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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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リスナー


 ちょっと前までVライバーをやってたんです。

 いえ、企業には入っていなくて。いわゆる個人Vライバーってやつです。そう、ライブ配信でゲームをしたり、雑談をしたり、時には歌ったり。

 そんなにガッツリ活動しているってわけじゃありませんでした。エンジョイ勢っていうんですけどね。趣味の延長として、可愛らしい二次元の姿でリスナーと楽しむ。そんな活動でした。


 えぇ、私がVライバーをやめることになった話でしたよね。

 緩やかな活動でしたから、当然チャンネル登録者も少なかったですし、同接……あ、同接っていうのは、同時接続のことです。私がライブ配信をしているときに、その配信を同時接続で見てくれているリスナーさんのこと。

 チャンネル登録者が少なかったんで、同接も当然少ないんですよ。多いときでも10人いかないです。だいたいは3人から5人。タイミングが悪ければ0人ってこともありますよ。

 同接が少なくても、馴染みのあるリスナーさんばっかりでしたから、それはそれで楽しかったんです。


 それで、その日は雑談配信をしました。

 もともと入っていた予定がなくなってしまって、暇だから配信したんです。SNSで告知はしたんですが、急な告知だったのでしばらく同接0でした。

 それでも、誰かが来たときに寂しくないように、私、ひとりでしゃべってたんです。

 壁打ちですから、話す内容なんてすぐになくなっちゃいます。だから、そのとき読んでたエッセイの感想とかを話してたと思います。


 そうしたら、「こんばんは」ってコメントがついたんです。

 見たことのないハンドルネームの人でした。アルファベットの適当な羅列で、アカウントを作ってから何も設定してないのかなって思いました。

 とりあえず「こんばんは、初見さんかな? 名前読めなくてごめんね。今日は雑談配信だから、遠慮なくコメントしてね!」って言いました。

 私の言葉を受けて、その人は「実はずっと見てたんだ」ってコメントをくれました。

 配信を見ているだけの人――ROM専さんが初めてコメントしてくれたんだと思って「そうなんだ! コメントしてくれて嬉しい〜」って返しました。


 そのとき気が付いたんですが、同接は0のままでした。

 あれ? と思ったのですが、表示が遅延しているのかなと思って、そんなに気にしていませんでした。

 そんなことより、リスナーさんが来てくれて雑談として間が持つ方が、私にとっては重要だったんです。

 でも、そのリスナーさんのコメントが、なんだか変で……。


――ようやく話せるね。

――ずっと見ていたよ。

――あの人、いなくなった?

――配信始める前に、泣いてること多かったもんね。

――大丈夫、傍にいるよ。


 こんな感じ。

 私、リスナーさんにはバレないようにしてたんですが、彼氏と同棲していたんです。

 彼は私がVライバーとして活動し始めたときは応援してくれたんですが、リスナーさんの「可愛い」「声がきれい」「めっちゃ推してる」「ガチ恋になりそう」ってコメントに徐々に不愉快になっていったみたいで……。

 配信を始めようとすると邪魔されたり、ケンカしたりすることもあって、配信前に泣いちゃうこともあったんです。

 その日も本当は彼とデートの予定だったんですが、私の活動のことでケンカをして、家を出ていっちゃってたんです。


 まるでリアルの私の生活を見ているようなコメントに、背筋が寒くなりました。

 もしかして、ガチ恋の人かもしれない。

 たまたま身近に住んでいる人で、声で身バレして、ストーキングされていたのかもしれない。

 そんな考えが脳裏をよぎりました。


 リスナーさんがコメントをつけ始めてからしばらく経ったのですが、まだ同接は0のままでした。

 表示の遅延だとしても、ずっと同接0なのはおかしい。

 そう考えたとき、私は別の可能性に気付きました。

 このリスナーさんは、本当に『存在』しているのだろうか。


――ねぇ、僕のこと、見えてる?


 画面に、そんなコメントが表示されました。

 私は言葉に詰まりました。

 このリスナーが実在している人間でも、実在していない何かでも、私は今、ヤバい状況なんじゃないか。

 そう考えて、私は配信を終了しようとしました。


 そして、配信を切る瞬間、画面にコメントが浮かびました。


――じゃあこっち


 コメントは最後まで読めず、配信は終了。

 私はその日のうちにすべてのアカウントを消して、何も言わずにVライバーを引退しました。

 彼氏との関係も冷めきってましたし、リスナーからストーキングされている可能性もありましたから、彼氏とは別れて引っ越しました。


 これが、私がVライバーを引退したきっかけになった話です。

 その後は特に変わったことは起きてないですが、今でも「本当に終わったのかな」って不安になることはあります。

 最後のコメント「じゃあこっち」の続きが気になるんですよね。

 コメントの続きを知りたいような、知りたくないような、そんな気持ちです。



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