得られた結果
「朔夜、ここからは僕に任せてくれるかい?」
旭の言葉に朔夜はこくりと頷く。
扉を開けると、付いていた鈴がカランと音を立てる。
中へ入ると、数名の客が各々の時間を過ごしていた。
シックな雰囲気の、ごく一般的なカフェーで、特に怪しい点はない。
「いらっしゃい! 2名様ですか?」
おそらく店主であろう男が、2人の頭の先からつま先までを舐め回すような目で見る。
「えぇ、注文は決まっています。
スペシャルブレンド浅煎りで、砂糖とミルクはなし、彼にも同じものをお願いします」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
2人は店主に連れられて、店の2階へと通される。
1階の開けた雰囲気とは打って変わり、個室が並んでいた。
「ささ、こちらへお入りください」
2人は個室へと通され、店主がメニュー表を手渡す。
「お客さんたちのような、高貴な方々に合う子がいるかわかりませんが、後ほどお伺いしますので」
「ありがとうございます」
店主が個室から出て行くと、朔夜が口を開く。
「どうして合言葉を知ってたんですか?」
「前からここには目を付けていてね、出てきた客に聞いたんだよ」
「……そうですか。それはそいつも気の毒に」
「ははっ、手は出していないよ。ちょっと脅しただけさ」
そう言うと、旭は目を細める。
白銀で1番怒らせていけないのは旭だ。
おそらく、そいつは地獄を見ただろうと朔夜は思った。
「さて、適当に選んで話を聞こう」
「はい、お願いします」
「朔夜はどの子がいいとかあるかい?」
メニュー表をパラパラとめくりながら旭は問う。
「いえ、特には……」
「そう、なら口の軽そうな子を数人お願いするね」
「お願いします」
しばらくして戻ってきた店主に、旭は注文をするのだった。
「……ねぇ、そろそろ偵察した方がいいと思うけど」
「まだ大丈夫だって、俺デザート食いてえし」
「……それ細小波さんの都合じゃん」
一向に動く気配のない漣に、千歳はため息を吐く。
「千歳様もクリームソーダ頼まれますか?」
「……うん、飲む」
「お前も飲むんじゃねえかよ!!」
「……どうせ注文するんだからいいでしょ」
2人が騒いでいる中、憩が注文を済ませる。
「憩もなんか頼んだのか?」
「はい! ちょっと食べ足りなかったので、ライスカレーとケーキを注文しました!」
「……ちょっと食べ足りない量じゃないけどね」
「寒凪は食わな過ぎだけどなー」
「……食事なんて、面倒だし」
そんな話をしていると、料理が運ばれてくる。
「漣様のいちごパフェ、美味しそうですね!」
「なんだー、目キラキラさせて! ほら、食うか?」
「いいんですか!? いただきまーす!」
漣の差し出したスプーンに、憩はなんの迷いもなく口をつける。
「美味しいです! ありがとうございます!」
「おう! 憩は美味そうに食うよなー」
漣はニカッと笑うと、パフェを口に運ぼうとした。
「……ストップ。スプーン変えてよ」
「はあ!? なんでだよ!!」
「……憩が口つけたでしょ、変えてよ」
「んなの一々気にすんなって」
「……あっそ」
千歳はそう言うと、漣のスプーンに口をつけた。
「……はい、使っていいよ」
「お前、俺のパフェ食うなよ!!」
「……さっき僕のクリームソーダこぼしたんだから、これでおあいこでしょ」
千歳はプイッと顔を背けた。
カフェーを出た2人は、偵察班と合流するために歩いていた。
「情報、得られませんでしたね」
「まぁ、初見だからね。仕方ないよ」
朔夜の言葉に旭は笑みを見せる。
潜入はしてみたものの、実になる情報は得られなかった。
彼女らもプロだ。簡単には口を割らない。
何よりこの2人は、そういう雰囲気にもっていっていないのだから尚更だ。
「やっぱり、次は漣の方が良さそうだね」
「旭と細小波なら、上手くいくと思います」
「まさか。申し訳ないけれど、次も朔夜には行ってもらうよ」
「……まじすか」
「まじだよ。彼女たちの反応を見ただろう?」
「……見たというか、なんというか」
朔夜は先程の状況を思い返す。
旭は上手く女性たちを躱していたが、朔夜は腕に引っ付かれ、首に腕を回され、散々だった。
「朔夜はもう少し、女性の扱いを覚えた方がいいかもね」
「別に、興味ないです」
「憩にあんな姿を見せるのかい? 自衛のためにも身につけないと」
