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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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帰ってきた弟


 弟が転がり込んでくる形で、俺と同居してんのよ。

 正直、弟と同居する前提じゃなかったからひとり暮らしの狭い部屋だし、ムサい弟と一緒に暮らしたくない。

 でも、俺の弟、バックパッカーなんだよ。数ヶ月アホみたいにバイトして、数ヶ月旅に出る。だから同居してるって言っても、弟が家にいる時間は短い。そうでなけりゃやってらんないよな。


 日本に帰ってきている間はバイト漬けの弟だけど、その日は珍しく家にいたんだ。正確には夜にバイトが入ってたみたいで、俺は仕事が休みだった。

 じゃあとりあえずゲームでもするかって言って、ふたりで対戦ゲームをしてたんだ。

 そしたら弟が「俺、ちょっとコンビニに行ってくるわ」って言って玄関に向かった。

 俺ん家から徒歩3分くらいのところに、コンビニがあるんだよね。


 で、弟が出ていって、鍵をかける音がして、10秒後くらい。鍵を開ける音がしたんだ。

「ただいま〜」って声が玄関から聞こえた。

 弟の声だった。

 財布でも忘れたのかなと思って、俺は玄関の方を見ながら「忘れ物か?」って声をかけた。

 弟は顔を上げて「え?」って言った。

 玄関で靴を脱いで入ってきたのは、バックパックを背負った弟だった。服はヨレヨレで色褪せてて、髪もヒゲも伸びてる。

 今度は俺が「え?」って言ったよ。


「お前、コンビニ行ったんじゃなかったっけ?」

「は? 半年くらい前に家を出ただろ。なんでコンビニなんだよ。今回はインドとネパール。あとやっぱりタイにも行った。俺、タイ好きだわ〜。あ、洗濯機借りるぞ」


 バックパックから洗濯物を取り出して、弟がベランダに向かう。

 いやいや、さっきまで一緒にゲームしてたし。ほら、画面だって対戦ゲーム。コントローラーだって置いてある。

 動画を見ながらふたりでゲラゲラ笑った記憶もあるし、俺の誕生日に弟がポテトチップスを買ってきて「誕生日プレゼント」って渡された記憶もある。のりしお味だった。俺の誕生日、先月だから間違いない。

 でも言われてみれば、半年前に「今回はインド行くから」って言って家を出た弟を見送った記憶もある。


 弟が戻ってきて、いつもの定位置に腰を下ろした。

 対戦ゲームが表示されているテレビ画面と、無造作に床に置かれているコントローラーを見て、弟が「誰か来てたの?」って聞いてくる。


「誰も……っていうか、お前とゲームやってたんだけど」

「……孤独で頭がおかしくなったのか?」

「いや、さっきまでお前、家にいたんだよ。それで、コンビニに行ってくるって言って家を出てった10秒後にお前が旅行から帰ってきた」

「……おふくろに兄貴が頭おかしくなったって電話するわ」

「せんでいい、俺は正常だ。お前、先月の俺の誕生日に、ポテチののりしお味を誕生日プレゼントとして俺にくれたんだよ」

「それは確実に俺っぽいエピソード」

「だから、さっきまでお前がいたんだって。それで、一緒にゲームやってたんだよ」

「……たしかにこれ、俺がこのゲームで使ってるキャラだ」


 ふたりで顔を見合わせて、ゾ〜っとしたよ。

 コンビニに行った方の弟が帰ってきて、旅に出てた弟と鉢合わせするんじゃないかって、しばらくビクビクしてた。

 だって、もしかしたら俺と一緒に過ごしてたのは、弟のドッペルゲンガーかもしれないだろ? ドッペルゲンガーって、本人が出会ったら死んじゃうっていうじゃないか。

 でも弟の洗濯が終わっても、夕飯が終わっても、翌日になっても、コンビニに行った弟が帰ってくることはなかった。


 旅行から帰ってきた方の弟は、今日も元気にバイトに行っている。スポットバイトのアプリがあるからバイトの申込みが楽でラッキーとか言ってた。今度はカンボジアに行くらしい。

 そろそろ日本で落ち着いて就職して、この家から出てって、両親を安心させてくれないかなと思っているよ。



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