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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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23/42

23句 春嵐


「憩、ちょっと休憩にしようか」

「はい!」

 

 巡回班の3人が掃除をしている頃、旭と憩の2人は剣術の稽古をしていた。

 

「大丈夫かい?」

「はい! 私、お兄様と稽古ができてとっても嬉しいです!」

 

 目の前で嬉しそうに笑う、愛しい妹の頭を撫でる。

 両親が死に、僕が特務部隊を、(なごみ)が芸花魁を目指すようになってから、憩は1人閉ざされた屋敷の中で過ごしてきた。

 もちろん、使用人たちや指南役はついていたが、彼らが憩に接するのは()()だからだ。

 唯一、憩の専属である矢桐さんは、情を持って接してくれているが、それでも仕事として繋がっているだけ。

 だから、お祖父様に連れられてやってきた朔夜に、愛情を求めるのは自然なことだった。

 

「ごめんね、今まで寂しい思いをたくさんさせたよね」

「お兄様のせいではありません。

 それに、今は一緒にいてくれるではないですか」

 

 にっこりと笑う憩に、心がじんわりと温かくなる。

 和と2人で決めた。この笑顔を護るためならなんでもすると。

 神子だとかそんなのは関係ない。大事な大事な妹だ。

 

「これからはずっと一緒だよ。朔夜も(れん)も千歳も一緒だ。

 もう絶対、寂しい思いはさせないし、1人にもさせない」

「はい、ありがとうございます。

 私も、みんなの力になれるよう精進いたします」

 

 頑張らなくていい、ただずっと護られていてほしい。

 そんな言葉をグッと飲み込む。

 

「うん。期待しているからね」

 

 そんな、思ってもいない言葉を伝えるのだった。


 


「さて、午後から潜入もある。先にお風呂に入っておいで」

「でも、お兄様が先に入られた方が……」

「ううん。憩が先に行っておいで」

「わかりました! すぐに入ってまいります!」

「ゆっくりでいいからね」

 

 そろそろ3人が戻って来てもおかしくはない時間だ。

 汗をかいている姿なんて見せたくはないだろう。

 もちろん、誰かさんが覗いたりしないよう、ガードする意味もあるが。

 

「……戻りました」

 

 旭が書斎へ入ろうとしたタイミングで、千歳が帰ってきた。

 

「おかえり、お疲れ様。巡回はどうだった?」

「……申し訳ありません。

 1箇所しか回れませんでした」

「何かあったのかい?

 それに、千歳しか見当たらないけれど」

 

 2人は書斎のソファへと腰掛ける。

 千歳は、屯所での出来事と、2人が宿舎でシャワー浴びてから帰ってくることを伝えた。

 

「なるほど。やはり目が届いていないとそうなるか」

「……白銀が結成して、まだ数日です。

 それでこの状態だと、正直先が思いやられます」

「その通りだね。巡回は、今後も定期的にしよう」

 

 四門が指揮系統から抜ければ、こうなることはだいたい予想がついていた。

 これまでは、総司令から東門である自分に、自分から他の四門に、四門から各領土の屯所に、という流れで指示が下りていた。

 しかし、四門が本部のある東領に集結している今、総司令から直接各屯所に、文のみで指示が下りている。

 これでは目の届きようがないし、隊士たちが手を抜くのも、もはや必然だ。

 

「……もしかして、最近総司令が不在なのも」

「おそらく、東領外の巡視に行っているんだと思う。

 さすがお祖父様だ、この状況も想定内ということだね」

「……申し訳ありません、管理が行き届いておらず」

「千歳が悪いわけじゃないだろう?

 それに、僕の管轄である東領でさえこの状態なんだ、致し方ないことだよ」

 

 やれやれと首を振る。

 本部から目と鼻の先にある屯所でさえこれだ。

 西領、さらに遠方にある北領や南領は、悲惨な状態であることは容易に想像できる。

 旭と千歳は同時にため息を吐いた。



 

 バンッ!!

 

「お兄様! お風呂どうぞ!」

 

 書斎の扉を勢いよく開けながら、憩が入ってくる。

 まさか千歳が帰ってきているとは思わず、ノックもなしだ。

 

「憩、行儀が悪いよ」

「も、申し訳ございません……。

 お兄様も、早くお風呂を使いたいかと思いまして……」

「その気持ちは嬉しいけれど、今は千歳や(れん)も一緒に住んでいるんだ。

 普段から身なりやマナーには気をつけないとダメだろう?」

「はい、仰る通りです……」

 

 旭に叱られ、憩はあからさまにしゅんとしていた。

 

「……シャワー浴びてきたの?」

「はい……。

 ご無礼を働き、申し訳ございませんでした」

「……大丈夫だよ、気にしないから」

「じゃあ、僕もシャワーを浴びてくるよ。

 千歳、悪いけれど憩の相手をよろしくね」

「……わかりました」

 

