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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ
白銀番外編

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3/83

*白銀劇場* 〜とある昼下がりのお話〜


 ※時系列で言うと、第3折中盤あたりです。

  本編に関わるネタバレ等はありません。




 これは、晩餐会前のとある日の出来事――。




「みんな揃ったかな?」

「あー、やっと夕梨(ゆうり)戻ってきたのに勉強かよ……」

 

 旭の言葉で、(れん)は机に突っ伏す。


 昼食後、夕梨は(なごみ)の手伝いのため席を外していた。

 戻ってきたばかりだというのに、彼女と話す暇を与えられなかった(れん)は拗ねていたのだ。

 

「和さんのお手伝いは、私の仕事なんだよ? お勉強だけど、一緒にいられるんだから頑張ろう?」

「ごめんなさいね、漣様。たくさん揮毫(サイン)をしておきたくて、夕梨ちゃんに力を貸してもらっていたのよ」

「そんなに用意してどうするんだい?」


 和の言葉に反応したのは旭だった。


 和のことだ……。

 どうせまた(ろく)でもないことを考えているに決まっている。

 

「晩餐会が終わるまで、吉原はお休みすることにしたの。揮毫(サイン)があれば、その間もお金には困らないでしょう?」

「いやそもそも、金に困らねぇだろこの家」

「あら、そんなことないのよ朔夜くん。お兄様ったら、自分の物は自分で買えって言うんですもの」


 兄にいじめられているかのように、和は朔夜に報告する。

 そんな妹の姿を見て、旭は大きなため息をついた。


「当たり前のことを言っているだけだろう?」

「でも、憩ちゃんには買ってあげているじゃない」

「憩はまだ16で、和は21じゃないか。仕事もしているんだから、自分の稼ぎで買いなさい」

 

 全く……。

 これじゃあまるで、僕が憩を贔屓しているように聞こえるじゃないか。

 和にも同じようにお小遣いも渡しているし、なんなら憩よりも高価な物を贈っているというのに……。

 

「そういうことだから、揮毫(サイン)が必要なんですっ」

 

 兄に軽くあしらわれ、和は少しむくれたようにぷいっと顔を背けた。


 

 

「和さんって、意外と子供っぽいんですね……」

 

 和のその行動を見たぼたんが、隣にいた旭に囁く。

 

「意外も何も、見たまんまだろう? 憩よりも、和の方がよっぽど子供だよ……」

 

 ぼたんが和の方を見ると、呆れた顔をした朔夜になだめられていた。

 

「旭さんの言葉、納得いかなかったんですね……」

「和は芸花魁(アイドル)をしているからか、金銭感覚がだいぶズレていてね、欲しがる物も高価なんだ。だから、そういう高価な物がたくさん欲しいなら、自分のお金で買うようにと伝えているだけなんだけれど……」

「なるほど……、そういうことですか……」

 

 旭さんも大変だな……。

 妹たちに甘いけれど、甘やかしはしないんだな。

 

「ほら、2人を見てごらんよ」

 

 旭に言われ、ぼたんの視線は千歳と憩へと移る。

 

「……憩、わからないことがあればなんでも聞いてね」

「うん! ありがとう。晩餐会、いろんな人が来るんだよね?」

「……そうだよ。一般陸軍も来るし、華族も多分来るかな」

「そんなにいろんな人が来るんだ。ダンス、頑張らないといけないね」

「……そうだね。でも、無理しないでやっていこうね」

「うん! 晩餐会のご飯、楽しみだなー!」

「……憩の好きな物、たくさん出るといいね」

「千歳さんの好きなクリームソーダは出るかな?」

「……それは絶対出ないと思うよ」

 

 まだ勉強会は始まってもいないのに、旭に渡された資料を見て、楽しそうに話している。

 

「微笑ましいですね」

「だろう……? ほら、今度はあっちを見てごらん……」

 

 ぼたんの視線は、朔夜と和へと移る。

 

「だから、旭の言うことが正しいだろ?」

「簪ぐらい買ってくれてもいいでしょう、って言ってるの!」

「お前は簪ぐらいって言うけど、それいくらすんだよ」

「金額なんて、気にしたことがないからわからないわ」

「旭はそういうところを言ってんだろ?」

「だって、欲しい物は欲しいの!」

「だから自分の金で買えって言われんだろうが……」

「それがわかってるから揮毫(サイン)を用意したんじゃない!」

「もう、静かにしてくれよ……」

「ちゃんと聞いてよ朔夜くん! 私間違ってる!?」

 

 和の言葉に、朔夜は面倒臭そうに答えている。

 

「簪が欲しいみたいですよ」

「この間も、蝶々が付いた簪を買ってあげたんだけれどね。おそらく、夏に向けて新しい簪が欲しくなったんだろう……」

「お仕事柄、季節感は大切でしょうし……」

「そう思うだろう? だから、季節に合わせて新調しているんだよ。夏物を買うって言うから呉服屋を呼んだのに、蝶々を選んだのは和本人なんだ」

「そうなんですね……」

 

 この人、本当に苦労人だな。

 ぼたんは改めて思ったのだった。



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