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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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22/39

22句 冴返り


「じゃあ、そっちは任せたからね」

「……了解」

「巡回なんて久々だなー!!」

「いこ、夜はまた潜入だからな。無理すんなよ?」

「大丈夫だよ。朔夜も気をつけてね!」

 

 朝食を終えた5人は、午前の任務へと取り掛かっていた。

 朔夜・(れん)・千歳の3人は、帝都領(東領)の特務部隊がきちんと任務をこなしているか、抜き打ち確認をする巡回任務にあたる。

 一方、旭と憩の2人は、憩の護身術強化のため居残りだ。

 

「いってらっしゃーい!!」

 

 憩が元気に手を振ると、3人は振り返って手を振り返す。

 

「じゃあ、訓練を始めようか」

「はい! お願いいたします!」

「まずは、憩の基礎体力が知りたい。とりあえず、少し走ろう」

「わかりました。お兄様も走られるのですか?」

「もちろん。

 今の僕では非力すぎて、吸血鬼(ヴァンパイア)にトドメを刺せないんだ。

 だからこれは、僕の訓練も兼ねているんだよ。

 一緒に頑張ろうね」

「はい!」

 

 兄妹は微笑み合うと、仲睦まじく並んで走り始めた。



 

「あー、朝飯美味かったなー」

「……それさっきも聞いた」

 

 屯所へと向かう道中、何度も朝食の感想ばかり言う漣に、朔夜も千歳もうんざりしていた。

 

「憩は料理上手だ。って旭から聞いてたけどよー、

 マジで上手だよなー!! 嫁に来てほしいわ!!」

 

 ガハハと笑う漣に、朔夜と千歳が冷ややかな視線を送る。

 

「テメェだけは絶対ありえねぇ」

「……憩は、細小波(いさらなみ)さんを選ばないと思う」

「失礼な奴らだなー」

「意味わかんねぇこと言うからだろ」

「つーかよ、そんなに大事ならさっさと言えばいいだろ?

 何意地張ってんだよ。

 んなことしてると、誰かに取られるぞ?」

 

 いつもふざけている漣だが、今回は割と真面目に話していた。

 朔夜がいつまで経っても1歩を踏み出さないからだ。

 

「テメェに何がわかんだよ……」

「そうねー、何もわかんねえよ。

 ただ、そうやって気のない振りしてると、いつか憩に見限られるからな」

 

 漣の言葉で、朔夜があからさまに不機嫌になる。

 

「……もうやめよ。任務に差し障る」

「わかってるよ。

 俺だって別に喧嘩したいわけじゃねえし」

「……喧嘩売っておいて、よく言う」

 

 千歳はどちらの肩を持つ気もなかった。

 漣の言うこともわかるし、朔夜の気持ちもわかるからだ。

 

「テメェとは組みたくねぇ……」

 

 朔夜はボソッとつぶやくと、2人の輪から抜ける。

 

「……(そま)さん、どこ行くんです?」

「俺は向こうの屯所に行く。寒凪(かんなぎ)、そっちは任せたぞ」

「……旭さんに、3人で動くよう言われてますよね?」

「本人いねぇんだから、別にいいだろ」

 

 そう言うと、朔夜は2人とは別方向に向かって歩いていく。

 

「なんだー? やっぱりガキだなあいつ」

「……細小波さんが余計なこと言うから」

「はあ!? 俺が悪いって言いたいのかよ!!」

「……そんなこと言ってないでしょ。

 やっぱり面倒臭いな、この人たち」

 

 千歳はため息を吐くと、朔夜の後を追う。

 

「なんだよ!! 寒凪も俺を見捨てるのか!?」

「……違うよ、3人で行くんだよ。

 旭さんに叱られたいなら、1人でそっち行けば?」

 

 スタスタと歩いて行く千歳の背を、漣も急いで追うのだった。


 


「チッ……、腹立つなぁ……」

 

 朔夜は漣に言われた言葉を思い出していた。

 細小波の言うことは正しい、そんなことはわかっている。

 わかっているからこそ腹立たしい。

 好きだとか、大事だとか、そんな軽い言葉じゃ言い表せない。

 いろんな感情が溢れ出しそうになり、思わず足が止まる。

 

「……クソが」

 

 朔夜は俯くと、ギュッと拳を握りしめた。

 

「あれー? 杣さんじゃないっすかー!

 何やってんすか、こんなところで」

 

 声をかけられ顔を上げると、特務部隊の後輩たちがいた。

 

「お疲れっす!

 今日は憩ちゃん、いないんすかー?」

「いねぇよ。いても会わせねぇし」

「ひっでぇ先輩!

