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白銀が護りし緋の神子 ―金霞の五星―【完】  作者: おやまみかげ(・8・)
第1折 結成、特務部隊・白銀

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5句 五芒星、集結


 憩と朔夜が話していると、目の前に黒塗りの車が停まった。

  

「あ、お祖父様だ」

 

 漣(れん)が連絡を入れたのだろう。

 それでも、総司令が直々に出てくるのは珍しい。


「3人とも大事ないか?」

「爺さん、いこを危険な目に遭わせました。申し訳ございません……」

「そんな……、朔夜は悪くないでしょ?」

「憩の言うとおりじゃ。討伐、ご苦労だったな」


 頭を下げる朔夜の肩を、黄山は労うように叩いた。

 

「お主らは儂の車で先に帰りなさい。ここは漣と儂で処理する」

「……わかりました。いこ、帰るぞ」

「うん。あの、お祖父様……」

 

 憩の呼びかけに黄山が振り返る。

 

「あのお方、丁重にお願いいたします」

 

 憩の金色の瞳がゆらゆらと揺れた。

 その小さな変化が、黄山の表情を一瞬曇らせる。

 

「……わかっておる。安心して先に戻りなさい」

「はい。朔夜と先に帰っております」

 

 憩は朔夜に促され、車へと乗り込んだ。


 

 

 屋敷へと向かう車内、憩は窓の外を眺めながら、先ほどの光景を思い出していた。

 

「いこ、眷属になっちまったやつは討伐するしかねぇんだ……」

「うん、知ってる。総司令の孫だもの、それぐらいの知識はあるよ」

 

 憩は隣に座る朔夜の顔を見ると、切なそうに笑った。

 

「……最近は特務部隊を警戒して、吸血鬼(ヴァンパイア)本体は姿を見せねぇんだ。汚ねぇやり方だよな」

「お祖父様も言ってた。眷属ばかりで、なかなか吸血鬼を倒せないって」

「お前、爺さんから結構話聞いてんのな」

 

 いこを護るために白銀を作った爺さんが、特務部隊の話をするのか?

 

「うん。最近はよく話してくれるの。眷属を間近で見たのは初めてだったし、お役目があることも知らなかったけどね」

「まぁ、出会わねぇのが一番だからな」


 そんな会話をしていると、あっという間に屋敷へと着いた。


 

 

 運転手が車のドアを開け、2人は車から降りる。

 

「憩ちゃん!! 大丈夫!? 怪我はしていないの!?」

 

 玄関からものすごい勢いで飛び出してきた人物がいた。

 

「お姉様!? お仕事はどうされたのですか?」

「憩ちゃんが危ないときに、お仕事なんてしていられないわ!!」

 

 そう言うと、ギュッと憩を抱き締めた。


 

 相楽(さがら) 和(なごみ)。

 旭の妹で、憩の姉。吉原遊廓で有名な芸花魁(アイドル)だ。

 

「朔夜くんも無事でよかったわぁ。憩ちゃんを護ってくれてありがとう!」

「いや、別に。仕事なんで……」

「うふふ、そんなこと言って。朔夜くんは本当に素直じゃないわねぇ」


 こういう、見透かされてる感じが苦手なんだよな……。


 ニコニコと笑う和と裏腹に、朔夜の顔は曇っていた。

 

「お姉様、とりあえず私たちは無事ですから。お仕事にお戻りください」

「もう、憩ちゃんたら! 私はお邪魔みたいだから戻るわね。朔夜くん、憩ちゃんをお願いね」

 

 和は憩の頭を撫でると、2人が乗ってきた車で吉原へと戻っていった。


 

 

 和が去った後、2人は居間へと移動し、ソファで紅茶を飲んでいた。

 

「相変わらずだな、和は」

「ごめんね、疲れるよねお姉様」

「いや、まぁ、少しな……」


 ……本当はすげぇ疲れるけどよ。

 

