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32日目

「泣いてばかりじゃ、ダメですね……」


 テナーが泣きながら笑顔で答える。僕は下手くそな笑顔で、テナーをなぐさめた。


「泣い、ても……いいんだよ……」


「アルくん……」


 僕たちはひとしきり泣いてから、ストーカー女であるエレジーの対策について作戦を考える。


 僕とテナーは向かい合わせに黒いソファに座り、テナーが指示をしつつ、紙と鉛筆を持って簡単な書類を作った。


「まずは、この部屋からの脱出ですね」


「アルくん」


「何……?」


「銃でもいいのですが、音でバレますので……。あなたの裁縫道具を貸してもらいませんか?」


 真剣な顔で言うテナーに、僕はあっけに取られそうになった。けど、これは遊びなんかじゃない。


 僕らの命がかかってるんだ。


「分かっ、た……」


 僕は黒いリュックから裁縫道具を取り出すと、テナーは針と糸を手に取った。


 すると、テナーはドアノブの前にしゃがみこむ。手際よくカチャカチャと音を立てながら、ドアを開けようとしていた。


 昔、映画で見たことがあるような気がする。確か、ピッキングとかいうやつだ。


「できました」


 十秒ほどしか経っていないのに、テナーはあっけなくドアの鍵を開けてみせた。


「はっ、早い……!?」 


 これには僕も驚いた。こんなことをできるのは、テレビの画面に映る人間だけだと思っていたからだ。


「テナー、すご、い……! もう一回、もう一回……!」


 僕は小さな子供のように目を輝かせてはやし立てる。


 そんな僕を見て、テナーは苦笑いを浮かべて言った。


「お褒め頂けるのはありがたいのですが……。アルくん。時間もありませんし、また次の機会に」


「……分かった」


 僕は頬をふくらませ、すねた素振りをする。テナーはそれを見て微笑ましいような、困ったような顔をしていた。

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