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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ


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12/16

宵の明星

「今日はどこに行くの?」

「昨日と同じ地域だ。張る場所は違ぇけどな」

 帝都が黄昏に染まる頃、2人は目的地に向かいながら話していた。

「ふーん。眷属(スロール)を倒したのに、同じ地域を偵察するの?」

「あぁ、吸血鬼(奴ら)は縄張り意識が強い上に、個人主義だからな。

 自分の狩場が他の奴に荒らされる前に、次の手駒を配置しようとするはずだ。そこを狙うんだよ」

「そっか。じゃあ、吸血鬼(ヴァンパイア)が現れるかもしれない、ってことだね……」

 憩は静かにつぶやくと、両手を胸の前でギュッと握りしめた。

「大丈夫だ、いこには近づかせねぇから」

「ありがとう。でも私も白銀の一員だから、頑張るね!」

 前向きな言葉を口にしつつも、どこか不安げな憩の頭を朔夜は優しく撫でる。

「もし、力が発動して声が出せなくなったら、俺のこと叩いたっていい。だから、ちゃんと知らせろ。いいな?」

「うん、わかった。また、迷惑かけたらごめんね」

「迷惑なんかじゃねぇよ、だから頼れ」

「……ありがとう、朔夜。いつも助けてくれて」

 微笑んだ憩が、なんだか消えてしまいそうに感じて、朔夜の足が止まる。

「どうしたの? どこか痛い?」

 急に立ち止まってしまった朔夜を、憩は心配そうに見上げる。

 暮れゆく光の加減なのか、辛そうな顔をしているように見えた。

「……朔夜? 大丈夫?」

 何も話さなくなってしまった朔夜の腕に触れようとした時、

 その手はぐいっと引き寄せられ、憩はそのまま朔夜に抱きしめられた。


「あいつら遅えなー、どんだけかかってんだよ!!」

 (れん)は腕を組むと、つま先で小刻みに地面を叩く。

 旭、漣、千歳の3人は、偵察場所の近くにある喫茶店で2人が来るのを待っていた。

「……細小波(いさらなみ)さんが先に行こうって言ったくせに」

「だってよー、あんないちゃいちゃしてんの見てられるか!?」

「……僕は別に。(そま)さんいじるの面白いし」

「旭はしんどいだろ!? かわいい妹が、杣といちゃいちゃしてたらよー」

「そうでもないよ。朔夜は憩のことをよく考えてくれるからね」

 旭は微笑むと、コーヒーを口にする。

「そうかよ、俺だけかよ!! 見てるのしんどいの!!」

「……杣さんが羨ましいだけでしょ。自分はそういう相手いないから」

 千歳は頬杖をつきながら、身も蓋もないことを言う。

「おい!! 勝手にいないって決めつけんな!!」

「……じゃあいるの? 1日中僕たちといるのに」

「こら、千歳。あんまりデリケートな話には触れないんだよ」

「……すみません。つまり、いないんですね」 

「悪かったな!! そういうお前らはいんのかよ!!」

 漣は悔しそうに顔を歪めながら、バンバンとテーブルを叩く。

「……いらない。邪魔だから」

「僕は憩や(なごみ)が、幸せでいてくれたらそれでいいかな」

「あー、はいはい!! そうですか!! 聞く相手を間違えたわ!!」

「……そんなんだから相手いないんだよ」

「千歳、そんなに言ったらかわいそうだろう?」

「おい旭、フォローになってねえよ……」

 漣の心は、偵察が始まる前にボロボロになっていた。


「……さ、朔夜? どうしたの?」

 急に朔夜に抱きしめられ、憩の頭はショート寸前だった。

 硬い隊服から感じる朔夜の鼓動に釣られ、憩の鼓動も速くなる。

「……あのさ、いこ。俺……」

 朔夜が言いかけたところで、足音が近づいてきていることに気づき、2人はパッと離れる。

「わ、悪い……。その、急にこんなことして……」

 朔夜は憩の顔が見れず、そっぽを向いた。

「ううん、私が不安になってたからだよね。ありがとう」

「いや、あの、そうじゃなくてよ……」

 俺が絶対に護る。そう伝えたいのに、

 自分を真っ直ぐに見つめる憩に、朔夜は言葉が詰まる。

 思わずギュッと、拳を握りしめた。

「あれ? 杣さんじゃないっすかー!! 何してんすか?」

 急に声をかけられ朔夜が振り向くと、そこにいたのは特務部隊の後輩たちだった。

 朔夜は咄嗟に憩を背に隠す。

 特務部隊には男性隊士しか所属していない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)にとって、女性は格好の獲物だからだ。