「ふふっ、朔夜はお姉様苦手だもんね」

「いこと違って、話しにくいんだよ」

「それは、お姉様が私と違って美人だから、緊張するってこと?」

 

 憩は紅茶のおかわりを注ぐ。

 もうだいぶ遅い時間で、使用人たちも部屋に戻っている。居間には2人しかいない。

 

「はぁ? 違ぇよ。いこみたいに、裏表なく言ってくれる方が楽なんだよ」

「ふーん、でも美人だとは思ってるんだ……」

 

 憩は拗ねたようにつぶやく。

 

 わかってる。

 お姉様、美人だもん。朔夜と同い年だし……。

 

「そりゃあ、吉原で売れてるくらいだから美人なんじゃねぇの」


 ……俺はそう思わねぇけどな。

 あいつ、何考えてるかわかんねぇから怖ぇんだよ……。

 

 ……やっぱり、お姉様みたいな人が――。

 

「うん? どうした?」

 

 俯いてしまった憩に、朔夜は声をかける。

 

「ううん、なんでもない。明日はまたお仕事?」

「まぁ、そうだな。午前中は会議に呼ばれてるし、夜は偵察があるからな」

「そっか、そうだよね。お仕事しに帰ってきたんだもんね……」

「なんだよ、寂しいのか?」

 

 朔夜は揶揄うように笑うと、憩の頭を優しく撫でた。

 

「べ、別にそんなことない!! 子供扱いしないで!!」

 

 憩は顔を赤らめながら立ち上がる。

 

「おやすみ……!!」

 

 大声で挨拶すると、部屋へと帰っていった。

 静まり返った居間で、朔夜は4年前の憩と、今の少し大人になった憩を重ねる。 

 あどけなさは今も残るが、明らかに綺麗になっている。

 

「……ガキだなんて、思ってねぇよバカ」

 

 朔夜はソファに身体を預けながら、天井を見上げた。


 

 

「……素直に寂しいって言えばよかった」

 

 翌朝、憩は化粧台の前で昨晩のことを後悔していた。

 それと同時に、髪を触られたときの朔夜の手や、撫でられたときの温もりを思い出してしまい、1人頬を染める。

 

「お姉様みたいなお淑やかな女性になったら、朔夜は好きになってくれるのかな……」

 

 鏡に映る自分の顔を見ながらつぶやく。

 金色の瞳にも自分の顔が映っていた。

 

「もう!! いつになったら伝わるのー!!」

「……何でけぇ声出してんだ?」

 

 憩を呼びに部屋へと迎えに来た朔夜が、扉の向こうから声をかけた。

 

「さ、朔夜!? どうしたの?」

「爺さんが、お前を呼んでこいって。開けてもいいか?」

「うん、どうぞ……」


 音を立てて、扉が開いた。

 

「おはよ、いこ」

「お、おはよう朔夜」

 

 昼に見る隊服姿は、夜とはまた違う魅力がある。

 憩は思わず、朔夜から目を逸らした。

 

「昨日のこと、まだ怒ってんのか?」

「……昨日のこと?」

「ほら、子供扱いすんなって言ってただろ」

「あれは別に、怒ってたわけじゃなくて……」

「でも、今、目逸らしたじゃねぇか」

「いやそれは、違くて……」

 

 朔夜がかっこよすぎるから、なんて言えるはずない!!

