*白銀劇場* 〜とある青年の宝物〜
時系列で言うと第1折開始より前になります。
3句とほんのり続くお話。51句も読んでいると尚更……。
※本編に大きく関わるネタバレはございません。
これは、とある青年の宝物に関するお話――。
今日もあちぃな……。
17歳の朔夜は、遠征で南領に来ていた。
元々東領の山奥出身である彼にとって、南の太陽が容赦なく降り注ぐこの地での訓練は、想像以上に厳しいものだった。
「杣! お前、大丈夫か?」
「うるせぇ、別に平気だよ」
「本当かー? キツかったら無理せず言えよ!」
この頃、既に南門になっていた19歳の漣が青年の肩を叩く。
そんな上官の手を、朔夜は払い除けた。
「うぜぇ。俺に構うんじゃねぇよ」
「はいはい、悪かったなー!
そういや、お前に手紙来てたぞー」
漣は然程気にもせず軽く受け流すと、手紙を手渡す。
綺麗な和紙の包みには、几帳面な字で朔夜の名前が書かれていた。
「相手はどうせ憩だろー!?」
「うるせぇ! テメェに関係ねぇだろ!!」
捨て台詞を吐くと、手紙を懐に仕舞い込む。
部屋に戻ったら読もう。
それだけを楽しみに、朔夜は午後の訓練に食らいついた。
1日を終え、朔夜はようやく手紙の包みを開ける。
そこには、几帳面な字が綴られていた。
【朔夜へ
お元気ですか? 私はまた1つ、詩を覚えました。
舞の稽古は嫌いだけど、ちゃんと毎日やっています。
私も稽古頑張るから、朔夜も頑張ってね。
早く帰ってきてくれたら嬉しいな。】
「あいつ、毎回稽古嫌いだって書いてるな」
いこからの手紙は、毎週必ず届く。
稽古のこと、食べた甘味のこと、叱られたこと。
どうでもいい報告ばかりがいつも書かれてる。
そして、早く帰ってきてくれたら嬉しいな。
これも毎回同じように書かれていた。
ただ、『早く会いたい』と書かれていたことは1度もない。
きっと、言ってはいけないと、なんとなくわかってるからだろう。
俺は1度も手紙を返さなかった。
いや、返せなかった。
俺の方が会いたくてたまらなかったから。
もらった手紙を丁寧に広げると、針と糸を用意する。
中心がずれないよう、慎重に事を進めなければならない。
「よし……、これでいいな」
今日もまた、大切な宝物が1つ増えた。
朔夜は丁寧に製本した手紙を懐へとしまう。
少しだけ増したその重みを感じながら、眠りについた。