「いこの前では、和以外の女と話したりしません」
「ずいぶん過激派だね、朔夜は」
旭は朔夜の言葉にくすくすと肩を揺らすのだった。
「……ねぇ、そろそろ本当にまずいよ」
「大丈夫だって!! これ飲んだら行くからよ」
そう言うと、漣は注文したてのコーヒーに口をつける。
「……全く、憩もまたケーキ頼んでるし」
「申し訳ありません、美味しかったのでつい……」
千歳はため息を吐くと、頬杖をつきながら辺りを見渡す。
警戒はずっとしていたし、憩の様子も普段と変わりない。
つまり、危険はないということだが、偵察していないのは非常にまずい。
「……2人とも、自由すぎるでしょ」
「いいじゃねえか、たまにはこういうのもさ!」
「……たまにもなにも、白銀としての任務は今日からだけど」
「細えやつだなー!! 憩もいるし、旭も杣も許してくれるって!」
「……それ、許されるの憩だけだと思うけど」
千歳が憩に目をやると、ケーキを口へと運ぶところだった。
「千歳様もお召し上がりになりますか?」
「……大丈夫、食べたら偵察行くよ」
「はい! すぐに食べます!」
「……ゆっくり食べていいから。喉に詰まらせたら大変だよ」
そう伝えると、千歳は立ち上がる。
「なんだ? クリームソーダの飲み過ぎで、腹でも痛えのか?」
「……失礼なこと言うのやめてくれる? 憩のこと見ててよ」
「はあ? お前、どこ行くんだよ!」
漣の問いかけも虚しく、千歳はどこかへと行ってしまった。
「千歳様、大丈夫でしょうか?」
「まあ、寒凪だからな! 大丈夫だろ!
それより、うるせえ奴いなくなったし、俺もケーキ頼もうかな!」
「ずいぶんと楽しそうだね、漣。僕たちも混ぜてもらっていいかい?」
その声に漣が恐る恐る振り向くと、にっこりとドス黒い笑みを浮かべた旭が立っていた。
「あ! お兄様、朔夜、おかえりなさい!」
憩は満面の笑みを浮かべるが、漣はそれどころではない。
「ふ、2人ともお疲れ! 潜入どうだった?」
「どうだった、じゃねぇだろ。テメェ、何してんだよ」
「何って……、偵察?」
「どこがだよ!! してねぇだろ!!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ朔夜。ゆっくり話を聞こうじゃないか」
旭は椅子に腰掛けると、漣に笑顔を向ける。
「で? どんな情報を得られたんだい?」
「あー……、寒凪はクリームソーダが好物らしいぞ!」
「……テメェ、バカにしてんのか?」
「してねえよ! だってあの寒凪だぜ!? 意外じゃねえかよ!!」
漣は楽しそうに興奮気味で答えるが、誰も笑っていない。
憩でさえ、空気がピリついていることをなんとなく察していた。
「それで? その情報は何に役立つんだい?」
「何にって、寒凪いじるのに?」
漣の回答に、旭は大きなため息を吐いた。
「いこ、外に出よう。旭は細小波と話があるみたいだ」
「そうなのですか?」
「うん、先に出て千歳と合流して欲しい」
「……わかりました」
「お、おい! 俺を置いてくなよ!!」
「うるせぇのは放っておいて、行くぞ」
朔夜に連れられ、憩も席を立つ。テーブルには旭と漣だけが残された。
「……悪かったよ、憩が元気なかったからさ」
「うん、わかっているよ。だから、ありがとう」
「あー、よかった!! まじで怒られるかと思ったぜ!」
「ふふっ、あの子の前では厳格な兄でいたいからね。
それに、憩は自分が言われるよりも、誰かが言われている方が響く子だから」
「ったく、俺の肝が冷えたわ!」
表情を崩した旭に、漣もいつもの調子に戻る。
「ごめんごめん。ところで千歳は、偵察に行ったんだろう?」
「あぁ。憩に気遣わせないよう、1人で出ていったぞ。
まあ、あいつのことだから、心配いらねえとは思うけどなー」
「僕の妹は、みんなに大切にされているようだね」
「当たり前だろ! 血とか関係なく、憩も仲間だからな!」
「ありがとう、心強い仲間がいて幸せだよ」
旭は目を細めて微笑む。
「ところでさ、その、ここの会計なんだけどよ……」
「いいよ、僕が出すよ」
「まじかよ!? 結構食っちまったけどいいのか!?」
「そんなこと言って、どうせ支払えないんだろう?」
「さすが旭!! なんでもお見通しだな!!」
「その分、きっちり働いてもらうからね」
旭は伝票を手に取ると、支払いを済ませるのだった。




