよ」
「いいの!? お願いします!!」
憩は嬉しそうに朔夜に背を向ける。
スルッ、と朔夜の指が憩の髪を撫でる。
2本のおさげを作り、それを交差させて後頭部へと持ってくると、その結び目の中央にリボンを飾った。
「ほらよ、これでリボンも付けられただろ?」
「すごい!! 朔夜は器用だね! ありがとう」
「別に……、このリボン買った時に聞いただけだよ。
それより出発するぞ。旭たち、だいぶ待たせてるからな」
「うん!!」
準備を整えた2人は、闇の中を駆けていく。
歌姫が、籠の中の鳥を脱した瞬間だった。
明日更新の7話以降は
【火・金の20:50】になります!
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※明日は16:50更新です!




