*白銀劇場* 〜とある泡雪が溶ける音〜
※第3折を読了前提の回です。
※62句に関する重大なネタバレが含まれます。
※また、体調に不安のある方は観覧をお控えください。
※ネタバレを避けたい方は、直ちにブラウザバックをしてください。
※本編に関わる重大なネタバレを含んでおります。ご注意ください。
62句、正装で行った午後のダンス練習を描いたお話です。
これは、とある少女との出会いによって、心が溶けた青年のお話――。
午後の暖かい日が差し込むホールで、千歳は憩と踊っていた。
薄紅のドレスに身を包んだ少女は、眩しいくらいに綺麗で愛おしい。
……かわいい。何度見てもかわいい。
憩のような子が、僕を好きでいてくれるなんて。
小さな手、揺れる金色の瞳、憩が動くたびに立つ香り――。
ダンスなんかより、千歳の意識はそちらに集中していた。
だからこそ、少女の顔がほんのりと淡く染まっていることに、今の今まで気づけなかった。
「……憩、顔赤いけど大丈夫?」
「だ、だ、大丈夫!!」
「……本当? 体調、悪くない?」
ダンス練習をしているのだから、ホールにはクラシックが流れている。
千歳は自分の声が通りにくいことも、小さいことも理解していた。
だからこそ、きちんと憩に届くよう、耳元まで顔を寄せて声をかけた。
……すごく、いい匂いがする。
それに、今日の憩は――。
「……あ、踊れてるね」
「えっ……?」
少女は驚いたような声を上げる。
練習中、千歳は散々憩に足を踏まれ続けていたが、今日は問題なくステップを踏めていた。
「……たくさん練習してたもんね」
僕が1番近くで見てきた。
誰もいない早朝のホールで、一緒に練習したこともあった。
夜遅くまで、旭さんや和さんと練習してたことも知ってる。
それなのに……。
せっかく踊れているというのに、憩の顔は曇っていた。
「……どうしたの?」
「私、変なのかもしれない……」
「……変? ちゃんと踊れてるよ?」
「そ、そうじゃなくて……」
……視線が泳いでる。
何か言いにくいことがあるときの、憩の癖だ。
「……憩、大丈夫だから教えてくれる?」
「き、嫌いになったりしない……?」
……そんなの、なるわけがない。
むしろ、どんどん好きになってるのに。
「……しない。僕、憩のこと大好きだから」
その言葉に、憩の金色の瞳が大きく見開く。
安心したかのように、少女は静かに口を開いた。
「わ、私……、踊ってるのにダンスのこと頭になくて……。
その……、ち、千歳さんがかっこいいとかその、近いなってことしか考えてなくて……」
……何それ、かわいすぎない?
憩はそうやって、いつも無自覚に僕を煽ってくる。
どれだけ我慢してるか、少しわかってほしいくらいなのに……。
千歳は再び憩の耳元に顔を寄せた。
今度は少し、意地悪をしようと思いながら――。
「……そんな風に思ってくれてたの?」
「で、あ、だ、だから近いの……!!」
「……うん、近づいてるから。嫌?」
「い、い、嫌じゃないけど……、その……」
「……緊張する?」
どんどん赤くなっていく憩の反応を、千歳は少し楽しんでいた。
「き、緊張する!!」
「……そっか、嬉しい」
そう伝えると、憩が顔を僕に向けた。
「……顔、真っ赤」
「ち、千歳さんが意地悪するから!!」
「……ごめん、かわいくてつい」
……本当にかわいすぎる。
桜の妖精なんて、かわいいものじゃないかもしれない。
桜の天使……? いや、桜の女神か……?
そんなことを考えてると、憩が口を開いた。
「私、千歳さんのことが誰よりも大好き」
……は? 何それ。
誰よりも、僕のことが大好き……?
総司令よりも? 旭さんよりも?
和さんよりも? 杣さんよりも?
細小波さん……には負ける気はしないけど。
ぼたんさんよりも? 夕梨さんよりも?
僕が、憩の1番てこと?
何それ、何それ、何それ。
嬉しいなんて言葉じゃ表せない。
だって、僕も憩のこと――。
「……ありがとう。僕も憩のことが、誰よりも大好きだよ」
至近距離で想いを伝え合う、まだまだ青い小春たち。
ホールに流れていたクラシックが、静かに2人を包み込んでいた――。




