49日目
キャロル先生に励まされた幼い僕は、今までにない心からじわじわと感動が押し寄せているのが分かった。
この感情は何だろう? と、昔の僕なら思うだろう。でも、今の僕なら知っている。
そんなことを思っていると、キャロル先生が軽く手を叩いて幼い僕とライムの視線を集めさせた。
「せんせー……?」
「先生、どうしたんですか?」
キャロル先生は何やら不適な笑い声を出しながら、とてもいいアイデアを提案する。
「ふふふ……私はいたって正常よ。皆でカレーを食べようと思ってね」
「カレー……!?」
「カレー……ですか」
目を輝かせる幼い僕とは違って、ライムは苦々しい声を出した。
そんなライムを不思議に思ったのか、キャロル先生はライムに声をかける。
「あら。もしかして、カレーはお好きじゃないかしら?」
その問いにライムは困ったような、苦笑混じりな顔で答える。
「い、いえ……。僕、辛いものはあまり好きじゃなくて……。あと、少し心配なことが」
「心配なこと?」
「えぇ、じきに分かると思います……。あれは、モンスター並みですよ」
不思議そうに顔をしながらキッチンへ向かうキャロル先生に、不安で胃が痛くなるライム。そして、カレーが楽しみで仕方がない幼い僕。
楽しみすぎてついそわそわしてしまう幼い僕は、裏のキッチンへと繋がる部屋の廊下に行ってしまった。
「ま、待って……!」
僕は慌てて過去の僕についていき、遅い足で走っていった。
「つ、着いた……!」
少し走っただけで息切れする僕の隣には、幼い僕がいる。当然、昔の僕には見えない。今の僕は過去に干渉できないからだ。
幼い僕と現在の僕は、キッチンのドア越しに聞き耳を立てた。
改めて昔の僕を見ると、確かに弱そうに見えた。そして、下手をしたら女の子に見えたかもしれない。
そんなことを考えていると、キャロル先生と他の心療内科の先生たちの話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、キャロル先生。まだあの子どもの診断してるの?」
「聞いたわよ。噂では、いいところのお嬢様が許嫁だとか……」
「それ本当? 確か、先祖から呪術とかいう、オカルトな物を引き継いでるんでしょ? 罰が当たりそうだわ」
他の心療内科の先生が、僕やアリアの家の悪口を言っている。ここまではまだよかったんだ。
すると、キャロル先生も口を開く。
「えぇ、そうね。ろくでもない子どもには、ろくでもない家がついてくるのよ」
驚きで心臓が止まりそうになった。それは幼い僕も同じで、しばらく目を見開いてそのままになっていた。
幼い僕はうつむいて何かを呟くと、思いっきり玄関のドアを開けた。
「ど、どうしたの、アルトくん。先生に何か用事かしら?」
明らかにはぐらかしているキャロル先生を前に、幼い僕は台所の上に置いてある包丁をつかむ。
「せんせーのこと、僕は……もう、好きじゃない」
「せんせーなんか、大嫌いだ!」
周りの甲高い悲鳴が耳につんざく。けど、幼い僕はそれを無視してキャロル先生も、他の先生も殺した。僕が殺してやったんだ。
過去の僕はもう、あんな甲高い声や先生の悪口なんて聞きたくなかった。
「ほら、これで……もう、静かになった……よね?」
幼い僕はポケットから針と糸を取り出し、上手に先生たちの口を縫い合わせてみせた。




