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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第1折 結成、特務部隊・白銀

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7句 緋の瞳


「いこ、大丈夫か?」

「大丈夫、これぐらい平気!」

 

 2人は目的地に向かって走っていた。

 ガス灯の光が溶け込んでいるのか、憩の金色(こんじき)の瞳は緋色(ひいろ)に輝いている。

 

「ねぇ、朔夜。偵察する場所って遠いの?」

「今回は近ぇ方だな。遠いときは、現地に泊まることもあるぞ」

「そうなんだ! お泊まりなら美味しい物たくさん食べられていいね!」

「お前はまた食い物の話かよ……」


 ……やりたいこと、なんでもさせてやっからな。

 

「……あ、やっと来ました」

 

 2人の姿を見つけた千歳が指をさす。

 

「おい寒凪(かんなぎ)。人に指さすのは失礼だって、教わんなかったのか」

「朔夜、すぐ喧嘩腰にならないの。千歳様、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした」

「……別に大丈夫。あと、千歳でいいから」

「よくねぇよ!! しつけぇんだよテメェは!!」


 騒ぎ始めた2人を見て、旭はやれやれと仲裁に入った。

 

 

 

 今回の任務は、行方不明者が増えている地域にある市井(しせい)の偵察だ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が関係しているのか否か、それが明確にならない限りは特務部隊も迂闊に行動できない。

 

「ねぇ、偵察って何するの?」

 

 憩は串カツを皿に運びながら朔夜に話しかけた。

 

「まぁ、人の流れを見たり、あとは吸血鬼(奴ら)が隠れやすいところはねぇかとか、色々だ」

「ふーん、じゃあこの間みたいに戦ったりはしないの?」

「人通りが多いところでは戦わねぇよ。巻き込んだら大変だし、俺たちは目立たない方がいい」

 

 朔夜は憩の口元に付いたソースを拭ってやった。


 偵察も兼ねて、5人は小さな串カツ屋台で食事をしていた。

 あまり生活様式が整っていない地域で資金を使うのも、仕事の一環だ。

 

「憩、あまり食べすぎないでよ。目立つからね」

「では、これで最後にします……」


 旭に止められ、憩は残念そうに眉を下げる。

 

「もう十分、目立ってるけどな」

 

 朔夜が辺りを見ながらつぶやいた。

 道ゆく人々が憩をまじまじと見ながら通りすぎていく。

 楚々(そそ)とした少女が隊服を着て、串カツ10本を平らげていたら、目立たないわけがない。

 

「……どいつもこいつもジロジロ見んじゃねぇよ」

「おい、杣(そま)。一般人に喧嘩売るなよ、ガキだなー!!」

「おいテメェ、表出ろや!!」


 騒ぎ始めた朔夜と漣(れん)を見て、旭が大きなため息をつく。

 

 本当に騒がしい……。

 うん? 憩が喋らないなんて、珍しいな。

 

 食事をする手も止まり、一点を見つめている。

 

「憩、疲れたのかい?」

 

 旭の言葉に、3人の視線が一斉に憩に集まる。

 

「いこ、どうした? どこか具合でも悪いのか?」

「……ううん。ねぇ、朔夜。あそこにいる人って、人に見えてる?」

 

 憩の視線の先には、スーツを着た長身の男がいた。

 

「はぁ? 人なんだから人に見えてるだろ。お前、何言って――」

 

 答えながら憩に目をやった朔夜は、言葉を失った。


 

 

「朔夜、どうしたんだい?」

「……旭、あそこの角にいる男、奴らかもしれないです」

「……理由を聞かせてくれる?」

「いこの目、見てください」

 

 旭は朔夜に促されるまま、憩の目を見る。

 金色の瞳が、淡い緋色に輝いていた。

 

「これは……。憩、あの男はどんな風に見えているんだい?」

「はっきりと、姿が見えなくて……。黒いモヤが、身体を覆っているような感じです……」

 

 憩の言葉を聞いて、旭の目つきが変わる。

 これまでの穏やかな表情はない。

 

「漣、千歳……、頼む」

「了解!!」

「……了解」

 

 旭が指示を出すと、2人はすぐさま男の元へ向かった。



 

「おにーさん、すいませんねえ。ここで何してるんすか?」

 

