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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第1折 結成、特務部隊・白銀

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6句 歌姫


「そうじゃ、白銀の5人目は憩、お主だ。しっかり励むように」

「は、はい……!!」

 

 黄山に白銀への配属を告げられ、憩は嬉しそうに返事をする。

 

 やった!! これで朔夜と一緒にいられる……!!

 

 喜んでいる憩とは裏腹に、旭の目は黄山への怒りに染まっていた。

 

「憩を白銀に入れるだなんて、正気ですか!?」

「なんじゃ、旭。総司令である儂の目に狂いがあると言いたいのか?」

「そういうわけでは、ありませんが……。でも、朔夜も反対だろう?」

 

 黄山の圧に耐えられず、旭は朔夜に助け舟を求めた。

 

「俺は……、いこを危険な目に合わせたくない。でも望むなら、それを叶えてやりたい。そう、思っています」

 

 朔夜は隣にいる憩の目を、真っ直ぐ見つめながら答える。

 その言葉を聞いて、少女は金色の瞳を細めながら微笑んだ。

 

「お熱いねえ……、本人理解してないけど」

 

 漣(れん)はニヤニヤと2人のやり取りを見ていた。

 そんな彼に寄りかかられている千歳は、心底迷惑げな顔をする。

 

「……ちょっと、重いんですけど」

「爺さん……、いこを白銀に入れる理由はなんですか?」

 

 朔夜は1歩前に出ると、皆が1番気になっている疑問を黄山にぶつけた。

 

「うむ、そうじゃな。それについてはきちんと話そう。少し長くなる。皆、楽にしなさい」

 

 そう、静かに答えると、使用人を呼んだ。


 

 

 6人は書斎のソファに腰を掛けていた。

 そこへ、使用人がお茶とお菓子を運んでくる。

 

「お祖父様、これ食べてもよろしいですか?」

「いこ、これから大事な話をするんだから後にしろよ」

「だって、お腹空いてきちゃったんだもん」

「終わったら、何か食いに連れていってやっから。爺さん、いいですか?」

「構わんよ。もう憩も白銀の一員じゃからな」

「だってよ、だから今は我慢しろ。な?」

「うん!! 楽しみだなぁ」

 

 足をパタパタとさせながら、憩は嬉しそうに笑う。


 相変わらず呑気だな……、自分の話するってわかってんのかよ。

 

「では、話そうかのう。憩を白銀に入れた理由はな――女子(おなご)がいた方が華があるからじゃ!」

 

 カカッ、と黄山は楽しそうに笑った。

 その隣で、旭が拳をわなわなとさせながら、静かに声を絞り出す。

 

「……お祖父様、ふざけるのはやめてください」

「ふざけておらんよ。最近の吸血鬼(ヴァンパイア)の動きは、旭も知っておるじゃろ。これは実にまずい状況じゃ」

「たしかに、仰る通りです。ですが、それと憩にどんな関係が……」

「爺さん、まさかいこを囮(・)に使うなんて言わないですよね?」

 

 朔夜がそう尋ねると、4人の視線が彼に向く。

 会話の当人である憩は、お菓子に釘付けだった。

 

「なんじゃ、朔夜もそのようなことを申すのか。まだまだじゃのう……」

 

 黄山はやれやれ、と両手を挙げる。

 

「囮ではない。憩は歌姫(カナリア)として、白銀を護る最強の矛じゃ。これは憩にしかできぬ役割じゃよ」

 

 5人を前に、黄山はきっぱりと告げた。


 

 

「最強の矛、って言っても憩は戦ったことねえよな?」

「もちろん。剣術や武術は稽古の一環で身についているけれど、実戦で使えるかどうか……」

 

 あの後、「そういうことじゃからの、では解散!」という黄山の一言で会議は終了。

 お腹を空かせた憩を連れて、朔夜は外出していた。

 残された旭と漣、千歳の3人は客間へと移動し、先ほどの話を振り返っていた。

 

「それにしても、まさか憩が5人目だとはなー」

 

 漣は紅茶を飲みながらつぶやく。


 ちっせえ頃から外に出るのも許可制なのに、変な話だよなー。

 

「僕も驚いたよ。お祖父様から、白銀は憩を護るために結成したって聞いていたからね」

「……へぇ、そうなんですね」

「お前、知らなかったのか!?」


 千歳の今更の反応に、漣は身を乗り出す。

 

「……はい、興味もなかったので」

「じゃあ1個、面白いこと教えてやる!! 杣(そま)は憩のことが好きだから、揶揄(からか)うと楽しいぞ!!」


 昨晩のことを思い出しながら、漣は千歳の背中をバンバンと叩いた。

 無駄に距離が近い彼に、迷惑そうに顔を歪める。

 

「……痛いんですけど。それに、言われなくても知ってますよ。あんなにわかりやすいのに」

「千歳、あの2人にはそのこと言っちゃダメだよ」

「……わかってます。なんか、面白そうだし」

「なんだ、寒凪(かんなぎ)とは気が合いそうだな!!」


 揶揄い仲間ができた漣は、嬉しそうに千歳の頭をガシガシ撫でた。

 