 

「まぁいい、とりあえず行くぞ。爺さん待ってっから」

 

 朔夜は背を向け部屋を出ていく。

 憩もその後を追った。



 

 朔夜に連れられて書斎に入ると、旭と漣が揃っていた。

 

「ごきげんよう、漣様。お祖父様、お兄様、おはようございます」

「おはよう憩! 昨日は巻き込んですまなかったな!」

 

 漣が憩の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「おい、触んじゃねぇよ。嫌がってんだろ」

 

 朔夜が憩の頭から、漣の手を払った。

 

「嫌がってないよなー?」

「はい! 漣様に撫でられても、なんとも思いません!」

「おいおい、それはさすがに俺でも傷つく……」

「一生傷ついてろ」

 

 そんな3人のやり取りを、旭は微笑ましそうに眺めていた。

 

「あの、お祖父様。どうして私が呼ばれたのでしょうか?」

「皆が集まったら話す。憩にとっても悪い話ではないぞ」

「わかりました。お兄様はご存知なのですか?」

「いや。僕も新設部隊にこの2人が所属すること以外、何も聞かされていないよ」

「そうですか。ということは、朔夜も漣様もですよね?」

 

 憩の言葉に2人は頷く。

 

 どうして、私が呼ばれたんだろう……?


 憩が頭を悩ませていると、扉を叩く音が聞こえた。

 

「失礼いたします。黄山様、寒凪(かんなぎ)様がお見えになりました」

 

 その名を聞いて、旭・漣・朔夜の3人は顔を見合わせる。

 

 お兄様がそんな顔をするなんて、とても怖い方なのかな……?

 

 旭は普段、感情を表に出さない。

 そんな兄が表情を変えたのを見て、憩は大柄で屈強な男性を思い浮かべていた。

 

「うぬ、入りなさい」

「……失礼します」

 

 しかし、そんな想像は裏切られる。

 部屋に入ってきたのは、まるで雪のように儚げな美青年だった。

 漆黒の隊服が、白い肌を一層引き立てている。

 

「千歳にも白銀に所属してもらう。実力はお主らも知る通りじゃ」


 

 寒凪(かんなぎ) 千歳(ちとせ)。

 人付き合いが極端に苦手な18歳の新鋭。毒舌家で有名だ。


 

「千歳、これからよろしくね」

「……どうも」

「おいおい、旭にどうも、はないだろ!」

 

 漣がいつも通りの調子で、千歳の肩を叩く。

 

「……あんまり触らないでもらえます?」

「何度会っても、愛想のねぇやつだな」

「……杣(そま)さんに言われたくありません」

 

 空気が一気に悪くなる。

 憩は察したかのように、千歳の前に歩み出た。

 

「千歳様、お初にお目にかかります。憩と申します。以後お見知りおきください」

「……千歳、でいいよ。よろしく」

 

 憩に挨拶された千歳は、手を差し出す。

 

「よくねぇよ! つーかお前、いこにだけ態度違ぇな」

 

 朔夜は憩と千歳の間に割り入ると、彼が差し出した手を払った。

 千歳は払われた手をさすると、朔夜をじっと見据える。

 

「……憩のこと、いこって呼んでるんですね」

「そこはどうでもいいだろ!!」

「カカッ!! 白銀は、いい部隊になりそうじゃわい」

 

 黄山は5人のやり取りを見て、楽しそうに笑った。

 

「それより、5人目っていつ来んだ?」


 漣の一言で、本題へと戻る。

 コホン、と黄山が咳払いをすると、それまで騒いでいた4人が静かになった。

 

「皆が待っている5人目じゃが、もう来ておるぞ」

「まさか……総司令が直々に、ですか?」

「何、寝ぼけたことを申しておるのじゃ旭。儂よりも白銀に相応しい者がいるじゃろうが」

 

 黄山のその言葉に、4人の視線が一斉に憩へと向く。

 

「え……? 私……!?」


 ――向けられたその目には、驚きと、悲しみの色が滲んでいた。

 

 

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― 新着の感想 ―
まさかの憩が5人目だったとは…… ちょっと予想外でした! でもこの部隊面白そうでいいですね。 特に憩と咲夜の関係が特に。 つい読んでいてニンマリしてしまいます。 評価★入れさせていただきますね!
あ、わたしの推しメンは千歳くんだった…! 誤認失礼しました。/(^o^)\ 朔夜くんとも良い感じだったのかーー。
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