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59日目

 ぐちゃぐちゃになったライムを見て、僕はなぜだか笑顔だった。


 その理由は分からない。昔はあんなに仲良しだったのに、今はライムからの執着に解放されて、せいぜいしたんだろう。


 けれど、そこから糸が切れたように僕の瞳からは涙が流れ始める。怖かったから? 悲しかったから? 


 どんなに心のなかで自問自答しても、その答えは出なかった。


 翌日、リビングでテナーはライムの部屋から見つけ出したという、ライムの日記を渡してくれた。


「アルくん、実はライム様の部屋にこんなものが……」


「日記……?」


「えぇ、彼の自室で見つけました。アルくんが過去へタイムリープしている時に」


 話によると、テナーとアリアは何か手がかりがないか、僕の実家であるコントラルト家のライムの部屋で散策していたらしい。


 その時、二人はライムの日記を見つけたとのこと。


 僕は日記の表紙をじっくりと見つめてから、ページを適当にめくる。


 ぱっと見て、ライムは日記を昔から書いていたことが分かった。


 幼い頃、僕と一緒に遊んだこと。病院に行って、僕が心療内科の先生たちを殺した日。


 ライムが父さんと母さんを殺したこと。僕と離ればなれになって寂しい思いをしたこと……。


「ライム、ごめん……ね……」


 僕が謝っても、もうその返事は返ってこない。テナーとアリアは、なんともいたたまれない表情をしていた。


「……にぃさま。次のページが問題なの」


「次のページ、が……?」


「えぇ、見てください」


 僕は言われた通りに次のページをめくった。すると、衝撃的な出来事が書かれていた。


『今日、僕は父さんと母さんを殺しました。神様は、僕が死んだ頃には真っ先に僕を地獄へ落とすでしょう』


『ですが、少しだけ言い訳をさせてください。神様はこんな僕をお許しにはならないでしょうが、僕は自分がしたことをきちんと書こうと思います』


 僕は文字を目で追い、次の行(ぎょう)へと移る。


『僕はある日、呪術を使って悪魔と契約を交わしました。悪魔はグラーヴェと言い、妙に美しい姿をしていました』


『その日から僕は呪術に没頭し、グラーヴェはアルトにいさんのことが気になっていました』


『するとグラーヴェは何を思い付いたのか、にいさんの魂がほしいと言いました。もちろん、そんなことはさせません。僕はやめるように必死に言いました』


『やっとの思いでグラーヴェは納得し、にいさんの魂を食べないと言いました。しかし、そう簡単にはいきません。グラーヴェは条件付きで話を持ちかけます』


『僕の身近な人……両親を呪術によって殺し、にいさんをナイフで殺す。さらに両親の血を使って、死んだにいさんと入れ換えっこする』


『そうすれば、死んだはずのにいさんは生きることになり、僕はにいさんとして死ぬことになる。さらに、グラーヴェは死んだ僕の魂を食べて乗っ取ると言うのです』


 僕は、もう……ライムの日記を読むことが辛くなってきた。何かが込み上げてくるものがある。


『僕も最初は否定しました。けれど、僕はにいさんのためなら魂を食らいつくされ、死んで悪魔に乗っ取られてもいいと考えました』


『にいさんが生きてくれるなら、それでいいんです』


『僕の幸せは、何よりもにいさんが長く生き続けることなのですから』


「らい、む……。ライム……」


 僕は日記を閉じて、人生で一番大声をあげて泣いた。


 本当はライムは優しい性格だったんだ。違う、元からライムは本当に『いい子』なんだ。


 僕をいじめっ子たちから守ってくれたり、僕の面倒を見てくれた。


 どんなに泣き叫んでも、もうライムは帰ってこない。ぼくを嬉しそうな声で、にいさんと呼ばれることはもうない。


 その日の夜、僕は泣き疲れて眠ってしまった。幼い記憶で見つけた、昔の僕のように。

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