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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第3折 それぞれの想い

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55句 花鳥の使い


「きゃっ!」

 

 憩に押され、(なごみ)がよろめく。

 

「……危ない」

 

 その身体を咄嗟に支えたのは千歳だった。

 

「ありがとう、千歳くん」

「……いえ。憩、急に押したら危ないよ?」

「だって……」

 

 そうつぶやくと、憩は俯いてしまった。

 ……どうしたんだろう。

 急にこんなことをする子じゃない。

 何か、必ず理由があるはずだ。

 

「……憩、どうしたの?」

「嫌だったんだもん……」

「……嫌? 何が嫌だったの?」

「千歳さん、お姉様と楽しそうにしてた……。

 手、繋いでた! 顔も近かった! 全部嫌だった!!」

 

 ……え? それが理由?

 そんな……、それって……。

 いや、違う。勘違いするな。

 それに、こんなときに喜んでいる場合じゃない。


 憩は泣きそうな顔で、下唇を噛み締めながらグッと拳を握りしめている。

 

「憩、それでも急に押したら危ないよね?

 もしあのまま転んで和が怪我でもしたら、どうするんだい?」

「だって、お姉様が……」

「いこ、ちゃんと和に謝れ」

「でも……」

「おいおい、そんなみんなで責めなくたっていいだろ!?

 嫌だったんだから、仕方ねえじゃんか!! なー?」


 兄に続き朔夜にも叱られる憩を見て、(れん)が口を挟んだ。

 

「憩ちゃん、ごめんなさいね。

 でも、私は千歳くんと踊っていただけよ?」

「……お姉様のペアは朔夜ですよね?

 どうして、千歳さんと踊るんですか!?」


 和に声をかけられ、落ち着きつつあった憩の声に再び熱が籠る。

 千歳さんは私のペアなのに、どうして踊るの!?

 お姉様は、千歳さんがよくてそうしたんだ!!

 

「……僕がお願いしたんだ。

 だから、和さんが悪いわけじゃないよ」


 感情が昂っている憩に、今度は千歳が声をかけた。

 僕は、憩と踊りたかったんだ。

 だけど、今のままじゃリードしてあげられない。

 だから、和さんに教えてもらってただけなんだ。

 

「千歳さんがお願いしたの……?」


 ――僕がお願いしたんだ。

 その言葉が、胸に刺さって痛くて苦しくてたまらない。

 みんな、やっぱりそうなんだ……。

 

「……うん。だって僕、憩と――」

「やっぱりみんな、お姉様がいいんだ!!」

 

 憩は泣き喚くと、稽古場を飛び出していった。

 静まり返った部屋に、旭のため息だけが響く。


「とりあえず、これでは練習にならないから書斎に移動しよう」

「私は憩さんのところに行きますね」

「うん。頼んだよ、ぼたん」

 

 ぼたんは頭を下げると、憩の後を追う。

 残された6人の間には、耐え難い微妙な空気が漂っていた。



 

「憩ちゃん、大丈夫かな……?」

「大丈夫だろ! 憩は強い子だからな」


 書斎に移動した6人は、ソファに腰を掛けていた。

 憩を心配する夕梨(ゆうり)の肩を、漣が静かに抱いている。

 

「ごめんね千歳。完全に憩の八つ当たりだ」

「……いえ。僕の伝え方が悪かったので」

 

 ……理由からきちんと説明すればよかったんだ。

 それなのに、端的に伝えたから誤解させて、また泣かせてしまった。

 

「全く……。

 こうなることがわかっていて、わざとあんなことをしたんだろう?」

「だって、とってもいじらしいんですもの」

「こうなったら意味ねぇだろうが」

「もう、朔夜くんまで……。

 だからやりすぎたと思っているわよ」


 旭、和、朔夜が何やらコソコソ話しているが、千歳は今それどころではなかった。

 先程の憩の悲しそうな顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

 

 ……憩。

 隣で笑っていてほしかったのに、僕が傷付けてしまった……。

 自分の気持ちを伝えるって、約束したばっかりなのに。

 

「千歳は憩のこと、どう思っているんだい?」

「……えっ」

 

 急に話を振られ、間抜けな声が出た。

 微笑みながらも真っ直ぐに千歳を見つめ、旭は話を続ける。

 

「白銀の仲間、友達ぐらいの感覚なのかな?」


 ……たしかに、最初はそうだった。

 旭さんの妹で、ちょっと変わった面白い子。

 でも、一緒に過ごして、憩といるとすごく楽しい、落ち着くってことに気づいたんだ。

 自分が誰かとこんなに話すことも、出かけることも、ましてや好きになることも、想像なんてしたことがなかった。


 こんな僕を変えてくれたのは、憩なんだ――。

 

「……僕は、憩のことが好きです。

 仲間として、友達として、1人の女の子として。

 憩には杣さんがいるのもわかっています。

 でも、それでも……、僕を選んでほしいと思っています」

 

 千歳の答えを聞き、旭は静かに頷くと口を開いた。

 

「うん。千歳の気持ちはよくわかったよ。

 じゃあ、朔夜はどうかな?」

「あー……、俺もいこのこと好きだけど、寒凪(かんなぎ)とは違います」


 その言葉を聞いて、千歳は普段絶対に出さない大声を上げた。

 

「……またそれですか!?

 僕には勝ち目がないって言いたいんですね!!」

「いや、だから違ぇって言ってんだろ!?」

「……何が違うんですか!?

 そうやって曖昧な態度を取るから、憩だって……!!」

「話を聞けよ!!

 俺の好きは、お前の言う好きじゃねぇの!!」

「え!? お前、憩のこと好きじゃねえのか!?」


 2人の言い合いに口を挟んだのは漣だった。

 そんな千歳と漣の様子に、はぁ、と朔夜が大きなため息を吐く。

 

「好きの種類が違ぇの!!

