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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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18/40

18句 雪解け


「千歳様、頑張りましょうね!」

 

 千歳と憩の2人は、カフェーの裏手まで来ていた。

 どこで誰に見られているかわからないため、大人組とは完全に別行動だ。

 

「……ねぇ、その千歳様ってのなしで」

「えっと、どういうことですか?」

「……この時間帯に男女が2人でいる。

 それって親しい関係、ってことなんだけどわかる?」

 

 千歳の問いに、憩は目を丸くして首を傾げた。

 本当に何も知らないのだな、と千歳はため息を吐く。

 

「……とりあえず、様はやめて。親しく見えないから」

「では、なんとお呼びしたらよいのですか?」

「……千歳、でいいよ。

 最初から呼び捨てでいいって、言ってるでしょ?」

「いえ! それは無理です!!」

 

 憩がぶんぶんと首を横に振る。

 

「……(そま)さんのことは呼び捨てなのに、変なの」

「朔夜はずっとそう呼んでたので……。

 では、千歳さん、ならよろしいですか?」

「……うん。様よりは自然だからいいよ」

 

 千歳から許可が下り、憩はホッと胸を撫で下ろす。

 憩にとって、朔夜以外の人間は様付けの敬語が基本だからだ。

 

「他に、気をつけることはありますか?」

「……ない。普通にしてて。

 憩は好きな物食べたり、飲んだりしてればいいから」

「でも、それでは潜入の意味が……!」

 

 憩の言葉に千歳が首を振る。

 

「……憩はいつも通り過ごして。

 潜入で大切なことは、怪しまれないことだから」

「わかりました……」

「……勘違いしないで。

 邪魔とか、足手まといとか思ってないからね」

「はい……!」

「……うん。じゃあ行くよ」

 

 カフェー組の潜入作戦が始まった。


 


「おい、まだ出発しねえのかー?」

「うるせぇな、なら1人で行けよ」

「はいはい、喧嘩しないよ。

 全く、これから3人で行動するのに大丈夫かい?」

「俺は問題ないぜ!」

「テメェが1番問題なんだよ!」

 

 カフェーの2階へと上がる大人組は、近くの喫茶店で時間を潰していた。

 千歳や憩と、時間差で潜入するためだ。

 

「これだから、2人を組ませたくはないんだけれど。

 今回は致し方なし、だね」

寒凪(かんなぎ)が、旭をこっちに寄越してくれて助かりました。

 細小波(いさらなみ)とじゃ、仕事にならないんで」

 

 朔夜は(れん)を思いっきり睨む。

 

「なんだよ! だったら杣は2人と行けばよかっただろ?」

「漣、それじゃあダメなんだよ。

 白銀で1番、女性受けがいいのは朔夜だからね」

「おいおい、今回は色男の俺がいるんだぜ?

 杣がいなくたって、問題ないと思うけどなー」

 

 漣の言葉に旭はため息を吐く。

 

「そうかもね。

 でも、そういう軽い態度は女性に好かれないよ?

 もう少し、年上の余裕を見せた方がいいと思うけれど」

「旭にそう言われちまうと、もう返す言葉がねえよ」

「静かになって助かるから、そのまま黙っててくれ」

「お前マジでかわいくねえ後輩だな!!」

「はいはい、目立つから大声出さないでね。

 朔夜も、あまり漣を刺激しないように。

 今回は連携が大事なんだよ?

 千歳と憩が頑張ってくれているのに、僕たちがそれを無駄にするのかい?

 なんてひどい先輩たちだろうね」

 

 まずい、と2人は瞬間的に思った。

 旭は基本、長々とは話さない。

 端的に伝えた方が、誤解されることが少ないからだ。

 つまり、ブチギレ一歩手前だ。

 

「わ、悪かったよ。静かにすっからさー」

「すみません。仕事なのに、私情を挟みました……」

「うん、わかってくれたのならいいよ。

 今回の潜入は2人の協力が必須なんだ。

 だから、よろしく頼むよ?」

「おう! 任せろよ、リーダー!」

「1つでも多く、情報を引き出しましょう」

 

 2人の言葉に旭はこくりと頷く。

 

「じゃあ、そろそろ作戦に移ろう」

 大人組の潜入作戦も、まもなく始まろうとしていた。


 


 カランカラン

 扉に付いた鈴の音が辺りに響く。

 

「いらっしゃい! 2名様ですね」

「……はい。

 彼女とゆっくり過ごしたいので、窓際がいいんですけど」

 

 店主は千歳をまじまじと見た後、後ろに立つ憩を見る。

 

「もちろんですとも! さ、どうぞどうぞ!」

 

 店主に連れられ、2人は窓際の席へと案内される。

 側から見れば、千歳と憩は美男美女の似合いのカップルだ。

 そんな2人を窓際に置いたら見栄えもいい。

 

「メニューはこちらです。お決まりの頃にお伺いしますんで」

「……どうも」

「ありがとうございます!」

 

 店主は満足そうに席を離れた。

 

「……好きなの頼んでね」

「はい! あ、クリームソーダがありますよ!」

「……憩って、面白いね。

 自分の食べたい物より先に、僕の好物見つけるんだ」

「何か、変でしょうか?」

「……ううん。いいと思う」

 

 千歳は柔らかく微笑む。

 普段見ないその表情に、憩も嬉しそうに笑顔を返した。

 

「おい、あの席見ろよ!