「……この人、距離感おかしいです」

 

 千歳は漣を指さすと、呆れた声で旭に報告する。

 

「漣はそういう奴なんだ、諦めてくれると助かる」

 

 2人のやり取り見て、眉尻を下げながら笑った。


 

 

 一方、憩と朔夜は近くの甘味処に来ていた。

 

「えっと、みつ豆とおはぎとおだんごも食べたい!」

「はいはい、どうぞ」

「朔夜は何食べるの?」

「俺は別にいいよ、茶飲んでるわ」

「そっか……」


 ……せっかく一緒に来たのに。

 

「……いこのだんご、1個もらってもいいか?」

 

 その一言で、憩の顔がぱぁぁぁっと明るくなった。


 わかりやすい奴だな……。


 朔夜の顔も思わず綻ぶ。

 

「じゃあ、朔夜が好きなみたらしにしようかな!」

 

 憩は嬉しそうに笑うと、注文を済ませた。


 

 

「美味しかった!」

「それはよかったな」

 

 甘味処を出た2人は、屋敷へと向かっていた。

 

「朔夜は夜、偵察に行っちゃうんだっけ」

「あぁ、旭が担当しているとこの手伝いでな」

「そう、お兄様の……。頑張ってね!」

 

 憩は寂しさを押し殺し、無理に笑顔を作る。


 ……お仕事で戻ってきてるんだもん、しょうがない。

 

「……爺さんから許可下りたら、いこも一緒に行くか?」

「え……? いいの?」

「いこも隊に所属するし、来て損はねぇからな。それに、俺と離れるのが随分寂しいみてぇだしよ」

 

 朔夜は笑うと、憩の頭を優しく撫でた。

 

「だって、やっと会えたんだもん……」

「そうだな、でもこれからは嫌でも一緒だぞ。常に5人で行動するからな」

 

 正直、細小波(いさらなみ)と寒凪はいらねぇけど。

 

「ふふっ、朔夜といられるの嬉しいなぁ……」

 

 憩は嬉しそうにつぶやく。

 あっという間に屋敷へと着いた2人は、

 

「んじゃ、爺さんとこ行くか」

「うん! 許可もらえるかなぁ」

 

 黄山のいる書斎へ仲良く向かった。


 

 

 その夜、無事に許可を得た憩は隊服に着替えていた。

 

「朔夜、隊服って結構硬いんだね。それに重い!!」

「いいからさっさと着替えろよ」

「待って! 後ちょっとだから!!」

 

 白銀としての隊服がまだ間に合っておらず、今日はとりあえず兄の物を借りている。

 旭たちは憩を朔夜に任せ、先に任務へと向かっていた。

 

 バンッ!!

 

 憩が勢いよく扉を開けた。

 

「お前……。扉壊れっから、そんな勢いよく開けんなよ……」

「見て見て!! お兄様のだからすごく大きい!!」

 

 憩は裾を持ち上げながら、ぶかぶかの隊服姿で部屋から出てきた。

 長身だが細身の旭の隊服でさえ、小柄で華奢な少女にはだいぶ大きい。

 朔夜は一瞬、その姿に言葉を失った。

 

「……朔夜? どうしたの?」

「……本当にお前はいい加減にしろ!! 裾も袖も捲れ!! 髪を結え!! 危ねぇだろバカ!!」

 

 憩の言葉で我に返った朔夜は、隊服の袖を捲ってやる。

 細く白い腕がちらりと袖からのぞき、少しドキッとした。

 

「ねぇ、この髪型じゃダメなの?」


 不満げに、ハーフアップを見せられた。

 不器用ながら、頑張って結んだんだろう。

 形がとんでもないことになっている。

 

「……あぁ、ダメだ。引っ掛ける可能性があるからな」

「そっか、朔夜にもらったリボン付けたかったのにな……」

 

 憩はがっかりしながら、お気に入りのリボンを外す。

 乱れている髪を見ながら、朔夜は静かにため息をついた。 

 

「ったく、結ってやるよ。時間ねぇから簡単なやつだけど」

「いいの!? お願いします!!」

 

 憩は嬉しそうに朔夜に背を向けると、彼の指が少女の髪を撫でた。

 2本のおさげを作り、それを交差させて後頭部へと持ってくる。

 その結び目を合わせると、中央にリボンを飾った。

 

「ほらよ、これでリボンも付けられただろ?」

「すごい!! 朔夜は器用だね! ありがとう」

「別に……、このリボン買ったときに聞いただけだよ。それより出発するぞ。旭たち、だいぶ待たせてるからな」

「うん!!」

 

 準備を整えた2人は、闇の中を駆けていく。

 歌姫(カナリア)が、籠の中の鳥を脱した瞬間だった。


 ――その力が、身を削ることも知らずに。

 

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