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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第3折 それぞれの想い

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47句 暗雲の招待


 昨晩の任務報告を終え、皆は柔らかい陽が差し込む書斎で、夕梨(ゆうり)の仲間入りを歓迎していた。

 そんな中、ぼたんは旭に1通の封筒を手渡す。

 

「すみません、お渡しするのを忘れていました」


 この無駄に華美な封筒――、相手を聞かなくても予想ができる。


「昨晩届きました。帝国陸軍からだそうです」

「やはり陸軍か……」


 正直、嫌な予感しかしない……。

 いや、違う。

 すごく嫌な予感しかしない……。

 

 ピリッ……

 

 封を開けて中を確認する。

 

 【帝国陸軍特務部隊創設25周年記念晩餐会開催】

 

「最悪だ……」


 旭はこめかみをさする。

 文字を見ただけで頭が痛くなってきた……。

 

「なんだー? どうしたんだよ」

「晩餐会が開かれるそうだよ……」

「……僕は欠席で」

「俺も欠席で」

 

 千歳も朔夜も即答か……。

 それはそうだ。

 こんなの、僕だって参加したくはない。

 記念晩餐会とは名ばかりの、非常に面倒な交流会だ。


「悪いけれど、欠席はできない。

 特務部隊の記念晩餐会なんだ……。

 四門が出ないわけにはいかないだろう?」

「チッ……、面倒臭ぇんだよなぁ」

「……初めて四門にならなければよかったと思った」


 朔夜の顔からも、千歳の顔からも表情が消える。

 こんなものに喜んで参加する方がおかしいと、総司令の孫である僕でさえ思うのだから、2人の反応は正常だ。

 

「美味い飯食えるんだからよくねえ?」

「……それで喜ぶのは細小波(いさらなみ)さんくらいだよ」

「お兄様! その晩餐会には、私も参加できるのですか?」


 憩がキラキラとした目で、旭を見つめる。

 漣と同じような反応をする子が、こんな身近にいるだなんて……。

 それも、かわいいかわいい妹が……。

 

「はぁ!? お前、晩餐会行きたいのか!?」

「美味しいお料理があるなら、食べてみたいでしょ?」

「いや、さすがにやめた方がいいんじゃねえか」

「……危ないから、もし憩が行くなら同伴必須だね」


 同伴……、同伴か。それは正直ありだ。

 それなら余計な面倒事も避けられるかもしれない。

 ただ、憩しかいない。ぼたんも連れていくとして……。

 

「それなら、憩ちゃん・ぼたんちゃん・夕梨ちゃん・私でどうかしら?

 これなら4人全員が、同伴参加できるでしょう?」


 ゴフッ!!

 

 (なごみ)の提案に、旭は飲んでいたお茶を吹き出した。


 

 

「旭さん、大丈夫ですか!?」

「ご、ごめんねぼたん」

「いえ、気になさらないでください」

「もうお兄様ったら、汚いわよ」

「和が変なこと言うからだろう!?」


 汚してしまった机をぼたんに拭いてもらいながら、旭は自らの口元を拭う。

 

「私が参加したら、何か問題があるのかしら?

 もちろんないわよね?

 それに、これなら人数がピッタリじゃない」

「さすがお姉様! 美味しいお料理楽しみですね!」

「ぼたんちゃん、晩餐会だって! すごいね!」

「夕梨、晩餐会はそういうノリで参加するものじゃないのよ……」


 旭は大きなため息を吐く。

 和が参加するとなると厄介事が増える……。

 何か問題を起こすとすれば、間違いなく和だからだ。


「とりあえず、今日はこれで解散にしよう。

 午後はそれぞれ自由に過ごして構わないよ。

 しばらく任務が続いていたし、明日は休みにするからね」

「お休み!!」

「夕梨、明日出かけねえか?」

「うん! 漣さんとお出かけ楽しみ!」

「朔夜くん、明日は私に付き合ってくれない?」

「は? なんで俺なんだよ」


 和の提案に、朔夜はあからさまに嫌そうな顔をした。

 休みなら、久しぶりにいこ(憩)とゆっくり過ごしたい。

 甘味処に行って、それからあいつの好きな本屋にでも行くか。

 

「千歳さん! 明日、博物館に行かない?」

「……でも、体調は大丈夫なの?

