33日目
テナーは僕を後ろにいさせて、慎重にリビングのドアを開けた。
すると案の定、廊下の至るところに盗聴器と監視カメラが仕掛けられている。
テナーは一瞬ためらったが、小声で僕に声をかけた。
「……アルくん。銃を貸してください」
「何で……?」
「今が必要な時なんです。大丈夫です、すぐに済みますから」
「分、かった……」
僕は恐る恐るテナーに銃を渡す。
テナーは素早く銃を構えて、この廊下にある監視カメラや盗聴器を一瞬にして破壊させた。
僕が驚く暇もなく、テナーは足早に目的地へと向かう。
僕はそれにすがるようについていった。
「テナー、あの……」
「なぜそんなに銃の腕前があるのか、ですか?」
「う、うん……。そう……」
廊下での道中、テナーは周りを警戒しつつ、銃を持ちながら歩いている。僕も物音をあまり立てないように歩いた。
「暗殺者だった……と言えば全て説明がつきますが、少しだけ教えましょう」
「私には、『師匠』と呼べる人物がいたのです」
「師匠……?」
僕は首をかしげると、テナーはやわらかな笑みを浮かべる。
「えぇ、簡単に言うと教師みたいなものでしょうか。いつも眠たそうな顔をしていて、面倒くさがりな人です」
僕は四十代ぐらいのおじさんだと、勝手に想像しながら話を聞いていた。
「ですが銃や戦闘のことになると一転して、真剣な表情になるんです。私はその取り組む姿勢と、確かな強さが大好きでした」
僕は『師匠』を熱心に話すテナーに、また別の興味を持った。
「そのお師匠さんは、どんな……人、だったの……? ひげもじゃ? おじさん……?」
「なぜそんなマニアックな趣味をお持ちで……!? 逆に狙われますよ……!」
テナーは大声でツッコまないように、なんとか声を押さえながら僕に師匠のことを教えてくれた。
「師匠はかなり若い人で、二十代の前後辺りでしたよ。そしてご友人もいらっしゃって、その方と幼馴染みだったような気もします」
「あと、私と同年代の小さい子供がいました。覚えてるのはそれくらいです」
「へぇ……」
僕が関心していると、テナーはぽんと手を叩いた。
「あ、思い出しました。確か師匠や、師匠のご友人には異名がありました」
「例えば、どんな……?」
「『ウサギ』や『ネズミ』です」
僕は世界的に有名な黒いネズミや茶色のウサギを浮かべていたが、どうも違うようだった。
「アルくん、今ダメな想像してましたよね……!?」
「してない」
僕はとっさに嘘をついたが、テナーはそれに気づかず進みながら話していく。
「確か、『不思議の国のアリス』をモチーフに……。っと、着きましたよ」
テナーは足を止めると、僕も遅れながらも歩くのをやめる。
「これは、少し緊張しますね……」
そう言いながら、テナーは銃を撃つためのハンマーを叩いて戦闘体勢に入った。
不安と緊張が入り混じった顔で、僕はテナーを見つめていた。




