表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/39

21句 萌芽


「では、私はお兄様たちが戻るのを待ちますので。

 千歳さんは先にお休みください!」

「……憩が待つなら、僕も待つよ」

「本当ですか!?

 千歳さんと、もっとお話がしたかったので嬉しいです!」

 

 千歳の言葉に、憩はにっこりと微笑む。

 

「……僕と話してて、楽しいの?」

「はい、とても楽しいですよ!」

「……そっか。やっぱり憩は変だね」

「千歳さんの言う変は、褒め言葉なのですか?」

「……いや、そんなわけないでしょ」

「そうなのですか?

 だって、千歳さんとても優しい顔をしているので」

「……えっ」

 

 千歳は咄嗟に窓に映る自分の顔を見る。

 指摘されるまで気づかなかった。

 自分の表情が穏やかになっていることに。

 

「立ち話もなんですから、移動しましょう!

 客間か私のお部屋で本でも読みますか?」

「……なんでその2択なの」

「私のお部屋になら、本がたくさんあるので!」

 

 心からの善意で提案してくれているのはわかるが、そんなところを旭さんや(そま)さんに見られたら、除隊どころの話ではない。

 

「……客間にしよう。

 あと、異性を簡単に部屋に入れたらダメだよ」

「そうなのですか?

 お兄様や朔夜は普通にお部屋に入りますよ?」

「……いや、その2人はまたちょっと違うから」

「うん? でも異性ですよ?」

 

 やはり、全く意味が伝わっていない。

 どう伝えたらいいものか、と千歳は少し頭を悩ませる。

 

「……うん、そうだけどさ。

 細小波(いさらなみ)さんを部屋に入れたりはしないでしょ?」

「そうですね……。

 (れん)様には、入りたいと言われたことがないので!」

「……もし言われても、絶対断ってね」

 

 もう少し、このあたりの教育はすべきなのではないかと千歳は思った。

 



 2人が客間で本を読んでいると、玄関の方から声が聞こえる。

 

「あ! 帰ってきた!」

「……走ったら危ないよ」

「大丈夫ですよ!

 ほら、千歳さんも行きましょう!」

「……ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 千歳は強引に腕を引かれながら階段を下りる。

 帰宅したばかりの大人組の3人がそこにはいた。

 

「お兄様! おかえりなさいませ!」

「憩、まだ起きていたのかい? それに千歳まで…。

 ただいま、遅くなって悪かったね。

 何事もなく、任務は終えられたかい?」

「はい! 千歳さんのおかげで無事終えられました!」

 

 旭の問いに、憩はにっこりと答える。

 

「千歳()()……?」

「うん? どうしたの、朔夜」

「いこ、今寒凪(かんなぎ)のことなんて呼んだ?」

「千歳さん」

 

 その言葉を聞いて、朔夜は千歳を思いっきり睨む。

 

「おい、寒凪……。どういうことか説明しろ」

「……説明も何も。

 潜入するのに、様は不自然なのでやめてって言っただけですよ」

「たしかになー。

 あの時間にカフェーにいる関係だもんなー」

 

 漣は悪気なく核心を突くが、朔夜にとっては腹立たしいことだろう。

 今にも千歳に噛みつきそうになっている。

 

「あ、そんなことより。

 お兄様、お願いがあるのですが」

「なんだい? 何か欲しい物でもあるのかい?」

「いえ、そうではなくて……。

 千歳さんと漣様は、現在宿舎にお泊まりだと伺いました。

 そこで、空いている客室を、お2人使っていただきたいのです」

「なるほど。理由は?」

 

 憩の願いはなんでも叶えてやりたいと思っている。

 が、他所の男を屋敷に住まわせるとなると話は別だ。

 もちろん、千歳や漣を信用していないわけではない。

 

「みんなで過ごした方が楽しいからです!」

「たしかにな! みんなで住んだら楽しいな!!」

「……無理がある理由だよ、それ」

 

 自信に満ち溢れた憩の言葉に、旭はため息を吐く。

 

「全く……。

 どうせもう、準備しているんだろう?」

「さすがお兄様! もう用意は済んでいます!」

「そういうことだから、漣も千歳もこの家を使ってもらって構わないよ」

「マジかよ!? 憩、サンキューな!!」

「……ありがとう」

 

 2人の言葉に、憩は嬉しそうにニコニコしている。

 そんな憩の姿を、朔夜は不満そうに見つめていた。

 



 翌朝、憩はいつもより早起きをした。

 みんなで住み始めた特別な朝。

 朝食は自分が作り、みんなに食べてもらいたい。

 そう思った。

 

「おはようございます!」

「おはようございます憩様。朝食はまだですよ」

「お腹が空いたのでしたら、先におやつでも……」

 

