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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第1折 結成、特務部隊・白銀

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12句 宵の明星


「今日はどこに行くの?」

「昨日と同じ地域だ。張る場所は違ぇけどな」

 

 帝都が黄昏に染まる頃、2人は目的地に向かいながら話していた。

 

「ふーん。眷属(スロール)を倒したのに、同じ地域を偵察するの?」

「あぁ、奴らは縄張り意識が強いからな。自分の狩場が他の奴に荒らされる前に、次の手駒を配置しようとするはずだ。そこを狙うんだよ」

「そっか。じゃあ、吸血鬼(ヴァンパイア)が現れるかもしれない、ってことだね……」

 

 憩は静かにつぶやくと、両手を胸の前でギュッと握りしめた。

 

「大丈夫だ、いこには近づかせねぇから」

「ありがとう。でも私も白銀の一員だから、頑張るね!」

 

 前向きな言葉を口にしつつも、どこか不安げな憩の頭を朔夜は優しく撫でる。


 怖くないはずがねぇんだ。

 今は、自分の力のこともわかってるしよ……。

 

「もし、力が発動して声が出せなくなったら、俺のこと叩いたっていい。だから、ちゃんと知らせろ。いいな?」

「うん、わかった。また、迷惑かけたらごめんね」

「迷惑なんかじゃねぇよ、だから頼れ」

「……ありがとう、朔夜。いつも助けてくれて」

 

 申し訳なさそうに憩が微笑む。

 その姿がなんだか消えてしまいそうに感じて、朔夜の足が止まる。


「どうしたの? どこか痛い?」


 急に立ち止まってしまった朔夜を、憩は心配そうに見上げる。

 暮れゆく光の加減なのか、辛そうな顔をしているように見えた。

 

「……朔夜? 大丈夫?」

 

 何も話さなくなってしまった彼の腕に触れようと、手を伸ばす。

 その瞬間、伸ばした腕は引き寄せられ、そのまま朔夜に抱きしめられた。

 

 

 

「あいつら遅えなー、どんだけかかってんだよ!!」


 漣(れん)は腕を組むと、つま先で小刻みに地面を叩く。

 旭・漣・千歳の3人は、偵察場所の近くにある喫茶店で、2人が来るのを待っていた。


「……細小波(いさらなみ)さんが先に行こうって言ったくせに」

「だってよー、あんないちゃいちゃしてんの見てられるか!?」

「……僕は別に。杣(そま)さんいじるの面白いし」

「旭はしんどいだろ!? かわいい妹が、杣といちゃいちゃしてたらよー」

「そうでもないよ。朔夜は憩のことをよく考えてくれるからね」

 

 旭は微笑むと、コーヒーを口にする。


 漣が憩に触れているときは、非常に腹立たしいけれどね。

 

「そうかよ、俺だけかよ!! 見てるのしんどいの!!」

「……杣さんが羨ましいだけでしょ。自分はそういう相手いないから」

 

 頬杖をつきながら、千歳は静かに毒を吐く。

 

「おい!! 勝手にいないって決めつけんな!!」

「……じゃあいるの? 1日中僕たちといるのに」

「こら、千歳。あんまりデリケートな話には触れないんだよ」

「……すみません。つまり、いないんですね」 

「悪かったな!! そういうお前らはいんのかよ!!」

 

 漣は悔しそうに顔を歪めながら、バンバンとテーブルを叩く。


「……いらない。邪魔だから」

「僕は憩や和(なごみ)が、幸せでいてくれたらそれでいいかな」

「あー、はいはい!! そうですか!! 聞く相手を間違えたわ!!」

「……そんなんだから相手いないんだよ」

「千歳、そんなに言ったらかわいそうだろう?」

「おい旭、フォローになってねえよ……」

 

 自ら蒔(ま)いた種に集中砲火され、漣はテーブルに突っ伏した。

 

 

 

「……さ、朔夜? どうしたの?」

 

 急に朔夜に抱きしめられた憩の頭は、ショート寸前だった。

 硬い隊服から感じる朔夜の鼓動につられて、憩の鼓動も速くなる。

 

「……あのさ、いこ。俺――」


 ……まずい!!

 

 朔夜は足音が近づいてきていることに気づき、憩から離れた。

 

「わ、悪い……。その、急にこんなことして……」

 

 朔夜は憩の顔が見れず、そっぽを向く。


 ……やべぇ、やっちまった。

 

「ううん、私が不安になってたからだよね。ありがとう」

「いや、あの、そうじゃなくてよ……」

 

 ――俺が絶対に護る。

 

 そう伝えたいのに、自分を真っ直ぐに見つめる憩に、朔夜は言葉が詰まる。

 思わずギュッと、拳を握りしめた。

 

「あれ? 杣さんじゃないっすかー!! 何してんすか?」

 

 急に声をかけられ振り向くと、そこにいたのは特務部隊の後輩たちだった。

 朔夜は咄嗟に憩を背に隠す。


 こいつらに見られたら、面倒だからな……。

 

「んだよ、お前らかよ足音の正体は」

「なんすかその言い方ー!! 俺たち偵察終えて戻るとこなんすよー」

「そうかよ、さっさと帰れ」


 朔夜はまるで虫でも払うかのように、後輩たちを手であしらった。

 