 俺は、いこに対して恋愛感情なんてねぇんだよ。

 あいつのことは好きだけど、それは家族としての好きだ!!」

 

 ……え? 家族としての好き?

 じゃあ、(そま)さんは敵ではないのか……?

 でも、憩は杣さんのこと好きだから……。

 

「おいおい!! それマジかよ!?」

「朔夜くんはね、憩ちゃんと口づけしたいとは思わないんですって!」

「へぇ、口づけねぇ……。朔夜はそこまで考えたんだ」

「お前、旭の前で変なこと言うんじゃねぇよ!!

 

 口づけ……、口づけか。僕は憩と口づけしたいのかな。

 は……? 僕はなんてふしだらなことを考えてるんだ。

 そもそも僕たちはそういう関係性じゃない。

 そういうことは、きちんと手順を踏まないと。

 そうだ。きちんと挨拶をして、それから……。

 

「ねぇ、漣さん。寒凪さん固まっちゃったよ?」

「おーい、寒凪!! 大丈夫かー!?

 お前らが変なこと言うから、寒凪おかしくなっちまったぞ!」

「あらあら、ウブでかわいいじゃない」

「そういうこと言うから、いこが怒るんだろ?」

「晩餐会の前に、まずはこの問題からか……」


 人の恋路に盛り上がる4人をよそに、旭は静かに頭を抱えた。


 


「憩さん、大丈夫?」

「すみません……。はしたないところをお見せしました……」

 

 つい先程まで、憩さんは私の胸で泣いていた。

 今は鼻水もおさまり、少しは落ち着いたみたい。

 

「ううん、私はそうは思わなかったよ。

 むしろ憩さんは、いつも我慢しすぎだと思う」


 ティッシュを渡しながら、ぼたんは憩ににっこり微笑む。

 あなたはまだ16歳なんだよ?

 もっとわがままを言ったっていいし、今日みたいに怒ったって、泣いたって、騒いだっていいんだから。

 

「そう、でしょうか……。

 お姉様のことは大好きなんです。自慢のお姉様なんです。

 でも、千歳さんと踊っているのがすごく嫌で……」

「そっか。憩さんにとって、寒凪さんは特別なんだね」

「特別……?」

「うん。誰にもとられたくないとか、そういう気持ち」


 ぼたんはそっと、憩の頭を撫でる。

 きっと、初めての感情なんだろうな。

 杣さんとの間では、生まれないような感情だもんね。

 

「千歳さんは、お姉様が好き? なのでしょうか……」

「どうしてそう思うの?」

「千歳さんがお姉様にお願いしたと言っていたので……」

「それは、寒凪さんにしかわからないかなぁ……」

 

 本当はわかってる。そんなつもりじゃないって。

 でも、これは寒凪さんから伝えるべき言葉だ。

 

「そう、ですよね……」

「憩さんは? 寒凪さんのこと好きなの?」

「……好きだけど、わからないんです。

 朔夜に大好きって伝えてたときと、違うから……」

「そっか。どう違うの?」

「朔夜からは、返事が来なくても平気だったんです……。

 でも、千歳さんから返事が来なかったら……。

 それを考えたら、怖くて伝えられないんです……」

 

 憩は俯くと、ギュッと手を握りしめる。

 そんな小さな拳に、ぼたんはそっと手を重ねた。

 

「そうなんだね。

 でも、寒凪さんなら返事くれると思うけどなぁ」

「千歳さんは優しいから、無視はしないと思いますけれど……」

 

 かわいいなぁ。憩さん、それが恋なんだよ。

 そして、本人が自覚する前に、既に両想いなんだよね。

 全部教えてあげたいけれど、それはお節介にもほどがある。

 

「とりあえず、もう1回お話してみたらいいんじゃない?」

「千歳さん、お話してくれるでしょうか……?」

「うん、絶対してくれる。大丈夫だよ」

「ぼたんさん、ありがとうございます。

 私、お姉様にきちんと謝って、千歳さんとお話します!」

「じゃあ、みんなのところに戻ろっか」

「はい!」



 

「すみません、戻りました」

 

 ぼたんが憩を連れて中に入る。

 憩は和の元へ向かうと、丁寧に頭を下げた。

 

「お姉様、先程は大変申し訳ございませんでした」

「いいのよ。私こそごめんなさいね」

 

 押されようが嫌われようが、憩ちゃんは私のかわいい妹。

 腫れてしまった憩の目元を指でなぞると、和は愛おしい妹の頭を撫でた。

 そんな2人の元に、千歳が近寄る。

 

「……憩、さっきはごめんね」

「ううん、私こそごめんなさい……」

「……和さんにダンスを教えてもらってたんだ。

 旭さんと踊っているときみたいに、憩に踊ってほしくて」


 最初から、こう伝えればよかったんだ。

 そうすれば、変な誤解を与えなくて済んだのに。

 

「なんだぁ……、そうだったんだ……。

 千歳さんはお姉様が好きなのかと思った。

 そっかぁ……。

 そういうわけじゃないんだ、よかった……!!」

 

 心から安心した顔で、嬉しそうに笑っている。

 ……ちょっと待って。それどういうこと?

 僕が和さんのことを好きで誘ったと思ってたの?

 それって、まさか……。

 

「……ねぇ、もしかして憩――」

「なんだー!! やっぱり憩も寒凪のこと好きなんだな!!」

「漣!」

「テメェ、まじで空気読めや!!」

「あらら、言っちゃったわぁ」

「寒凪さんが伝えようとしていたのに……」

「漣さん、それはダメだよ……」

「あ……、悪い……」

 

 もう、全てが手遅れだった。

 



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