58日目
「違うよ、にいさん。少しだけ惜しい」
「ライム……!?」
「ふふ、にいさん。こっち」
どこからかライムの声が聞こえたかと思うと、幼い僕はいつの間にかライムへと変わっていた。
「やぁ、にいさん」
「ライム……!」
ライムは屈託のない笑顔を浮かべるが、僕はライムを睨み付ける。
ライムはそれに動じるどころか、にやりと笑ってみせた。
「にいさん。にいさんの推測は本当に惜しいんだ。あともう少しで、にいさんの大好きな花丸がもらえたのに」
「うる、さい……!」
「そうやって、にいさんはいつも受け入れようとしない。この状況も、現実も。何もかも」
その声も、表情も。何もかもが不快でたまらない。まるで、悪魔に取りつかれてるみたいに。
「そうだ……。悪、魔に取りつかれてるんだ……! ライム、目を覚まし、て……!」
僕は依然としてライムの肩を揺さぶった。けれど、反応がない。さっきまであんなに話していたのに。
「ライ、ム……! ライム!」
「目を覚ませよ!」
僕は初めて大声でライムに叫んだ。その時の感情は、悲しかったのか怒りだったのかは分からない。
ライムは僕の声に一瞬、肩を震わせた。幼い頃の僕のように。
「……あぁ、なんだ。ちゃんと心があるじゃないか」
その直後、ライムは何かを言った気がする。その言葉はたったの三文字だった。
しかし、それはライムの体が弾け飛んだ音で分からなかった。
「にぃさま!」
「アルくん!」
ほとんど同時に、テナーとアリアの声が聞こえた。この場所に入っていくのが分かる。
『僕』はあの時と同じように、光を灯さない瞳で笑っていた。