「ひどいなー。てか、誰か隠しましたよね? 誰すか?」

「関係ねぇだろ、さっさと帰れよ」

「あ! 女の子だ!!」

「まじかよ!? 俺にも見せてくれよ!!」

「嘘だろ!? 隊服着てるぞ!!」

「かわいい、ちっちゃいなー!!」

「ねぇねぇ、顔見せてよ!!」

 

 朔夜が1人を相手にしている間に、他の隊士たちが後ろに回ったのだった。

 急に男たちに囲まれ、憩は朔夜の隊服をギュッと握る。

 

「ねぇ、名前はなんて言うの?」

「おい、勝手に話しかけんじゃねぇよ!!」


 朔夜は後輩たちを睨みつけるが、全く効き目はない。

 

「いいじゃないっすかー! 挨拶させてくださいよ!」

「隊服着てるってことは、特務部隊っすよね?」

「女の子なのにすごいっすね!!」

「ジロジロ見んな!!」

「女の子が入るなんて、最高じゃないっすか!!」

「ねぇ、どんな人が好みなの?」


 ……最悪だ。

 これだから、女に飢えてるこいつらに見せたくなかったんだ。


 さっさと立ち去ろうとしたとき、憩が朔夜の隊服の袖を引っ張った。

 

「わかってる、嫌だよな。すぐ行こう」

「待って、ちゃんと挨拶する。朔夜の知り合いなんでしょ?」


 憩の言葉を聞いて、隊士たちが目を丸くする。

 

「朔夜? 杣さん名前で呼ばれてるんすか!?」

「すげー!! この子、杣さんのこと呼び捨てだぞ!!」

「まじかよ!? 死神って言われるような人にか!?」

「杣さん呼び捨てにできる人なんて、総司令か旭さんぐらいなのにな!!」

「うるせぇな。こいつは総司令の孫で、旭の妹なんだよ」

 

 さっさと立ち去りてぇけど、いこが挨拶するって言ってるしな……。

 

「ごきげんよう、皆様。憩と申します。お祖父様やお兄様がお世話になっております」

 

 憩は朔夜の背から顔を出して挨拶すると、深々と頭を下げた。

 

「憩ちゃんて言うんだ! よろしくね!!」

「憩ちゃん!! 俺とも仲良くしてね!!」

「すごい!! 金色(こんじき)の瞳だ!!」

「和さんも綺麗だけど、憩ちゃんはまた違ったよさがあるな!」

「かわいいね!! いくつなの?」

「よろしくしねぇよ、もういいだろ!! さっさと帰りやがれ!! 2度とこいつに話しかけんな!!」

 

 後輩たちに捨て台詞を吐くと、朔夜は憩の手を取りその場を立ち去った。

 手を引いたまま、無言でズンズンと先に進んでいく。

 

「さ、朔夜!! ちょっと待って!!」

 

 憩の呼びかけに、我に返る。

 無理をさせていたようで、少女は小走りになっていた。

 

「悪い、気が利かなくて……」

「ううん、大丈夫! 急がないと、みんな待ってるもんね!」

「いや、そういう訳じゃねぇけど……」

「うん? どういうこと?」

「いや、なんでもねぇよ……。そうだな、細小波あたりがキレてそうだ」

 

 2人は漣の姿を想像して、顔を見合わせて笑った。

 

 

 

「……あ、やっと来た」

「ったく、俺たちが待ってるってのに、おてて繋いで何やってたんだー?」


 漣がニヤニヤしながら指摘すると、2人はパッと手を放した。


「あの、これには理由がありまして……」

「絡まれたんだよ、日中偵察の特務部隊に」


 朔夜は顔をしかめると、道中の出来事を説明した。


「朔夜が付いていてくれてよかったよ。厳重に注意しておくね」

「つーか、そいつら憩に会ったことねーのか? 相楽の爺さんの孫だって知らねーのかよ」

「日中偵察の奴らとは会わねぇよ。この時間、いこはもう部屋にいたからな」

「そうだね。夜間偵察班のごく一部の人間くらいかな、憩と会ったことがあるのは」

 

 朔夜と旭の言葉に、憩はこくこくと首を縦に振る。

 

「……僕も憩とはじめましてだったし。会ったことない人はたくさんいるでしょうね」

「いいんだよ、会わなくて。どいつもこいつも近ぇんだよ」

 

 朔夜は先ほどの光景を思い出し、イライラを吐き出す。


 ……好みとか聞いてんじゃねぇよ。

 

「でも、せっかく同じ部隊にいるから、ちゃんとみんなに挨拶したいな……」

「お前いい子だなー!! でもな、正直俺らでも会ったことねえ奴いるから!! 気にすんな!!」

 

 漣は憩の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「テメェ、いこに触ってんじゃねぇよ!!」

「ベタベタ触ってるお前が言う!?」

「……本当、何触ってんの? 憩に変な菌つけないでよ」

「汚くねえわ!! 毎日風呂入ってるっつの!!」


 ギャイギャイと騒がしい3人を、相楽兄妹は笑顔で見ている。


 

 ――その裏で、闇に沈む者たちが今日も身を削っていた。



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