 旭が書斎を出ていくと、2人だけになる。

 憩は定位置にちょこんと腰掛けた。

 

「千歳さん、おかえりなさい! 巡回お疲れ様でした!」

「……うん、ありがとう。憩は稽古どうだった?」

「久しぶりにお兄様を独り占めできて嬉しかったです!」

 

 それは稽古と関係ないのではないか、と思ったが、憩は嬉しそうにしている。

 

「……そっか、それはよかったね」

「はい! あ、そうだ! 千歳さん、ちょっと来てください!」

 

 憩は立ち上がると、千歳の腕をグイッと引っ張る。

 

「……待って、どこに行くの?」

「私のお部屋です!」

「……昨日も言ったけど、それはダメだよ」

「大丈夫です!

 中に千歳さんが入らなければいいんですよね?」

「……どういうこと?」

「いいから来てください!!」

 

 千歳は意味もわからぬまま、憩に連れて行かれるのだった。



 

「えっと、今から本のタイトルを読み上げます!

 気になるものがあったら、教えてくださいね!」

「……ねぇ、これどういう状況?」

 

 千歳は憩の部屋の前で立たされていた。

 部屋の中がダメなら、部屋の前ならいいだろうということだ。

 が、扉が開け放たれているため、中は丸見えである。

 

「今日も潜入ありますよね?

 そのときに本を持っていったら楽しいかと思いまして!」

「……そういうこと。

 でも僕はいいよ、憩は好きなの持っていきなよ」

 

 自分まで一緒になって楽しむわけにはいかない。

 憩には普通にしててと言ったが、潜入は仕事だ。

 

「千歳さんは選んでくれないのですか?」

 

 千歳の返事に、憩は寂しそうな表情をする。

 

「……持っていくかはわからないけど、今書斎で読むならいいよ」

「本当ですか!?

 千歳さんが気になるものがあればいいのですが……」

「……憩は普段、どんな本を読むの?」

「漢文が好きでよく読みます。

 あとは小説や古文、短歌も読みますよ」

 

 憩は千歳が好みそうなものを何冊か、本棚から取り出す。

 

「……そうなんだ。だから教養が深いんだね」

「千歳さんには及びません。

 それに、私はお姉様のおこぼれで学んでいただけですし」

「……お姉さん、(なごみ)さんだっけ」

「はい!

 お仕事で忙しく、千歳さんはお会いになっていませんよね?」

 

 憩は本を選び終わると、抱えて部屋から出てくる。

 随分と大量に選んだようで、前がほとんど見えていない。

 

「……うん、まだ会ったことないかな」

 

 千歳は返事をしながら、憩が抱えている本を受け取ろうとした。

 

「いえ、自分で運びます!」

「……危ないからダメ。前見えてないでしょ?」

「ですが、私がたくさん選んだので……」

「……じゃあ、代わりにこれ持ってて」

 

 千歳はポケットから昨日と同じ短歌集を取り出し、憩に渡す。

 

「……それ、僕の大事な物なんだ。

 だから、落とさないようにしっかり持っててね」

 

 千歳は憩から大量の本を預かると、書斎へと向かった。


 

 

「戻りました」

「帰ったぜー!!」

 

 2人が挨拶すると、パタパタと足音が近づいてくる。

 憩の専属である矢桐だった。

 

「漣様、朔夜様。

 おかえりなさいませ、任務お疲れ様でした」

「おう! ありがとな!!」

 

 おかしい。朔夜は瞬間的にそう思った。

 いつもなら、いこが誰よりも先に出迎えてくれるのに、と。

 

「朔夜様、憩様でしたら書斎にいらっしゃいます」

「そうですか、ありがとうございます……」

「なんだよー!

 出迎えがないからって拗ねんなよなー」

「うるせぇんだよ」

「はいはい、早く書斎に行こうぜー!」

 

 朔夜は不満を抱えながらも、漣と書斎へと向かう。

 そこへ、ちょうど風呂上がりの旭が合流した。

 

「2人ともおかえり。随分な有様だったんだってね」

「すごかったぜ!! 超汚くてよー!!」

「うん、千歳から聞いているよ。

 その話も兼ねて、明日からの行動を考えないとだね」

 

 旭は困ったように笑う。

 ふと、朔夜の表情が暗いことに気がついた。

 

「どうしたんだい朔夜。何かあったかい?」

「憩の出迎えがなくて拗ねてんだよ」

「はぁ!? 違ぇよ!!」

「憩が? それは珍しいね……」

 

 憩が朔夜を出迎えないだなんて、体調でも悪いのだろうか?

 

「書斎にいるって言ってたよなー」

「書斎ってことは、千歳といるのかな」

 

 旭の言葉に、朔夜の眉間にシワが寄る。

 昨日から何かおかしい。

 朔夜の胸はザワザワとした違和感に包まれていた。


 

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