 昨日相当疲れてたようだし、無理するのはよくないよ」

「もう大丈夫! だからいいでしょ? ね?」

「……わかった。明日行こうか」

 

 チッ……、また寒凪(かんなぎ)かよ!!

 しかも博物館?

 今まで興味持ったことねぇだろが!!

 

「お前ら博物館行くのか?

 なんかピッタリな行き先だなー!!」

「千歳さんと約束してたんです!

 この間は私の行きたいところだったから、次は千歳さんの行きたいところに行こうって」

「いいなぁ、私も博物館行きたいなぁ」

「え、夕梨も博物館行きてえの?

 じゃあ、俺が車出すから4人で行こうぜ!」

「わぁ! 漣さんありがとう!」

「だって! 千歳さんもそれでいい?」

「……うん。車出してくれるならいいよ」

「おいおい、俺は足かよ!!」


 楽しそうに話す4人の姿を見て、朔夜はグッと拳を握りしめる。

 いつの間に、寒凪とそんな約束してたんだよ……。

 これなら、ずっと屋敷にいた頃の方がよかった。

 それならいこの隣は、俺だけだったのに――。

 

「ほら、憩ちゃんは千歳くんと出かけるみたいよ?

 私も朔夜くんと甘味処に行ってみたいわ!」

「和、朔夜が嫌がっているだろう?」

「いや、俺は別に……」

「じゃあ決定ね! 明日がとっても楽しみだわ。

 今日のお仕事も頑張れそう! ありがとう朔夜くん」


 いこがいねぇならやることもねぇし、別にいいけどよ。

 和もなんで急に俺を誘うんだ……?

 裏がありそうで怖ぇんだよな、こいつ。

 

「お姉様! 服を選んでいただいてもよろしいですか?」

「あら、もちろんよ! 任せなさい!」

「ありがとうございます!」


 キャイキャイと皆は明日の予定で盛り上がっている。

 

「明日はみんな外出するのか。やっと静かに仕事ができる……」

 

 大量の書類を目の端に留めながら、旭はホッと胸を撫で下ろすのだった。



 

「……ねぇ、細小波さん。

 ちょっと付き合ってほしいんだけど」

「ああ? なんだ、珍しいなー」

 

 女性陣が和を筆頭に書斎を出ていったため、書斎には男性陣のみが残されていた。

 

「……いいから、ちょっと来て」

「お、おい! 引っ張るんじゃねえよ!!」


 漣の腕を、千歳はグイグイと引っ張る。

 書斎の外へと出ると、覚悟を決めたように千歳は漣を見上げた。


「……服を、買いに行きたいんだ。

 だから、ちょっと付き合ってくれると嬉しい」

「はーん、そういうことな!!

 いいぜ!! ほら、さっさと行くぞー!!」


 漣は千歳の肩を掴むと、外へと連れ出す。

 生意気な後輩だけど、かわいいとこあんじゃねえか!!

 そりゃそうだよな!! あー、青春だなこいつら!!


「……何ニヤニヤしてるの」

「いや、嬉しいなって思ってよ!!

 信用してくれてっから、俺に声かけてくれたんだろ!?」

「……旭さんは忙しいし、(そま)さんには聞けないから」

「旭は置いといて。

 杣は服とか興味ねえから、聞くだけ無駄だな」

「……でも、出かけてたんでしょ?」

「憩とだろ?

 でも、あいつ隊服着てるか、稽古着だったぞ」

「……それは、杣さんらしいね」

「だから、出かけてるっていうより姫と護衛みたいになってたなー、あいつらは」


 漣はかつての朔夜と憩を思い出す。

 誰彼構わず、威嚇して歩いてた杣。

 そんな杣の気も知らず、誰にでも笑顔を向ける憩。

 あの頃はただ、過保護な番犬だなと思ってたけど、今思えば理由が理由だからな。

 そりゃあ、誰にでも敵意剥き出しになるよな。

 

「……杣さんも憩のこと、大切に思ってるから」

「そうだなー、でもそれはお前も同じだろ?」

「……うん、そうだよ。

 だから、選んでもらえたら嬉しいなって思ってる。

 そのためには、服だってちゃんとしないとでしょ?」

 

 こいつ、こんな喋る奴だったか?

