22句 冴返り
「じゃあ、そっちは任せたからね」
「……了解」
「巡回なんて久々だなー!!」
「いこ、夜はまた潜入だからな。無理すんなよ?」
「大丈夫だよ。朔夜も気をつけてね!」
朝食を終えた5人は、午前の任務へと取り掛かっていた。
朔夜・漣・千歳の3人は、帝都領(東領)の特務部隊がきちんと任務をこなしているか、抜き打ち確認をする巡回任務にあたる。
一方、旭と憩の2人は、憩の護身術強化のため居残りだ。
「いってらっしゃーい!!」
憩が元気に手を振ると、3人は振り返って手を振り返す。
「じゃあ、訓練を始めようか」
「はい! お願いいたします!」
「まずは、憩の基礎体力が知りたい。とりあえず、少し走ろう」
「わかりました。お兄様も走られるのですか?」
「もちろん。
今の僕では非力すぎて、吸血鬼にトドメを刺せないんだ。
だからこれは、僕の訓練も兼ねているんだよ。
一緒に頑張ろうね」
「はい!」
兄妹は微笑み合うと、仲睦まじく並んで走り始めた。
「あー、朝飯美味かったなー」
「……それさっきも聞いた」
屯所へと向かう道中、何度も朝食の感想ばかり言う漣に、朔夜も千歳もうんざりしていた。
「憩は料理上手だ。って旭から聞いてたけどよー、
マジで上手だよなー!! 嫁に来てほしいわ!!」
ガハハと笑う漣に、朔夜と千歳が冷ややかな視線を送る。
「テメェだけは絶対ありえねぇ」
「……憩は、細小波さんを選ばないと思う」
「失礼な奴らだなー」
「意味わかんねぇこと言うからだろ」
「つーかよ、そんなに大事ならさっさと言えばいいだろ?
何意地張ってんだよ。
んなことしてると、誰かに取られるぞ?」
いつもふざけている漣だが、今回は割と真面目に話していた。
朔夜がいつまで経っても1歩を踏み出さないからだ。
「テメェに何がわかんだよ……」
「そうねー、何もわかんねえよ。
ただ、そうやって気のない振りしてると、いつか憩に見限られるからな」
漣の言葉で、朔夜があからさまに不機嫌になる。
「……もうやめよ。任務に差し障る」
「わかってるよ。
俺だって別に喧嘩したいわけじゃねえし」
「……喧嘩売っておいて、よく言う」
千歳はどちらの肩を持つ気もなかった。
漣の言うこともわかるし、朔夜の気持ちもわかるからだ。
「テメェとは組みたくねぇ……」
朔夜はボソッとつぶやくと、2人の輪から抜ける。
「……杣さん、どこ行くんです?」
「俺は向こうの屯所に行く。寒凪、そっちは任せたぞ」
「……旭さんに、3人で動くよう言われてますよね?」
「本人いねぇんだから、別にいいだろ」
そう言うと、朔夜は2人とは別方向に向かって歩いていく。
「なんだー? やっぱりガキだなあいつ」
「……細小波さんが余計なこと言うから」
「はあ!? 俺が悪いって言いたいのかよ!!」
「……そんなこと言ってないでしょ。
やっぱり面倒臭いな、この人たち」
千歳はため息を吐くと、朔夜の後を追う。
「なんだよ!! 寒凪も俺を見捨てるのか!?」
「……違うよ、3人で行くんだよ。
旭さんに叱られたいなら、1人でそっち行けば?」
スタスタと歩いて行く千歳の背を、漣も急いで追うのだった。
「チッ……、腹立つなぁ……」
朔夜は漣に言われた言葉を思い出していた。
細小波の言うことは正しい、そんなことはわかっている。
わかっているからこそ腹立たしい。
好きだとか、大事だとか、そんな軽い言葉じゃ言い表せない。
いろんな感情が溢れ出しそうになり、思わず足が止まる。
「……クソが」
朔夜は俯くと、ギュッと拳を握りしめた。
「あれー? 杣さんじゃないっすかー!
何やってんすか、こんなところで」
声をかけられ顔を上げると、特務部隊の後輩たちがいた。
「お疲れっす!
今日は憩ちゃん、いないんすかー?」
「いねぇよ。いても会わせねぇし」
「ひっでぇ先輩!
そういや、最近は新設部隊にいるんでしたっけ?」
「あぁ。なんだよ、知ってんのか?」
白銀は爺さんの私設部隊だ。
特務部隊内にも、よく思わない奴がいてもおかしくはない。
朔夜は後輩たちに疑心の目を向ける。
「知ってる、というか噂で聞いたんすよー」
「へぇー。どんな噂だよ」
「四門が揃ってるって、まじすか?」
これは別に知られても問題ない程度のことだ。
「あぁ。そうだよ」
「まじすか!? って、杣さんも四門っすもんねー」
「北門がめっちゃ美人て本当すか!?」
北門、つまり寒凪のことだ。
他人の容姿の良し悪しを、とやかく言うのは好きではない。
「北門は知ってっけど、美人かは知らね」
「なんすかそれー! 教えてくださいよー!」
「自分たちで確認しろよ」
「えー!? だってどの人かわかんないじゃないすか!!」
「そうっすよ!
