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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第2折 カフェーという闇

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34句 春雲


「価値が順位で決まる? どういうことだ?」

「こんなところに来てるのに、お兄さんは何も知らないんだね」

 

 知るわけねぇだろ。

 潜入じゃなかったら、こんなとこ来ねぇよ。

 ……ダメだ、これは仕事だ。しっかりやれ。

 朔夜は本音を飲み込むと、笑顔を作る。

 

「じゃあ、何も知らないお兄さんに、あんたが教えてくれたらいいんじゃねぇの?」

「そうね、お兄さんかっこいいから教えてあげる!

 指名されるとね、順位が上がるの。

 順位が上がると、お給金も増える。

 だから、私たちの価値は順位で決まるの!」

「その順位ってのは、みんな知ってんのか?」

「もちろん! 貼り出されるんだよ。

 だから言ったでしょ?

 誰がどれくらい稼いでるのかわかるって」

 

 すごい世界だ。

 指名の分だけ給金が増えるのは道理だろうが、それを順位にして、見せる必要があるのかよ。

 

「順位なんか付けられて、嫌になんねぇのか?」

「仕方ないんだよ。それが私たちの価値なんだから」

「人の価値は、人気で決まるもんじゃねぇだろ」

「お兄さんには、わからないよ……。

 ここにいれば、住むところにも食べる物にも困らない。

 借金は減らなくても、ここで働いていればなんにも困らない。

 みんなそれがわかってるから、不満があっても辞めないんだよ」

 

 漣(れん)が盛り上がり、旭が上手く躱(かわ)している中、朔夜は女の子たちが住む世界の闇の深さを目の当たりにしていた。


 


 一方その頃年少組は、ぼたんの仕事が終わるのを待っていた。

 

「……すごいね、憩。ちょっと強引だったけど」

「だって、お話ししたいですって伝えないと、お話しできないよ?」

「……そうなんだけどさ。

 憩じゃなかったら、できないやり方だよ」

「そうなの?」

「……うん。警戒されるよ、普通なら」

 

 あれだけ強引に約束を取り付けたら、何か探っていると思われて当然だ。

 

「そっか……、ごめんなさい」

「……ううん。謝らなくていいんだよ。

 憩はそのまま、思ったように行動して?」

「でも、あんまりよくないんでしょ?」

「……普通ならね。

 でも憩は、ぼたんさんを助けたいんでしょ?」

「うん。ゆりさんのこと、すごく心配だと思うの。

 お話を聞いて何かわかれば、役に立てるかもしれない」

 

 任務だから、じゃない。

 ぼたんさんが困ってる、助けたい。

 それだけの気持ちで憩は動いてる。

 だから、憩にしかできないやり方なんだよ。

 できるとすれば、細小波(いさらなみ)さんくらいだ。

 

「……そうだね。何か、役に立てるといいね」

「うん!

 ねぇ、ぼたんさんが来るまで本読んでてもいい?」

「……ダメ」

「そうだよね、お仕事だもんね」

「……いや、それもあるけど」

「それもあるけど?」

 

 憩は首を傾げて僕を見ている。

 憩と話してたいから、なんて伝えていいのだろうか。

 でも、変に誤魔化しても、憩が気にするかもしれない。

 どう、伝えたらいいんだ。どう、上手く伝えたら……。

 

「千歳さん、何か難しいこと考えてる?」

「……どうして?」

「ここに、すごくシワが寄ってたから」

 

 憩は自らの眉間を指差しながら、僕の方を見てニコニコしている。

 この子は、僕に上手な言葉なんか求めていない。

 今、何を思っているのか、考えているのか。

 それをただ、伝えてほしいだけなんだ。

 

「……僕、憩と話してたいんだ。いいかな?」

「もちろん! あのね、もっと北領の話が聞きたい!」

「……わかった。北領にはね――」

 

 この子には杣(そま)さんがいる。

 そんなの頭ではわかっているけど、心は止まれない。

 どうやら僕は、あまり賢くはないようだ。


 


「へぇ、千歳さんはお祖母様と住んでたんだ!」

「……うん。僕、両親がいなくて。

 おばあちゃんが育ててくれたんだ」

 

 北領の話の流れで、僕の家族の話になった。

 両親の記憶はない。

 ずっと、おばあちゃんと2人で生きてきた。

 

「お祖母様は、今も北領に住んでるの?」

「……そうだよ」

「そっか、心配だよね」

「……すごくたくましい人なんだ。

 だから、そんなに心配はしてないかな」

 

 特務部隊に所属してから、偵察やら巡回やらで忙しく、北領にいた頃でさえ、正直あまり家に帰れていなかった。

 それでも今は手紙でやり取りしているし、何より特務部隊の給金は一般陸軍よりも遥かに高い。

 それは危険手当のような物だが、これがあれば、おばあちゃんに楽をさせてあげられる。

 

「そうなんだ! たくましい人か……」

「……一体、どんな人を想像してるの?」

「えっと、すごく筋肉があって、身長が大きくて、力が強い人!」

「……肉体的なたくましいじゃなくて、

 生活力とか生命力とかの方ね、たくましいのは」

「なんだー! そっちかー!」

 

