6句 歌姫
「そうじゃ、白銀の5人目は憩、お主だ。しっかり励むように」
「は、はい……!!」
黄山に白銀への配属を告げられ、憩は嬉しそうに返事をする。
やった!! これで朔夜と一緒にいられる……!!
喜んでいる憩とは裏腹に、旭の目は黄山への怒りに染まっていた。
「憩を白銀に入れるだなんて、正気ですか!?」
「なんじゃ、旭。総司令である儂の目に狂いがあると言いたいのか?」
「そういうわけでは、ありませんが……。でも、朔夜も反対だろう?」
黄山の圧に耐えられず、旭は朔夜に助け舟を求めた。
「俺は……、いこを危険な目に合わせたくない。でも望むなら、それを叶えてやりたい。そう、思っています」
朔夜は隣にいる憩の目を、真っ直ぐ見つめながら答える。
その言葉を聞いて、少女は金色の瞳を細めながら微笑んだ。
「お熱いねえ……、本人理解してないけど」
漣はニヤニヤと2人のやり取りを見ていた。
そんな彼に寄りかかられている千歳は、心底迷惑げな顔をする。
「……ちょっと、重いんですけど」
「爺さん……、いこを白銀に入れる理由はなんですか?」
朔夜は1歩前に出ると、皆が1番気になっている疑問を黄山にぶつけた。
「うむ、そうじゃな。それについてはきちんと話そう。少し長くなる。皆、楽にしなさい」
そう、静かに答えると、使用人を呼んだ。
6人は書斎のソファに腰を掛けていた。
そこへ、使用人がお茶とお菓子を運んでくる。
「お祖父様、これ食べてもよろしいですか?」
「いこ、これから大事な話をするんだから後にしろよ」
「だって、お腹空いてきちゃったんだもん」
「終わったら、何か食いに連れていってやっから。爺さん、いいですか?」
「構わんよ。もう憩も白銀の一員じゃからな」
「だってよ、だから今は我慢しろ。な?」
「うん!! 楽しみだなぁ」
足をパタパタとさせながら、憩は嬉しそうに笑う。
相変わらず呑気だな……、自分の話するってわかってんのかよ。
「では、話そうかのう。憩を白銀に入れた理由はな――女子がいた方が華があるからじゃ!」
カカッ、と黄山は楽しそうに笑った。
その隣で、旭が拳をわなわなとさせながら、静かに声を絞り出す。
「……お祖父様、ふざけるのはやめてください」
「ふざけておらんよ。最近の吸血鬼の動きは、旭も知っておるじゃろ。これは実にまずい状況じゃ」
「たしかに、仰る通りです。ですが、それと憩にどんな関係が……」
「爺さん、まさかいこを囮に使うなんて言わないですよね?」
朔夜がそう尋ねると、4人の視線が彼に向く。
会話の当人である憩は、お菓子に釘付けだった。
「なんじゃ、朔夜もそのようなことを申すのか。まだまだじゃのう……」
黄山はやれやれ、と両手を挙げる。
「囮ではない。憩は歌姫として、白銀を護る最強の矛じゃ。これは憩にしかできぬ役割じゃよ」
5人を前に、黄山はきっぱりと告げた。
「最強の矛、って言っても憩は戦ったことねえよな?」
「もちろん。剣術や武術は稽古の一環で身についているけれど、実戦で使えるかどうか……」
あの後、「そういうことじゃからの、では解散!」という黄山の一言で会議は終了。
お腹を空かせた憩を連れて、朔夜は外出していた。
残された旭と漣、千歳の3人は客間へと移動し、先ほどの話を振り返っていた。
「それにしても、まさか憩が5人目だとはなー」
漣は紅茶を飲みながらつぶやく。
ちっせえ頃から外に出るのも許可制なのに、変な話だよなー。
「僕も驚いたよ。お祖父様から、白銀は憩を護るために結成したって聞いていたからね」
「……へぇ、そうなんですね」
「お前、知らなかったのか!?」
千歳の今更の反応に、漣は身を乗り出す。
「……はい、興味もなかったので」
「じゃあ1個、面白いこと教えてやる!! 杣は憩のことが好きだから、揶揄うと楽しいぞ!!」
昨晩のことを思い出しながら、漣は千歳の背中をバンバンと叩いた。
無駄に距離が近い彼に、迷惑そうに顔を歪める。
「……痛いんですけど。それに、言われなくても知ってますよ。あんなにわかりやすいのに」
「千歳、あの2人にはそのこと言っちゃダメだよ」