西門の杣さんと、東門の旭さんしか会ったことないのに」
ギャイギャイと、後輩隊士たちが騒ぐ。
これは巡回するまでもなく、真面目に仕事はしてないだろうと予想ができた。
「お前さっき、俺がなんでここにいるかって聞いたよな?」
「そうそう! なんでいるんすか!?」
「まさか、遊びに来てくれたんすか!?」
「んなわけねぇだろ、仕事で来たんだよ。
お前らが真面目に仕事してるかどうか、抜き打ちでな」
朔夜の言葉で後輩隊士たちが静かになったのは、言うまでもない。
屯所は、それはそれは酷い有様だった。
宿舎に帰らず、寝泊まりしている者もいるのだろう。
そこら中に脱ぎ捨てた衣服や、食事をしたゴミなどが散乱している。
「い、いやぁ、まさか杣さんが来ると思わなくて……」
「来るとわかってたら掃除したんすけどね……」
「こんなことだろうとは思ってたよ」
朔夜はため息を吐く。
旭に報告しようにも、任務云々以前の話だ。
「……何この屯所、臭いんだけど」
「うわ、汚ねえな!! あ゙、なんか踏んだ!!」
聞き覚えのある声に振り向くと、細小波と寒凪が来ていた。
「なんでここにいんだよ……」
「……旭さんに叱られたくないので」
「あー……、その、悪かったよ。
お前の気持ち考えねえで、余計なこと言ってさ」
漣はポリポリと頭をかきながら、申し訳なさそうにしている。
「いや、俺の方こそ任務中なのに私情を挟んだ」
「俺さ、別に喧嘩したかったわけじゃねえんだよ」
「わかってるよ、テメェがおせっかいなことくらい」
「……はい、仲直りしたね。じゃあ任務再開ということで」
2人が仲直りしたのを見届けると、千歳は隊士たちに向き合った。
「……で、何この屯所。
臭いし汚いしあり得ないんだけど。
どうやったらこうなるの? 僕に教えてくれない?」
「も、申し訳ございません……。
任務で忙しく、片付けできていませんでした……」
「次回までには綺麗にしておきますので、何卒お許しください……」
隊士たちは千歳の圧に怯えつつも、状況を説明する。
夜間偵察明けで、ゆっくり!
の予定が崩れ、泣きたいくらいだった。
「……次回?」
「はい! 次回までには必ず!」
「……何言ってるの? 今すぐやるんだよ。
そんなこと言ってる暇あるなら早くやって」
「「「かしこまりました!!」」」
隊士たちは半泣き状態で、屯所の掃除を始める。
「怖えー、さすが北門の掃除屋だな!!」
「……その呼び方、やめてくれる? 嫌なんだけど」
「そうだ、お前らよかったな。北門に会えたじゃねぇか」
朔夜の言葉に隊士たちの手が止まる。
「もしかして、あなたが北門ですか?」
「……そうだけど、何?」
「やっぱり!! お綺麗だと思いました!!」
「噂通りめっちゃ美人だ!!」
まるで女が来たかのような騒ぎだ。
男しかいない世界にいるこいつらにとって、寒凪は天女のように見えるだろうな。
怖ぇけど。
「……手、止まってるんだけど」
「まだ若いのに、四門なんてすごいっすね!!」
「……口より手を動かして」
「聞こえちゃったんすけど、北門の掃除屋が通り名なんすか!?」
「……うざい。いいから早く掃除してよ」
「掃除好きだから、北門の掃除屋なんすか?」
「……は? 死にたいの?」
「ブフォッ!!」
あまりにもふざけた隊士の問いに、漣が吹き出す。
千歳はものすごい表情で漣を睨みつけた。
「バカかよテメェは! 寒凪刺激してどうすんだよ!」
「わ、悪い。ちょっと面白くてよ」
「……ねぇ、突っ立ってないで2人も掃除して」
「え、でもよー、俺ら関係ないし?」
「あぁ。細小波の言う通り、俺ら関係ねぇからさ」
「……じゃあ、旭さんに報告しますね。
2人の喧嘩が原因で、危うく巡回任務失敗するところでしたって」
「わ、わかったよ!! 掃除すればいいんだろ!?」
「ったく、細小波が余計なことすっから……」
旭の次に怒らせていけないのは千歳だと、2人の記憶に刻み込まれた。