 そういや、最近は新設部隊にいるんでしたっけ?」

「あぁ。なんだよ、知ってんのか?」

 

 白銀は爺さんの私設部隊だ。

 特務部隊内にも、よく思わない奴がいてもおかしくはない。

 朔夜は後輩たちに疑心の目を向ける。

 

「知ってる、というか噂で聞いたんすよー」

「へぇー。どんな噂だよ」

「四門が揃ってるって、まじすか?」

 

 これは別に知られても問題ない程度のことだ。

 

「あぁ。そうだよ」

「まじすか!? って、杣さんも四門っすもんねー」

「北門がめっちゃ美人て本当すか!?」

 

 北門、つまり寒凪のことだ。

 他人の容姿の良し悪しを、とやかく言うのは好きではない。

 

「北門は知ってっけど、美人かは知らね」

「なんすかそれー! 教えてくださいよー!」

「自分たちで確認しろよ」

「えー!? だってどの人かわかんないじゃないすか!!」

「そうっすよ!

 西門の杣さんと、東門の旭さんしか会ったことないのに」

 

 ギャイギャイと、後輩隊士たちが騒ぐ。

 これは巡回するまでもなく、真面目に仕事はしてないだろうと予想ができた。

 

「お前さっき、俺がなんでここにいるかって聞いたよな?」

「そうそう! なんでいるんすか!?」

「まさか、遊びに来てくれたんすか!?」

「んなわけねぇだろ、仕事で来たんだよ。

 お前らが真面目に仕事してるかどうか、抜き打ちでな」

 

 朔夜の言葉で後輩隊士たちが静かになったのは、言うまでもない。


 


 屯所は、それはそれは酷い有様だった。

 宿舎に帰らず、寝泊まりしている者もいるのだろう。

 そこら中に脱ぎ捨てた衣服や、食事をしたゴミなどが散乱している。

 

「い、いやぁ、まさか杣さんが来ると思わなくて……」

「来るとわかってたら掃除したんすけどね……」

「こんなことだろうとは思ってたよ」

 

 朔夜はため息を吐く。

 旭に報告しようにも、任務云々以前の話だ。

 

「……何この屯所、臭いんだけど」

「うわ、汚ねえな!! あ゙、なんか踏んだ!!」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、細小波と寒凪が来ていた。

 

「なんでここにいんだよ……」

「……旭さんに叱られたくないので」

「あー……、その、悪かったよ。

 お前の気持ち考えねえで、余計なこと言ってさ」

 

 漣はポリポリと頭をかきながら、申し訳なさそうにしている。

 

「いや、俺の方こそ任務中なのに私情を挟んだ」

「俺さ、別に喧嘩したかったわけじゃねえんだよ」

「わかってるよ、テメェがおせっかいなことくらい」

「……はい、仲直りしたね。じゃあ任務再開ということで」

 

 2人が仲直りしたのを見届けると、千歳は隊士たちに向き合った。

 

「……で、何この屯所。

 臭いし汚いしあり得ないんだけど。

 どうやったらこうなるの? 僕に教えてくれない?」

「も、申し訳ございません……。

 任務で忙しく、片付けできていませんでした……」

「次回までには綺麗にしておきますので、何卒お許しください……」

 

 隊士たちは千歳の圧に怯えつつも、状況を説明する。

 夜間偵察明けで、ゆっくり!

 の予定が崩れ、泣きたいくらいだった。

 

「……次回?」

「はい! 次回までには必ず!」

「……何言ってるの? 今すぐやるんだよ。

 そんなこと言ってる暇あるなら早くやって」

「「「かしこまりました!!」」」

 

 隊士たちは半泣き状態で、屯所の掃除を始める。

 

「怖えー、さすが北門の掃除屋だな!!」

「……その呼び方、やめてくれる? 嫌なんだけど」

「そうだ、お前らよかったな。北門に会えたじゃねぇか」

 

 朔夜の言葉に隊士たちの手が止まる。

 

「もしかして、あなたが北門ですか?」

「……そうだけど、何?」

「やっぱり!! お綺麗だと思いました!!」

「噂通りめっちゃ美人だ!!」

 

 まるで女が来たかのような騒ぎだ。

 男しかいない世界にいるこいつらにとって、寒凪は天女のように見えるだろうな。

 怖ぇけど。

 

「……手、止まってるんだけど」

「まだ若いのに、四門なんてすごいっすね!!」

「……口より手を動かして」

「聞こえちゃったんすけど、北門の掃除屋が通り名なんすか!?」

「……うざい。いいから早く掃除してよ」

「掃除好きだから、北門の掃除屋なんすか?」

「……は? 死にたいの?」

「ブフォッ!!」

 

 あまりにもふざけた隊士の問いに、漣が吹き出す。

 千歳はものすごい表情で漣を睨みつけた。

 

「バカかよテメェは! 寒凪刺激してどうすんだよ!」

「わ、悪い。ちょっと面白くてよ」

「……ねぇ、突っ立ってないで2人も掃除して」

「え、でもよー、俺ら関係ないし?」

「あぁ。細小波の言う通り、俺ら関係ねぇからさ」

「……じゃあ、旭さんに報告しますね。

 2人の喧嘩が原因で、危うく巡回任務失敗するところでしたって」

「わ、わかったよ!! 掃除すればいいんだろ!?」

「ったく、細小波が余計なことすっから……」

 

 旭の次に怒らせていけないのは千歳だと、2人の記憶に刻み込まれた。


 

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