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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第1折 結成、特務部隊・白銀

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10句 諸刃の剣


「なあ……、別の店でもよくねえか? ここ、高いんだよな……」

 

 漣(れん)が財布を握り締める。

 憩が選んだのは、相楽家行きつけの高級トンカツ屋だった。

 

「申し訳ありません……。別のお店にしましょう」

「大丈夫だ、いこ。先輩が奢ってくれるって言ったんだからな」

「……そうだそうだ、先輩が奢ってくれるって言ってた」


 先ほど散々絡まれた朔夜と千歳が、ここぞとばかりに反撃する。

 

「お前らさー、こういうときだけ先輩扱いするのずるくねえか!?」

「まぁまぁ、落ち着いてよ漣。白銀(しろがね)での食事だから経費になるよ、大丈夫さ」

 

 旭が漣の肩を叩く。


 そもそも、キミの財布は期待していないし。

 

「マジでお前聖人だわ。一生ついて行くぜ旭!!」

「はいはい、感謝は仕事で返してね」

 

 5人が店に入ると、座敷へと通された。

 旭・憩・朔夜、漣と千歳が並んで座る。

 

「憩、経費だから人数分しか頼めないからね。もっと食べたいなら、お小遣いで頼むんだよ」

「だとよ。お前、金持ってきてんのか?」

 

 朔夜は静かに隊服のポケットを探る。

 

 財布……、ある。問題ねぇな。

 

「うん! ちゃんと持ってきてるよ!」

 

 憩はにっこりと笑うと、ちりめんのかわいいがま口を取り出した。

 

「……持ってる物かわいいのに、買う物がかわいくない」

「何言ってんだ寒凪(かんなぎ)。食わねぇいこなんかいこじゃねぇよ」


 朔夜が憩に目をやると、楽しそうにメニュー表を見ていた。

 

「……そうですね。憩が財布持ってなかったら、杣(そま)さんが出すつもりでしたよね?」

「は、はぁ!? 頼まれてねぇのに出さねぇよ!!」

「……自分の財布あるか、確認してたくせに」

 

 千歳に図星を突かれ、朔夜は今にも怒鳴り散らしそうだ。

 そんな彼の袖を、憩がくいくいと引っ張る。

 

「ねぇ、朔夜。コロッケ半分こしない?」

「半分こ? いこなら1人で食えるだろ?」

「食べられるけど、朔夜1人分はいらないかなって」

「はぁ? どういうことだ?」

「さっき助けてもらったお礼! 朔夜、コロッケ好きでしょ?」

 

 憩のはじけるような笑顔に、朔夜は目を奪われた。

 

「朔夜? どうしたの?」

「……なんでもねぇよ、ありがとな」

「うん! どういたしまして!」


 更に注目する物を決めるべく、憩はメニュー表へ視線を落とす。

 

「……コロッケじゃなくて、憩が好きだよって言えばいいのに」

「バカ!! 言っちまったら面白くねえだろ!?」

 

 千歳と漣は目の前のやり取りを見ながら、コソコソ話していた。


 

 

 旭が注文を終えると、仕事の話になった。

 

「今日までは交流も兼ねて自由に過ごしているけれど、明日から白銀として仕事開始だよ」

「なんだ? もう任務来てんのか?」


 漣の呑気な発言に、旭がため息をついた。

 

「これからは憩がいるんだ。人通りの多い昼間のうちに偵察して、吸血鬼(奴ら)を炙り出せるのはメリットしかないだろう?」

「だとよ。明日から忙しいぞ、いこ」

 

 朔夜は憩の髪を結ってやりながら声をかける。

 

「うん! 今度は上手に力を使えるといいんだけど……」

「使ってくうちに慣れるだろ。歩けなくなっても、また背負ってやる」

「ありがとう! でもちゃんと使えるようになりたいな……」

 

 憩は両の手のひらを顎のあたりで合わせた。

 

「なあ、誰もつっこまねえから俺がつっこむけどよ……。杣(そま)がナチュラルに、憩の髪結ってんだけど!?」

「何言ってんだ? 結わねぇと食うときに邪魔だろが」

「いやそこじゃねえよ!! 俺が言いたいのはそこじゃねえの!!」

 

 バンバンと、漣が興奮気味でテーブルを叩く。

 そんな彼を見て、隣に座る千歳が顔を歪ませた。

 

「……マナー悪。こんな大人になりたくない」

「そうだね、漣。少し静かにしようか」

「いや兄貴として、なんとも思わねえのか!?」

「朔夜が髪を結ってくれると、憩のかわいさが引き立つからね。兄としては嬉しい限りだよ」


 3人が話していると、朔夜が髪を結び終える。

 結び目に、葡萄色(えびいろ)のリボンを飾ってやった。

 

「ありがとう、朔夜。今回はハーフアップだね!」

「任務行く前に、またまとめてやるからな」

 

 朔夜の言葉に、憩はニコニコと嬉しそうに笑った。


 

 

 そうこうしているうちに食事が運ばれてくる。

 憩がトンカツの他に、コロッケとエビフライも頼んだのでテーブルはいっぱいだ。

 いただきます! と挨拶をして5人は食べ始める。

 

「朔夜、エビフライ美味しいよ。1本あげる!」

「ありがとな。帰りに甘味買ってやるよ」

「いいの!? ありがとう! はい、これ朔夜の分のコロッケ」

「ありがと。いこ、衣ついてんぞ」

 