 肩を震わせながら憩は笑っている。

 本当に素直で、明るくて、一緒にいると楽しい。

 

「千歳さんのお祖母様、会ってみたいな!」

「……えっ」

「きっと、とても素敵な方だと思うの。

 千歳さんが素敵な人だから、間違いないと思う」

「……ありがとう。

 北領に行くことがあったら、紹介させてね」

「絶対だよ! 約束だからね!」

「……うん、約束」

 

 憩が差し出した小指に、自分の小指を絡める。

 いつ来るかもわからない未来の約束を、当たり前のように提案してくる。

 この子が、僕を選んでくれる日は来るのだろうか。

 まだ、認めきれない気持ちを抱えたまま、そんなことを思うのだった。


 


「お待たせいたしました」

「あ! ぼたんさん、お仕事お疲れ様でした!」

「ありがとうございます」

「……どうぞ、掛けてください」

 

 ぼたんさんは、キョロキョロと辺りを気にしている。

 他の女給たちの目もあるし、もちろん店主の目もある。

 ここで話すのは、色々とまずいのかもしれない。

 場所を変えた方がよさそうだ。

 

「ぼたんさんの家は、ここから近いのですか?」

「え?」

「……憩、急にそんなこと聞いたらびっくりするよ」

「あっ、ごめんなさい。

 もしよろしければ、私の家でお話ししませんか?」

「えっと……」

 

 明らかに困っている。

 それはそうだ。昨日会ったばかりの他人同士だ。

 憩みたいに接する人の方が珍しい。

 

「……この子、あなたと仲良くなりたいみたいで。

 ご迷惑でなければ、付き合ってはもらえませんか?」

「でも……、よろしいのでしょうか?

 こんな、私のような素性の知れない者を……」

「素性は知っています! ぼたんさんです!」

 

 憩の無垢な瞳に見つめられ、ぼたんは千歳に視線を移す。

 

「あの……。この子、いろいろ大丈夫ですか?」

「……大丈夫ではないので、こうして付いてます」

「そうですよね、かわいいですし。

 こうも純粋無垢だと心配ですものね……」

 

 ……ぼたんさん、きっといい人だ。

 そんな気がする。

 

「お話が終わったようでしたら、帰りましょう!」

「……僕、お会計してくる。

 憩は、ぼたんさんと待っててね」

「わかった!

 では、ぼたんさん行きましょう!」

「よろしくお願いします」

 

 会計を済ませ、3人はカフェーを後にした。

 


 

 コンコンコン

 

「失礼いたします。そろそろお時間ですが……」

「わかりました。本日もお世話になりました」

「いえいえ! いつもありがとうございます!

 お帰りの際は、どうぞ足元にお気をつけください」

「楽しい時間をありがとうございました。

 では、僕たちはこれで失礼いたします」

「はい! またお待ちしております!」

 

 3人は帰るためにカフェーへと下りる。

 窓際に2人の姿はない。先に撤収したのだろう。

 3人も、この陰鬱とした世界から抜け出す。

 

「あー、楽しかったぜ!!」

「それはよかったな」

「朔夜は今日も色々聞き出していたようだね。

 さすがだよ」

「いえ……、すごい世界だと思いました」

「歩きながら、詳しい話を聞かせてくれるかい?」

 

 朔夜は店のシステムや、ゆりが辞めたことの不自然さ等、女の子から聞き出した情報を2人に共有した。

 

「なるほど。

 これまでの流れでいくと、あざみって子のはずだったんだね」

「はい。ゆりのはずではなかったと」

「てかよ、ゆりちゃんが人気ない!?

 んなわけねえだろ!! ゆりちゃんはな、かわいいんだ!!」

 

 朔夜の言葉に、漣は大声を上げる。

 

「うるせぇな、今どうでもいいんだよそれ」

「はあ!? どこがどうでもいいんだよ!!

 ゆりちゃんは、賢くていい子なんだよ!!

 人気がないわけないだろ!?

 おかしいのはその女の子だ!!」

「だから、ゆりがどんな子かはどうでもいいんだ!!」

「はいはい、騒がないでね。

 こんなところで女の子の名前を大声で叫んでいたら、通報されてもおかしくないよ?

 わかっているかい?」

「わかってるけどよー」

「こいつがゆりの話ばっかりするから……」

「おい!! ゆりちゃんのこと呼び捨てにすんなよな!!」

「はぁ!? んなの別にいいだろうが!!」

「よくねえから言ってんだよ!!」

「2人とも、いい加減にしてね。

 警察に身分の提示を求められて、階級章を出すのかい?

 そこにはなんと、中将と少将と書かれている。

 こんなに恥ずかしいことはないんだけれど、わかるよね」

「悪かったよ……」

「すみません……」

「わかったならいいよ。ほら、さっさと帰るよ」

 

 旭中将に叱られた少将2人は、静かに屋敷へと向かうのだった。


 


いつもありがとうございます。

執筆ペースがいい感じなので、今週から日曜も更新いたします⭐︎

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