 漣のその言葉に、男は急いで踵を返そうとする。

 

「……残念。僕もいますよ」

 

 千歳が男の背後を取っていた。

 

「チッ……、なぜわかった。気配は完全に消していたのに!!」

「白銀には、かわいい歌姫(カナリア)がいるもんでな!!」

「カ、カナリアだと!? ……あの娘か!!」

 

 憩を見つけた男は近寄ろうとしたが、千歳によって阻まれる。

 

「……あの子のところには行かせないよ」

「ガキが!! 調子に乗るなよ!!」

 

 男は千歳に殴りかかろうとしたが、易々と手首を掴まれた。

 おまけに青年の顔は、怪しく微笑んでいる。

 

「……ねぇ、選ばせてあげようか」


 ジャラッ……

 

 千歳は純銀製のチェインを取り出すと、男に見せつけた。

 

「……これに縛られてじわじわ苦しむのと、脳天ぶち抜かれるのどっちがいい?」

「おい、やめろよ寒凪。そんな虐めたらかわいそうだろ?」


 怯えて何も言えなくなっている男を見て、漣が千歳を止めた。

 

「……なら、細小波(いさらなみ)さんがやります?」

「それは名案だな! ここじゃまずいからあっち行こうぜ!」

「……そうですね。念の為、縛りますか?」

「おい! それじゃ結局お前がやんのと変わんねえだろ?」

「……たしかに。じゃあこのまま行きましょう」

 

 2人は男を連れて、路地裏へと入っていった。



 

 漣と千歳が路地裏に入ってしばらくすると、憩の瞳は元の金色に戻っていた。

 

「いこ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ……」

 

 なんか、すごく疲れた……。


 そんな姿を見せまいと、無理に笑顔を作る。


「憩、どこか痛かったりはしないかい?」

「はい、大丈夫です」

「よかった。朔夜、憩を連れて先に帰ってくれるかい?」

「わかりました。いこのことは任せてください」

「頼んだよ。報告も済ませておくから、着いたら朔夜も休んでね」

 

 旭は朔夜の肩を叩くと、2人が入っていった路地裏へと姿を消した。

 

「いこ、帰るぞ」

「うん……」

 

 立ち上がろうとするが、足に力が入らない。


 ……どうして? 何もしてないのに。


 自分でもよくわからない疲労に、憩は混乱していた。

 

「どうした? やっぱりどっか痛ぇのか?」

「なんか、足に力が入らなくて……」

「疲れたんだろ、初任務だったしな」

「えへへ、そうみたい……」

 

 その作り笑いに朔夜は気づいていた。

 憩の前にしゃがみ込むと、背を向ける。

 

「ほら、乗れ。さっさと帰んぞ」

「え、でも……、重いし……」

「お前みたいな細っこ、重くもなんともねぇよ。さっさと乗れ」

 

 憩はなんとか立ち上がると、朔夜の背に身体を預ける。

 

「しっかり捕まっとけよ……」

「うん、ありがとう……」

 

 朔夜は憩を背負うと、市井を後にした。


 

 

 帰り道、憩は4年前の花火大会と今を重ねていた。

 あのときより広くなった背中、伸びた身長、引き締まった身体。

 何もかもが4年前とは変わっていて、まるで別人のようだった。

 

「ねぇ、朔夜。花火大会のこと、覚えてる?」

「いこがはしゃいで、足挫いたときのか?」

「ふふっ、そうそう。まだ覚えててくれたんだね」

「忘れるわけねぇだろ」

「そっか、嬉しいなぁ……」

 

 憩は思わずギュッと背に抱きつく。


 ……あの日と、おんなじ匂いがする。


 憩を背中に感じながら、朔夜は口を開いた。

 

「なぁ、いこ。これからはどこでも行けるぞ。一緒になんだってやってやる。だから……、俺以外にそういうことすんなよ」

 

 今の朔夜にとって、これが精一杯の言葉だった。

 しかし、憩からの返事はない。

 

「……なぁ、せめてなんか言ってくれよ。恥ずいだろが」

 

 声をかけると、すぅ……すぅ……と寝息だけが返ってくる。

 

「……寝てんのかよ。ったく、お前らしいな」

 

 朔夜は憩を背負いなおす。

 

 見た目より軽すぎんだよ――。

 

 

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