 そんな女に飢えた隊士たちに、憩を見せる訳にはいかなかった。

「んだよ、お前らかよ足音の正体は」

「なんすかその言い方ー!! 俺たち偵察終えて戻るとこなんすよー」

「そうかよ、さっさと帰れ」

 朔夜は手で払うかのような仕草をした。

「ひどいなー。てか、誰か隠しましたよね? 誰すか?」

「関係ねぇだろ、さっさと帰れよ」

「あ! 女の子だ!!」

「まじかよ!? 俺にも見せてくれよ!!」

「嘘だろ!? 隊服着てるぞ!!」

「かわいい、ちっちゃいなー!!」

「ねぇねぇ、顔見せてよ!!」

 朔夜が1人を相手にしている間に、他の隊士たちが後ろに回ったのだった。

 急に男たちに囲まれ、憩は朔夜の隊服をギュッと握る。

「ねぇ、名前はなんて言うの?」

「おい、勝手に話しかけんじゃねぇよ!!」

「いいじゃないっすかー! 挨拶させてくださいよ!」

「隊服着てるってことは、特務部隊っすよね?」

「女の子なのにすごいっすね!!」

「ジロジロ見んな!!」

「女の子が入るなんて、最高じゃないっすか!!」

「ねぇ、どんな人が好みなの?」

 後輩隊士たちは盛り上がってるが、朔夜は最悪の気分だった。

 2人の時間を邪魔された挙句、憩にちょっかいを出されているのだ。

 これだから見られないよう、背に隠したのに逆効果だ。

 もうさっさと立ち去ろうと思った時、憩に隊服を引っ張られた。

「分かってる、嫌だよな。すぐ行こう」

「待って、ちゃんと挨拶する。朔夜の知り合いなんでしょ?」

「朔夜? 杣さん名前で呼ばれてるんすか!?」

「すげー!! この子、杣さんのこと呼び捨てだぞ!!」

「まじかよ!? 死神って言われるような人にか!?」

「杣さん呼び捨てにできる人なんて、総司令か旭さんぐらいなのにな!!」

 隊士たちはいちいち憩の発言が気になるようだ。

「うるせぇな。こいつは総司令の孫で、旭の妹なんだよ」

「ごきげんよう、皆様。憩と申します。お祖父様やお兄様がお世話になっております」

 憩は朔夜の背から顔を出して挨拶すると、ぺこりと頭を下げた。

「憩ちゃんて言うんだ! よろしくね!!」

「憩ちゃん!! 俺とも仲良くしてね!!」

「すごい!! 金色の瞳だ!!」

「和さんも綺麗だけど、憩ちゃんはまた違った良さがあるな!」

「かわいいね!! いくつなの?」

「よろしくしねぇよ、もういいだろ!!

 さっさと帰りやがれ!! 2度とこいつに話しかけんな!!」

 捨て台詞を吐くと、憩の手を取りその場を立ち去った。

 朔夜は憩の手を引いたまま、無言でズンズンと先に進んでいく。

「さ、朔夜!! ちょっと待って!!」

 背の高い朔夜の歩幅に付いて行くのに、憩は小走りになっていた。

「悪い、気が利かなくて……」

「ううん、大丈夫! 急がないと、みんな待ってるもんね」

「いや、そういう訳じゃねぇけど……」

「うん? どういうこと?」

「いや、なんでもねぇよ……。

 そうだな、細小波あたりがキレてそうだ」

 2人は漣の姿を想像して、顔を見合わせて笑った。


「……あ、やっと来た」

「ったく、俺たちが待ってるってのに、おてて繋いで何やってたんだー?」

 漣がニヤニヤしながら指摘すると、2人はパッと手を離した。

「あの、これには理由がありまして……」

「絡まれたんだよ、日中偵察の特務部隊に」

 朔夜は顔を(しか)めると、道中にあったことを説明した。

「……何そいつら。ありえないんだけど、絞め殺そうかな」

「朔夜が付いていてくれてよかったよ。厳重に注意しておくね」

「つーか、そいつら憩に会ったことなかったのか? 相楽の爺さんの孫だって知らねーのかよ」

「日中偵察の奴らとは会わねぇよ。この時間、いこはもう部屋に居たからな」

「そうだね。夜間偵察班のごく一部の人間くらいかな、憩と会ったことがあるのは」

 朔夜と旭の言葉に、憩はこくこくと首を縦に振る。

「……僕も憩と初めましてだったし。会ったことない人はたくさんいるでしょうね」

「いいんだよ、会わなくて。どいつもこいつも近ぇんだよ」

 朔夜は先程の光景を思い出し、イライラを吐き出す。

「でも、せっかく同じ部隊にいるから、ちゃんとみんなに挨拶したいな……」

「お前いい子だなー!! でもな、正直俺らでも会ったことねえやついるから! 気にすんな!!」

 そう言うと、漣は憩の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「テメェ、いこに触ってんじゃねぇよ」

「ベタベタ触ってるお前が言う!?」

「……本当、何触ってんの? 変態、憩に変な菌つけないでよ」

「変態でもねえし、汚くもねえよ!! 風呂入ってるわ!!」

「僕が言わなくても、2人も言ってくれる味方が居て心強いよ」

「旭も俺の味方してくれないわけ!?」

「漣様に触れられても、何とも思わないので気になさらないでくださいね?」

「うん、俺の心が何ともなくないわ……」

 こうして5人は、偵察前のひと時を過ごしたのであった。

 

キャラのこぼれ話も更新しました⭐︎

X(旧Twitter)にて、憩ちゃんと朔夜のイラストを公開しております!

よろしければご覧ください♪

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