48日目
「せんせー、こんばんは……!」
「こんばんは、先生」
「あら、アルトくんとライムくん。今日も来てくれたのね、ありがとう」
先生と呼ばれた若い女性は、少し長めの茶髪に栗のような丸くて黒い目。そばかすが特徴的な顔で、白衣とインナー、スカートを身に包んでいる。
若い女性は幼い僕とライムを優しくなでると、過去の僕は心の底から嬉しそうに。
過去のライムは、控えめに微笑んだが嬉しそうだった。
幼い僕は若い女性と向かい合うように椅子に座り、ライムは幼い僕の少し離れた隣の椅子に座る。
すると、若い女性は突然高いテンションで話し出した。
「それじゃあ、今日もクイズやっちゃお~!」
幼い僕は少しおじけづいたが、すぐに子どもらしく無邪気に振る舞った。
「お、おー!」
「……あ、ごめんねアルトくん。君は大きい声が苦手なんだったわ。先生、うっかりしてていけないわね……」
先ほどのテンションはどうしたのだろうか。診断書であるカルテを見て、若い女性はうなだれている。
「せんせー、だいじょぶ……?」
「うん、平気平気。ごめんね~」
若い女性は気丈に振る舞っているように見えるが、今の僕には分かる。彼女が無理をしているということに。
「では気を取り直して。アルトくん、先生の名前分かるかな?」
「……? せんせーは、せんせー……」
「うーん、それも間違ってはいないんだけどね。私の名前はキャロル・カドリール。キャロル先生よ」
「キャベツせんせー……?」
「惜しいっ。正解はキャロルよ。忘れないように、メモしておいてね」
「……! うん……!」
キャロル先生は幼い僕にメモと鉛筆を渡すと、幼い僕は先生の名前を似顔絵を書く。
文字や絵はぐちゃぐちゃで、目を凝らせばやっと分かる程度の物だったが、キャロル先生はとても喜んでくれた。
三十分ほど談笑した後、幼い僕は重々しく口を開く。
「せんせー、あのね……」
「うん、どうしたの?」
「僕ね、またいじめられたの……。みんな、僕のことばい菌だって、よわっちいって……」
涙を流す幼い僕にキャロル先生は察し、幼い僕にアドバイスしてくれた。
「そんなやつらはね、気にしない方が勝ちよ。それにね、暴力で勝つより実力で勝った方がいいの」
「実力……?」
「えぇ、そうよ。暴力で勝っても、傷つく人が生まれてしまうの。でもね、実力……。勉強や運動で勝ったら、今まで頑張ったのが救われて、とても幸せな気持ちになれるのよ」
せっかくアドバイスしてくれたのに、幼い僕はうつむいて涙を浮かべている。
「でも……。僕、運動も勉強も苦、手……。何にも、できないよ……」
「そうかしら? 私は、アルトくんが素敵な特技があるのを知っているわ。それで補えばいいのよ」
「特技……? おぎな…??」
「あなたには素敵な才能があるわ。将来は、絵描きさんになってるかもね」
「な、なれるかな……?」
不安げな瞳で先生を見つめる幼い僕に、キャロル先生は自信満々に答えた。
「えぇ、だってアルトくんだもの。あなたならきっとできる。少しずつ努力してれば、ね」
その言葉は、過去の僕も今の僕にとっても感動するものだった。
けれど、僕たちはまだ知らない。これから悲劇が始まることを……。