 相楽家の使用人たちは、憩の食欲には慣れっこだ。

 

「いいえ、今日は私が用意します。

 みなさんはコーヒーでも飲んでいてください」

「いえ、そんなことをしていては叱られます!!」

「そうです! お手伝いくらいはさせてください!」

 

 使用人たちの言葉に、憩はにっこりと笑みを返す。

 

「これは命令です。

 みなさんはコーヒーを飲んでいてください。

 お兄様には私から説明しますので問題ありません」

 

 そう言われてしまっては、使用人たちは聞かぬわけにはいかない。

 大人しくコーヒーを淹れると、いそいそとキッチンを出て行った。

 

「よし! 朝ごはんはパンケーキにしよーっと!」

 

 大きめの独り言をつぶやくと、テキパキと事を進めていく。

 

「みんな、喜んでくれるといいな……」

 

 そんなことを考えながら用意を進めていると、旭がキッチンに入ってきた。

 

「お兄様、おはようございます!」

「おはよう。今日は憩が作ってくれているんだね」

「はい! お兄様はどうされました?」

「コーヒーでも飲もうかと思ってね」

 

 旭はカップを用意すると、淹れてあったコーヒーを注ぐ。

 

「ねぇ、憩。仕事は楽しいかい?」

「はい! みんなのおかげでとても楽しいです!」

「そっか、それならよかった。

 困ったことや不安なことがあったら、必ず相談するんだよ?」

「はい! 約束いたします!」

「うん、いい子だ。約束だよ」

 

 無邪気に笑う憩の頭を、旭は愛おしそうに優しく撫でた。


 

 

「あー……、眠い!!」

「……朝からうるさい」

「だから嫌なんだよ、一緒に住むの」

 

 朝食の時間が近づき、白銀の面々はダイニングに集まっていた。

 広い部屋の真ん中に白いテーブルが置かれており、高そうな椅子が並んでいる。

 3人はそれに腰掛けていた。

 

「……そういえば、憩は?」

「そういやいねえな。誰よりも食うのになー」

「あいつ、まだ寝てんのか?」

「もう、起きてるよ! 朔夜より早起きした!」

 

 3人が声のする方を向くと、憩がサラダを持って立っていた。

 

「お前、朝からつまみ食いか?」

「違うよ、失礼な」

「みんな、おはよう。朝食は憩が作ってくれたんだ。

 悪いけれど、運ぶのを手伝ってもらってもいいかい?」

 

 憩は持っていたサラダをテーブルの真ん中に置く。

 旭はその隣に皿を置くと、2人はキッチンへと戻っていった。

 

「今の聞いたか!? 憩の手作りだとよ!!」

 

 漣がガバッと立ち上がると、その勢いで椅子が倒れる。

 ダイニングに大きな音が響いた。

 

「……ちょっと、行儀悪いんだけど」

「テメェ、さっきからうるせぇんだよ!!」

「なんだよ!!

 椅子倒しちまっただけじゃねぇか!!」

「だからそれがうるせぇって言ってんだよ!!

 声もでけぇし、態度もでけぇんだよテメェは!!」

「……どっちもうるさい」

 

 千歳は騒がしい2人を放置すると、キッチンへと向かう。

 そこには、果物やらスクランブルエッグやらが並んでいた。

 

「……これ、全部憩が作ったの?」

「はい! 料理は好きなので!」

「なんだい? 来てくれたのは千歳だけなのかな?」

「……はい。2人は喧嘩してます」

「全く……。厳しく指導しないとダメかな……」

 

 旭はため息を吐くと、キッチンを出て行く。

 あの2人終わったな、と千歳は思った。

 キッチンには甘く香ばしい匂いが漂っている。

 

「……何作ってるの?」

「パンケーキです! 千歳さんはお好きですか?」

「……食べたことないから、わかんない」

「そうなのですね。

 では、そちらに掛けていただいてもよろしいですか?」

 

 憩は近くにあった丸椅子に座るよう、千歳を促す。

 

「……いいけど、手伝いに来たんだよ?」

「はい! これも、大事なお手伝いですよ」

 

 憩はにっこり笑うと、焼きたてのパンケーキを千歳の前に置いた。

 

「千歳さん、味見してもらえますか?」

「……でも、食べたことないし」

「だからこそです!

 食べたことのない千歳さんが美味しいって思ったら、大成功ってことですよね!」

 

 本当に変な子だと千歳は思った。

 渡されたフォークで小さく切って、それを口に運ぶ。

 ふわふわしているのにしっとりとしていて、甘いのに香ばしい。

 

「……美味しい」

「よかった! 大成功ですね!」

 

 嬉しそうに笑うその子を見ていると、

 千歳の心もふわふわと温かくなるのだった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