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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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24/40

24句 木の芽時


「えっと、この本はですね……」

 

 朔夜と漣が帰宅した頃、書斎では憩の本紹介が行われていた。

 ジャンルやあらすじだけではなく、読了感まで丁寧に説明される。

 聞く者によっては地獄のような時間だが、千歳は1冊毎にきちんと感想を述べていた。

 

「……さっきの本とその本、同じジャンルだけど、憩のおすすめはどっち?」

「うーん……、千歳さんは笑いたい気分ですか?」

「……それ、何か関係あるの?」

「あります!

 さっきの本はあらすじではわからないのですが、ちょっと暗いお話で、

 こっちの本はちょっと意外な結末で、笑っちゃうんです!」

 

 話を思い出しているのか、くすくすと笑っている。

 

「……へぇ、じゃあこっちを読んでみようかな」

「はい! 他にもこんな本があって……」

 

 カチャ

 

 書斎の扉が開き、旭が入ってくる。

 

「2人ともお待たせ。

 朔夜と(れん)も帰ってきたよ」

「あ! 朔夜、おかえり!」

 

 憩は立ち上がると、朔夜の側へと駆け寄る。

 

「ただいま。何やってたんだ?」

「千歳さんとね、本を選んでたの!」

 

 なんで出迎えてくれなかったんだ?

 なんて、そんなことを聞けたらどれだけよかっただろう。

 自分より優先された寒凪(かんなぎ)に腹が立った。

 

「そうかよ。そりゃよかったな」

 

 朔夜はドサッと定位置に腰を掛ける。

 当然、憩は自分の隣に座るものだと思っていた。

 

「千歳さん、それでこの本は……」

 

 憩は途中だった本紹介を続けると、なんの迷いもなく千歳の隣へと腰掛ける。

 憩のその行動に、朔夜も旭も漣も目玉が飛び出そうだった。



 

「なあ、憩。

 そこ、いつも俺が座ってんだけどなー」

 

 さすがの漣でも、朔夜の気持ちはわかる。

 精一杯のフォローのつもりだった。

 

「申し訳ございません。

 少しの間、そちらでお待ちいただけますか?」

 

 憩はいつも座っている朔夜の隣を手で示す。

 まさか拒否されると思わなかった漣は唖然としていた。

 

「……ねぇ憩。みんな来たから、後にしない?」

「俺らがいたらなんか困るのかよ」

「……別に。ただ、後にしようって言っているだけです」

「今やればいいじゃねぇか」

 

 朔夜と千歳の意見がぶつかる。

 どちらも声を荒げはしないが、ものすごい圧だ。

 

「はいはい、そこまでにしよう。

 憩、そろそろ作戦会議をするから、本は後にしようね」

「わかりました……」

 

 憩は渋々、広げていた本を片付ける。

 テーブルを空けるために、千歳は本を黄山の職務机へと移動させた。

 

「ありがとうございます!」

「……ううん。また後でね」

「はい! まだたくさんあるので、楽しみにしててくださいね!」

 

 2人のやり取りに朔夜は静かに舌打ちをする。

 昨日の潜入任務から、明らかに何かがおかしい。

 でも、何がおかしいのか説明ができない。

 

「なんなんだよ……」

 

 憩に聞こえないよう、小さくつぶやく。

 その様子を、旭も漣も見ていた。

 気を利かせた漣が隙を見て定位置に座る。

 

「さて、会議は始められそうかい?」

 

 旭の声がけで、立っていた2人はそれぞれの定位置へと腰掛けた。


 


「――と、言うことだから、今日も昨日と同じように頼むよ。

 ただし、くれぐれも無理はしないように」

 

 旭の言葉に、4人はこくりと頷く。

 大人組は、消えている女の子たちの情報をより多く集めること。

 カフェー組は、昨日同様に客を装い情報を集めることが目標だ。

 

「ねぇ、女の子が消えてるって情報、朔夜が聞き出したんでしょ?

 すごいね!」

「別に、すごくねぇよ……」

「そんなことないよ!

 そうだ! 今日もネクタイ結んでいい?」

 

 隣でニコニコと微笑むいこを見ていると、なぜだか今日は無性に腹が立った。

 

「今日は自分でやっからいいよ」

「どうして? 昨日は結ばせてくれたのに」

「昨日は昨日だろ、今日は今日だ」

「でも、あのネクタイは……」

「いいって言ってんだろ!!」

 

 朔夜は憩の言葉を遮ると、声を荒げながら立ち上がる。

 やっちまった……。

 いこを見ると、目には涙が溜まっていた。

 

「いや、違っ、いこ、その、ごめ……」

「朔夜なんか大っ嫌い!!」

 

 憩はそう叫ぶと、書斎を飛び出していく。

 その姿を見て、朔夜は項垂れるようにソファに腰掛けた。

 