 すんげぇ、かわいい子がいるぞ!」

「まじだ! でも男連れじゃねぇの?」

 

 2人から少し離れた席で、

 男2人がこちらを見てコソコソと話している。

 

「そうだとしてもよ、なかなか見れない上玉だぜ?」

「お前、上で遊ぶ金ないからってやめろよ」

「ちょっとくらいなら大丈夫だって!」

 

 本人は言われている自覚は全くなく、目の前のメニューに釘付けだが、

 千歳はもちろん全て聞いていた。

 念のため憩に目をやるが、普段と様子は変わらない。

 

「……なんだ。ただの下衆か」

「どうかされました?」

「……ううん。決まった?」

「はい! これとこれと……」

 

 憩は嬉しそうにメニューに指をさす。

 

「……わかった。頼んでくるからちょっと待ってて」

「え? 後で来てくださると仰ってましたよ?」

「……そうだけど。

 決まったなら、言いに行った方が早いでしょ?」

 

 千歳は立ち上がると、ポケットから本を取り出し、憩へと手渡した。

 

「……これでも読んで、少し待ってて」

「でも……」

「……大丈夫だから。ね?」

「……わかりました」

「……うん、いい子」

 

 千歳は憩の頭にポン、

 と手を置くと、その場から離れた。


 


「……すみません。注文したいんですけど」

 

 千歳の無機質な声に、

 カウンターで作業していた店主は顔を上げる。

 

「申し訳ありません、気づかんで……」

「……別に。それで、注文いいですか」

「はい、どうぞどうぞ」

「……これと、これと……」

 

 千歳は注文しながら、

 カウンターの中を怪しまれない程度に覗く。

 帳簿の記入をしていたようだが、特段怪しい点はない。

 

「あの、こんなにお召し上がりになるのですか?」

「……彼女がよく食べるので」

「そうですか!

 いやー、嬉しいですねありがとうございます」

 

 カフェーでこれだけ金払いのいい客はいないのだろう。

 店主はとてもご機嫌だ。

 これは探りを入れるチャンスでもある。

 

「……あの、あそこの席の人たちって、よく来るんですか?」

 

 千歳は、下衆な話をしていた男たちの席を見る。

 今も憩の方を見て、何やら話しているのが遠目でもわかる。

 

「あぁ、常連の方々ですね……。

 何か、気になることでも?」

 

 店主の顔が一瞬強張ったのを、千歳は見逃さなかった。

 

「……いえ。

 彼女のことをああやってジロジロ見られるのは、正直気分がよくないので」

「それはそれは、大変失礼いたしました!

 注意しておきますので、何卒ご容赦ください」

「……では、お願いします」

 

 そう告げると、千歳は憩の元へと戻るのだった。


 


「……お待たせ」

「おかえりなさい!」

「……本、ちゃんと読んでたんだ」

「はい! 千歳さんは短歌がお好きなんですね」

 

 憩は本を閉じると、表紙をそっと撫でる。

 

「……似合わないって思った?」

「いえ、千歳さんらしいと思いました」

「……そうかな」

「千歳さんも短歌も、言葉を端的に表現しますが、

 どちらもすごく温かいところがよく似ています!」

 

 憩はにっこり笑うと、千歳に本を手渡す。

 

「……そんな風に思うんだ。変なの」

「失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」

 

 店主はコーヒーを千歳の前に、クリームソーダを憩の前に、

 そしてケーキをそれぞれの飲み物の横に置いた。

 

「……あの、ケーキ頼んでませんけど」

「ご不快な思いをさせてしまったお詫びです。

 料理をお待ちの間にでもお召し上がりください」

 

 そう言うと、ぺこりと頭を下げて戻っていった。

 戻りがけに男たちの席に寄ったところを見ると、注意もしてくれたようだ。

 

「なんだかよくわかりませんが、ケーキが来ました!」

 

 憩は嬉しそうにケーキを見つめながら、特に指摘もせずスッと飲み物を入れ替える。

 こういうところが杣さんは好きなんだろうな、と千歳はなんとなく思った。

 

「……食べようか。憩、ケーキ好きだもんね」

「はい! 大好きです!」

 

 いただきますと挨拶をすると、

 嬉しそうにケーキを頬張る。

 そんな憩の姿を見て、千歳も自然と顔が綻ぶのだった。


 

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