 朔夜は憩の口元についた衣を取ってやると、それを自らの口に運んだ。

 

「おい!! 今の見たかよ寒凪!!」

 

 漣は千歳の肩を思いっきり揺らす。

 

「……痛いんですけど。さっさと付き合えばいいのに、この2人」

「そう簡単には進まないさ。もう、4年も前からこうなんだから」

 

 旭は少し呆れながらも、微笑む。

 その目線の先には、仲睦まじく肩を寄せ合う憩と朔夜の姿があった。


 

 

「美味しかった! ご馳走様でした!」

 

 外に出ながら、憩は満足そうににっこりと笑う。


「旭、支払いありがとうな!! 明日から一文無しになるところだったぜ!!」

「……計画性なさすぎでしょ」

「なんだよ、かわいくねえ後輩だな!!」

「うん、いいチームになりそうだね白銀は」

 

 旭は4人を見ながら笑う。

 

 それぞれの個性がいい感じに調和している。

 このメンバーに、心地良さを感じるくらいだ。

 

「じゃあ、一旦解散で。朔夜、憩夕方までには戻ってきてね」

「わかりました。いこと甘味処に寄ったら戻ります」

「ではみなさま、1度ごきげんよう」

 

 2人は仲良く並んで歩いていく。

 旭はその後ろ姿をじっと見つめていた。

 

「どうした旭。憩なら杣がいるし大丈夫だろ」

「そうだね。……漣と千歳に話しておきたいことがあるんだ」

「なんだ? 珍しいな、お前がそんな難しい顔をするの」

「……たしかに。旭さんはいつも穏やかな顔をしているから。何かありました?」


 浮かない顔をする彼を見て、2人は本心を口にする。

 深く呼吸をすると、旭は覚悟を決めたように口を開いた。

 

「憩の神(・)子(・)の(・)血(・)について、2人に話しておきたい」


 

 

 3人は客間のソファに腰をかけていた。

 テーブルには、コーヒーとクッキーが用意されている。

 旭は深いため息をつくと、神妙な面持ちで口を開いた。

 

「憩はこの間まで、お祖父様から許可が下りないと屋敷を出られなかった。これは、神子の血が関係している」

「それは知ってっけどよ、その神子の血がなんだってんだ?」

「神子の血は吸血鬼(奴ら)にとって脅威であり、薬でもある」

「はあ? 言ってる意味がわかんねえ」

 

 漣はガシガシと頭をかく。


 吸血鬼(ヴァンパイア)を見抜ける、便利な力じゃねえのか?

 

「……脅威はわかります。憩の力があれば、どれだけ擬態しても見破られてしまいますから」

「さすがだね、千歳」

 

 旭は千歳の顔を見ると、優しく微笑んだ。

 

「じゃあ、薬ってのはどういうことだ?」

「……神子の血は、西洋から来た吸血鬼にとって特効薬みたいなものでね。純銀さえ弾くほどに、肉体を強化させる」

「はあ!? それ本当かよ!!」


 漣は身を乗り出す。


 純銀だけが、あいつらに対抗できんだぞ!?

 それが……効かなくなるってのか!?

 

「本当だよ。それを調べるために、お祖父様の指示で倒した眷属(スロール)たちを運んでいたんだからね」

「……なるほど。後処理とは、体(てい)のいい検体運びだったわけですか」

「その通り。だからこそ、僕は憩を絶対に特務部隊になんか入れたくなかった……」


 お祖父様の、総司令の指示であっても……。


 旭は俯くと、手をきつく……きつく握りしめた。

 

「まあ、そうだよな……。言い方は悪いけど、エサじゃねえかよ……」

「……だから杣さんあのとき、囮に使うのかって聞いてたんですね」

「はあ!? 杣は知ってんのか!?」

「うん、朔夜はこの事実を知っているよ。だから4年前も今も、憩から片時も離れない」

 

 漣は既に冷めてしまったコーヒーを、一気に飲み干す。


 そういうことかよ……。

 ただの過保護じゃねえんだな……。

 

「……僕たちをわざわざ呼んで話したってことは、憩は知らないということですね?」

「そうだよ。それに、これからも話すことはない」

「なんでだよ!! 言ってやった方が自衛しやすいだろうが!!」

「……細小波(いさらなみ)さんて、憩が小さいときから知ってるんですよね?」


 興奮のあまり立ち上がっている漣を横目に、千歳が呆れたような、諦めたような視線を送った。

 

「ああ? まあな。旭と知り合ったのが15のときだから、憩が8つのときから知ってるぞ?」

「……それなのに、わからないんだ」

「はあ!? なんだよ、わかるように言えよ!!」


 漣は怒りのあまり、千歳に怒鳴り散らす。


「なんで本人に言ってやらねえんだよ!! それなら憩も、全部わかるじゃねえか!!」


 感情が滅茶苦茶になっている漣に、旭が静かに告げた。

 

「もしあの子に、その血は奴らの肉体を強化してしまうから気をつけて。なんて伝えてみてごらん。

 憩のあの優しい性格だ。僕たち……いや、大好きな朔夜に迷惑をかけたくない一心で、自ら命を絶ってもおかしくないだろう?

 だから……あの子には伝えられないんだ……」

 

 旭は、無理に笑ってみせた。



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