「気持ちはわかるけど、今のは(そま)が悪いなー」

「千歳、悪いけれど憩の様子を見てきてくれるかい?」

「……でも、僕でいいんですか?」

 

 千歳は朔夜の方を見る。

 朔夜もあんなこと言いたかったわけではない。

 そんなことは千歳にもわかっていた。

 

「うん。僕は朔夜と話がしたいし、漣には憩を任せられないだろう?」

「おい、ナチュラルにひでえこと言うなよ」

「……わかりました」

「頼んだよ」

 

 旭の言葉に頷くと、千歳は書斎を後にした。



 

「落ち着いたかい?」

「すみません、いこを傷付けました……」

「僕には、朔夜の方が傷付いてるように見えるけどね」

 

 旭は眉を寄せると、コーヒーを啜る。

 憩と千歳があそこまで仲良くなっているのは、旭的にも驚きだった。

 それと同時に、千歳の飾らないところが憩には心地良かったのだろうとも思った。

 

「にしてもよー、あいつらあんなに仲良かったんだなー」

「おそらく、昨日の潜入後からかな。

 元々千歳とは、気が合いそうではあったからね」

「そうか? 俺は意外だったけどなー」

 

 漣は足を組むと天井を見上げる。

 どのあたりが気が合いそうなのか、漣には全く検討もつかない。

 

「どのあたりでそう思うんだ?」

「いこも寒凪も本好きだし、歳も近ぇし」

「それだけで仲良くなるか? 寒凪だぞ?」

「漣が千歳をどう見てるのかわからないけれど、憩には千歳ほど気の合う相手はいないと思うよ」

 

 朔夜にとって、これは突き付けられたくない現実だが、そうであろうことはとっくにわかっていた。

 

「はあ? 全くわかんねー」

「いこにとって、初めての友達で仲間なんだよ、寒凪は」

「はあ!? 俺らは仲間じゃねえのかよ」

「そういう意味じゃねぇよ。

 細小波(いさらなみ)は旭の、つまり兄貴の友達。

 俺は、久々に会った幼馴染みたいなもんなんだよ」

「朔夜の言う通りさ。

 憩の中で僕たちは、友達でも仲間でもない。

 家族なんだよ」

 

 旭の言葉が、重く響いた。


 


 トントントン

 

「……誰?」

「……憩、僕だよ」

 

 カチャ

 

 扉が開く。

 憩の目元は真っ赤に腫れていた。

 

「……大丈夫?」

「大丈夫です、申し訳ございません……」

「……謝らなくていいよ」

「私、朔夜にひどいことを言ってしまいました……」

「……うん。謝りに行く?」

「行きません」

 

 意外だった。

 憩なら絶対に謝りに行くって言うと思ったのに。

 

「……行かないんだ」

「朔夜も悪いと思います」

「……否定はしないけど。

 でも、ずっとこのままは嫌じゃない?」

「嫌ですが、今は謝りません」

 

 千歳が思った以上に憩は頑固だった。

 もう、何を言っても今はダメだろう。

 

「……じゃあ、気分転換に甘味でも食べに行く?」

「甘味……」

「……夕方から任務あるし、やめとく?」

「いえ、行きます!」

 

 憩は目元をゴシゴシと腕で拭うと、にっこり笑う。

 

「……やっぱり、憩は笑ってる方がいいね」

「では、甘味処へ行きましょう!」

 

 元気になった憩と共に、千歳は玄関へと向かうのだった。


 


 玄関へ着くと、憩は少し待ってるよう千歳に言われた。

 書斎の方へ向かったところを見ると、旭に許可を取りに行ったのだろう。

 しばらくすると、千歳が戻ってきた。

 

「……お待たせ。

 夕方までには戻るように、だって」

「わざわざ許可を取りに行かなくても……」

「……ダメだよ、ちゃんとしないと。

 憩に何かあったら、みんなが悲しむんだからね」

「わかりました……」

「……うん、じゃあ行こうか」

 

 2人は並んで甘味処へと向かう。

 朔夜以外の相手と、こうして歩くのは初めてだ。

 

「千歳さんは、甘味処へはよく行くのですか?」

「……あんまり行かないかな。

 1人でいることが多いから」

「そうなのですね。

 みんな、萎縮してしまうのでしょうか……」

「……どういうこと?」

「千歳さんはお話が面白いので、お友達は萎縮してしまうのかな、と」

 

 話が面白い、そんなこと言われたことはない。

 萎縮はさせているだろうが、意味が違う。

 そもそも友達などいない。

 

「……友達なんて、いたことないし」

「では、私とお友達になってください!」

「……え?」

「私もお友達がいないんです!

 お互い、初めてのお友達になりませんか?」

 

 これ以上踏み込んだらまずい。

 千歳はなぜかそんな気がした。


 

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