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31日目

 テナーは神妙な面持ちで告げると、僕の顔をまっすぐ見つめる。


 僕は思わず目をそらしそうになったが、僕もテナーと顔を合わせる。


「それで……。本当に、テナーのこと……聞いて、もいいの……?」


「えぇ。最初は話せないつもりでしたが、気が変わりました。アルくんが知りたいことをできる範囲で、話させてもらいますね」


「わ、分かった……」


 僕が自分から聞いたくせに、何だか緊張して仕方がない。この話を聞けば、今までのテナーが変わってしまうかもしれない。そう思った。


「アルくんは、私の言動を不思議に思っていたのですね。下手をしたら、怯えさせてしまったのかもしれません」


 テナーは目を伏せ、幼い子供に言い聞かせるように優しく話す。


 僕はただ、これから言われる話を受け入れることしかできなかった。


「この口調は偽りなんです。あなたの従者になるために、必死に練習しました」


「私が従者になる前……。昔は、(わたくし)テナー・アレグレットは孤児の暗殺者だったのです」


「暗殺者になる前は……そうですね。私は、北のとても寒い国の出身で、高額なお金で取り引きされました」


「ただ……それだけの話です」


 テナーはため息をつくと、もう一度僕の方を向いて尋ねる。


「……質問はありますか?」


 テナーは学校の先生のように。けれど、事務的ではなく穏やかに言う。


 答えるのは僕しかいないし、むしろ聞きたいことが山ほどあった。


「テナーは……えっと……。怖かったり、寂しく……なかったの……?」


「えぇ。狭い部屋の中に閉じ込められて、寒さと空腹に震えながら過ごしてました。それに、私は両親に捨てられたので……。愛情が欲しくて欲しくて、たまりませんでした」


「その後グレてしまって、買われた先の施設の人間の命令で、罪のない人たちをたくさん殺しました。あれは……どうやっても、(つぐな)うことはできません……」


 涙がにじんだオッドアイの瞳を、テナーは(ぬぐ)った。


 僕はその手をそっとつかんで、優しく微笑んだ精一杯の笑顔で口をつぐむ。


「僕は、テナーの……味方。テナーは僕の友達で、親友で……従者。とっても素敵な、家族だよ……!」


「ありがたき、お言葉です……アルくん……。私は、いつまでもあなたの従者でいます……」


 これまでにない、温かな空気が僕たちを包み込んだ。

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