廃龍
投稿ミスって再投稿です。ごめんなさい
翌日、俺とシルフィアは冒険者ギルド経由で雇ったBランクパーティー、白鹿団のメンバーと共にミネニカ山に向かった。
彼らは戦闘には参加させないが、討伐成功後の廃龍の死体回収をして貰う。ポーターもしてくれるので、体力温存にもなる。
シルフィアのスキルの使用条件は昨夜きちんと満たした。
「では皆さんはここで待機して下さい。万が一私達が敗北した場合は撤退し教会に連絡を」
「承知しました。ご武運を」
麓で冒険者と分かれて山を進む。
ミネニカ山の大まかな地形は地図がある。冒険者ギルドが所持していそうな冒険者を当たり、一晩で手配してくれた。教会の権威は凄い。
なので戦いやすい地形の場所は目星を付けてある。そこに向かう。
シルフィアは実戦式司教級聖装、俺は大型の両手剣を下げている。
木は少なく人が隠れられるくらいの大きさの岩が多数ある。ここなら人は身を隠せるが、巨大な龍は丸見えになる。
天気は快晴、空の視界も良好だ。
「よーし、じゃあいこう。スキル発動」
シルフィアがその固有スキルを行使する。魔法より優先度の高い、世界から与えられた権能、それがスキルだ。
力がみなぎる。身体能力も魔力も大幅に強化される。
「強化魔法を遥かに上回る効果だな」
「えへ。凄いでしょ。アルベルトのためだけの力だよ」
少し顔を赤くして、微笑むシルフィア。可愛いが、イチャイチャしている場合ではない。
廃龍の巣は山頂にある。そこに攻撃魔法を叩き込み、おびき出す。
“想い、祈り、乞う、陽光よ此処にあれ、子らが為の矛たれ”
二人声を揃えて詠唱する。攻撃神聖魔法『暁槍』、構築した光の槍を放つ。
山頂に向けまっすぐ飛び、炸裂する。程なく、空に龍が舞った。
呪われたのか、病んだのか、体中に不気味な瘤を持ち、膿を吹き出す知性無きドラゴン。だが、巨体で空を飛ぶ姿は圧巻だ。
醜くも雄大、廃龍ゴリアート。
とばっちりで悪いが討たせて貰う。
龍はまっすぐこちらに向かってくる。俺とシルフィアは岩に身を隠す。
龍は上空をぐるりと一回りすると、着地した。地面が揺れる。
俺は詠唱し光の槍を構築しつつ、岩から飛び出す。廃龍を狙い、放つ。まっすぐ飛んだ光は廃龍の胴体に直撃し、轟音が響く。「グブォォォ」と廃龍が咆えた。
シルフィアのバフで破壊力が大幅に上がっている。致命傷ではないが、龍からはだらだらと血が流れている。
廃龍の口に青白い炎が灯る。ブレスだ。炎の奔流が迫る。
俺は強化された身体能力で横に跳び躱す。体が軽い。
廃龍がブレスを放った瞬間、シルフィアも岩陰から飛び出していた。光の槍を放つ。先程俺の攻撃で出来た傷口に突き刺さる。見事な魔法制御だ。傷が広がり血が吹き散る。
廃龍が駆け出した。狙いはシルフィアだ。俺は詠唱しつつ剣を抜き、龍とシルフィアの間に割って入る。
重い両手剣も強化によって木の枝のように振り回せる。
剣にエンチャント、光が刃を包む。
廃龍が前足を振るった。迫る巨大な爪を剣で打ち返し、弾く。
返す剣で前足を斬り付ける。刃は深く大きく肉を切裂く。
苦痛に咆え、廃龍が後ろに飛びすさる。
廃龍は翼を広げ、空に飛び上がる。その口には炎、上から広範囲をブレスで焼くつもりだ。
俺はシルフィアを脇に抱き、防御魔法『誉の城壁』を詠唱、防壁を構築する。
視界を炎が包む。だが防壁は完全に熱を遮断している。
炎が消える。同時に上空に向けシルフィアが光の槍を放つ。狙いは龍の翼、直撃しバランスを崩した廃龍は地面に落ちた。
俺は剣を構えて廃龍目掛け突撃する。胴体の傷口にエンチャントした剣を突き立てる。剣を引き抜き、傷に左手を突き入れる。そのまま詠唱
“想い、祈り、乞う、陽光よ此処にあれ、子らが為の矛たれ”
廃龍の体内で、光が炸裂した。
俺は後ろに跳び、龍から距離をとる。
左手は自分の魔法で消し飛んで無くなり、血が流れ出ている。
回復魔法で血を止める。シルフィアのバフで強化された回復力は凄まじい、腕は再生していく。
廃龍の体から力が抜ける。巨体が倒れ、地面を揺らす。
勝った。
龍の死体に近づき、意識を集中する。瘴気放つ穢れた物体が一つ体内から感じられる。
幸い、龍は仰向けに倒れていた。剣で腹を捌き銅貨を探す。気持ち悪さに耐え内臓をまさぐること暫し、見付けた。
「シルフィア、これだよな」
「間違いない。早速やるね」
シルフィアが銅貨を地面に置き、詠唱を始める。在るべき場所に還す効果の神聖魔法、本来はレイスなどの魂を冥府に還して消し去る魔法だ。
銅貨が光に包まれ、消える。
終わった。
◇◇ ◆ ◇◇
廃龍の死体回収は白鹿団に任せ、俺はシルフィアと共にノアハの街に戻り、ディック達の所へ向かった。
俺の姿に驚くディック達に今までの経緯を説明した。
「済まない。ありがとう」
ディックが頭を下げる。
「ありがとうございます。ごめんなさい」
ペトラが泣きながら言う。
廃龍に噛まれて衰弱したレオは眠っていたので起こさず、回復魔法をかけておいた。
「アルベルト、あの、その、もし良かったらもう一度一緒に……パーティー戻ってくれないかな」
ペトラがおずおずと申し出る。
「すまない。結婚することになってな。冒険者は続けられない」
今後の事は細く決めていないが、ストリナ聖堂の近くでシルフィアと同居するのは確定だ。いずれ育児もすることになるだろうし、冒険はしていられない。
「そうなの。子供10人ノルマだから。もう遅い、ってことで諦めて」
言ってシルフィアが俺に抱きつく。
シルフィアの事は好きだけど、教会の多産推奨はちょっと気掛かり。
まぁ、でも頑張るか。
「あと、力は失ったけどマルコの怨霊は消えてないはずだから、供養頑張れ」
俺がそう言うと、ディックとペトラが「ひぃ」と声をあげた。
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『傀儡王女が追ってきた 〜 元辺境伯です。俺を追放した王女が訪ねて来ました。ふむふむ、大臣の言う通りに追放したら大変な事になった? 責任を取って連れ戻しに来た? 色仕掛けする? そっか……』