「……わかってます。なんか、面白そうだし」
「なんだ、寒凪とは気が合いそうだな!!」
揶揄い仲間ができた漣は、嬉しそうに千歳の頭をガシガシ撫でた。
「……この人、距離感おかしいです」
千歳は漣を指さすと、呆れた声で旭に報告する。
「漣はそういう奴なんだ、諦めてくれると助かる」
2人のやり取り見て、眉尻を下げながら笑った。
一方、憩と朔夜は近くの甘味処に来ていた。
「えっと、みつ豆とおはぎとおだんごも食べたい!」
「はいはい、どうぞ」
「朔夜は何食べるの?」
「俺は別にいいよ、茶飲んでるわ」
「そっか……」
……せっかく一緒に来たのに。
「……いこのだんご、1個もらってもいいか?」
その一言で、憩の顔がぱぁぁぁっと明るくなった。
わかりやすい奴だな……。
朔夜の顔も思わず綻ぶ。
「じゃあ、朔夜が好きなみたらしにしようかな!」
憩は嬉しそうに笑うと、注文を済ませた。
「美味しかった!」
「それはよかったな」
甘味処を出た2人は、屋敷へと向かっていた。
「朔夜は夜、偵察に行っちゃうんだっけ」
「あぁ、旭が担当しているとこの手伝いでな」
「そう、お兄様の……。頑張ってね!」
憩は寂しさを押し殺し、無理に笑顔を作る。
……お仕事で戻ってきてるんだもん、しょうがない。
「……爺さんから許可下りたら、いこも一緒に行くか?」
「え……? いいの?」
「いこも隊に所属するし、来て損はねぇからな。それに、俺と離れるのが随分寂しいみてぇだしよ」
朔夜は笑うと、憩の頭を優しく撫でた。
「だって、やっと会えたんだもん……」
「そうだな、でもこれからは嫌でも一緒だぞ。常に5人で行動するからな」
正直、細小波と寒凪はいらねぇけど。
「ふふっ、朔夜といられるの嬉しいなぁ……」
憩は嬉しそうにつぶやく。
あっという間に屋敷へと着いた2人は、
「んじゃ、爺さんとこ行くか」
「うん! 許可もらえるかなぁ」
黄山のいる書斎へ仲良く向かった。
その夜、無事に許可を得た憩は隊服に着替えていた。
「朔夜、隊服って結構硬いんだね。それに重い!!」
「いいからさっさと着替えろよ」
「待って! 後ちょっとだから!!」
白銀としての隊服がまだ間に合っておらず、今日はとりあえず兄の物を借りている。
旭たちは憩を朔夜に任せ、先に任務へと向かっていた。
バンッ!!
憩が勢いよく扉を開けた。
「お前……。扉壊れっから、そんな勢いよく開けんなよ……」
「見て見て!! お兄様のだからすごく大きい!!」
憩は裾を持ち上げながら、ぶかぶかの隊服姿で部屋から出てきた。
長身だが細身の旭の隊服でさえ、小柄で華奢な少女にはだいぶ大きい。
朔夜は一瞬、その姿に言葉を失った。
「……朔夜? どうしたの?」
「……本当にお前はいい加減にしろ!! 裾も袖も捲れ!! 髪を結え!! 危ねぇだろバカ!!」
憩の言葉で我に返った朔夜は、隊服の袖を捲ってやる。
細く白い腕がちらりと袖からのぞき、少しドキッとした。
「ねぇ、この髪型じゃダメなの?」
不満げに、ハーフアップを見せられた。
不器用ながら、頑張って結んだんだろう。
形がとんでもないことになっている。
「……あぁ、ダメだ。引っ掛ける可能性があるからな」
「そっか、朔夜にもらったリボン付けたかったのにな……」
憩はがっかりしながら、お気に入りのリボンを外す。
乱れている髪を見ながら、朔夜は静かにため息をついた。
「ったく、結ってやるよ。時間ねぇから簡単なやつだけど」
「いいの!? お願いします!!」
憩は嬉しそうに朔夜に背を向けると、彼の指が少女の髪を撫でた。
2本のおさげを作り、それを交差させて後頭部へと持ってくる。
その結び目を合わせると、中央にリボンを飾った。
「ほらよ、これでリボンも付けられただろ?」
「すごい!! 朔夜は器用だね! ありがとう」
「別に……、このリボン買ったときに聞いただけだよ。それより出発するぞ。旭たち、だいぶ待たせてるからな」
「うん!!」
準備を整えた2人は、闇の中を駆けていく。
歌姫が、籠の中の鳥を脱した瞬間だった。
――その力が、身を削ることも知らずに。