 いや、きっと憩と過ごして、喋るようになったんだな!

 そうかそうか、いい変化じゃねえか!!

 

「仕方ねえから、俺が服買ってやるよ!!」

「……いいよ、別に。いつもお金ないじゃん」

「俺のも買うからいいんだよ! なあ、寒凪!!

 明日夕梨にさ!! 漣さんかっこいい!! 漣さんステキ!! 漣さん大好き!!

 って言われたら、俺どうすればいいと思う!?」

「……知らないよ。俺も大好き、って返せば?」

「やっぱりそうだよな!!

 思ってることをそのまま伝えるのがいいよな!!」

「……わかったから、少し静かにしてよ。

 周りから変な目で見られてるよ、僕たち」

「んな細けえこと気にすんなって!!」


 バンバン、と漣は千歳の背中を叩く。

 杣には悪いけど、寒凪もかわいい後輩なんだ。

 それに、こいつが言うように選ぶのは憩だからな!

 明日はなるべく邪魔しないようにしよう。

 漣にしては珍しく、そんなことを思うのだった。


 


「千歳さん、どちらが好みでしょうか……」

「うーん、博物館でしょう?

 濃い色は合わないんじゃないかしら?」

「なるほど! では、これはやめておきます!」

「和さん! 漣さんが喜ぶのはどちらでしょうか!?」

 

 和の部屋では、明日の作戦会議が行われていた。

 和の持っている服、憩の持っている服を全て引っ張り出し、着物を合わせたり洋服を合わせたりと、大盛り上がりだ。

 もちろん、部屋は目も当てられないほどすごい状態である。

 

「漣様自体が派手だから、これだと夕梨ちゃんの存在感が消えちゃうわ」

「そうね。夕梨にはこれが似合うんじゃない?」

「かわいい!! でも、いいんですか?

 私なんかに、服を貸していただいて……」

「夕梨ちゃんは私が選んだ専属なのよ?

 私なんか、なんて2度と言わないでね?」

「すみません……」

「ううん。私、嬉しいのよ!

 憩ちゃん以外にも、こうやって話す相手が2人も増えて!」


 和はにっこりと2人に微笑みを向ける。

 たしかに私は、吉原で1番売れている花魁。

 身を売らない芸だけを売る、吉原の芸花魁(アイドル)

 華やかに見えるでしょう? 輝いて見えるでしょう?

 でもね、あの世界はそんなに美しいものじゃないの。

 見たくもないもの、思ってもいない言葉、聞きたくもない話……。

 そんな、綺麗に見える世界の正反対の場所に、私は沈んでいるのよ。

 

「お姉様! 明日、髪を結っていただけますか?」

「もちろんよ! 千歳くんはどんな髪型が好きかしらね」

「この間の編み込み、かわいいって褒めてもらえました……!」


 照れ照れと恥ずかしそうに頬を染めながら、憩は両の手で頬を覆う。

 

「えー! いいなぁ!!

 私も漣さんにかわいいって言ってほしいなぁ」

「夕梨ちゃんぐらいの長さでも、編み込みできるわよ」

「本当ですか!? やったー!」

「ほら、髪型決まったなら服も決めないとでしょ?」

「うん! 明日、楽しみだね憩ちゃん!」

「はい! とっても楽しみです!」

 

 あんなに朔夜くんにべったりだったのに、今この子の中にいるのは千歳くんなのね。

 遠ざけて護る朔夜くんではなく、隣を一緒に歩いてくれる千歳くんが――。

 

「憩ちゃん、私の服も選んでくれる?

 明日、朔夜くんと甘味処へ行くことになったの」

「朔夜とですか?」

「そうなの。嫌だったかしら?」

「いえ! お任せください!」

「ありがとう!

 私もかわいいって言ってもらいたいわ」

「お姉様なら、朔夜もきっとイチコロですよ!」

「ふふっ、そうだと嬉しいわ」


 女性陣たち4人の作戦会議は、それからもしばらく続いたのだった。


 

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