放課後のAさん
私の通う高校には、旧校舎があった。
ボロボロの旧校舎で、来年には取り壊しが決まってた。老朽化のため入口には鍵がかかってて入れないようになってた。
でも実は、体育館に伸びる道の先にもうひとつドアがあって、そこの南京錠が壊れてたんだ。
南京錠を引っ張れば、簡単に鍵が開いちゃう。
だから、実質出入りは自由。男子も女子も、肝試し感覚で旧校舎に忍び込んでた。
旧校舎にまつわる学校の七不思議はいくつもあったよ。
黒板に書かれた日付が毎日書き換えられる教室。
雨の日には瞳を閉じる理科室の人体模型。
いつも奥の個室の鍵がかかっている2階の女子トイレ。
深夜2時に『月光』を奏でる音楽室のピアノ。
3階の美術室の窓から見える動く石膏像。
女子学生が閉じ込められた階段の大鏡。
なんでもない時間に唐突に鳴るチャイム。
何度数えても段数が合わない西階段。
うめき声が流れる校内放送。
……七不思議なのに7個以上あるんだよ。
そんな感じだったから、よく友達と旧校舎に忍び込んでは、七不思議探検ツアーをしてたんだ。
当然、何も起こらなかった。階段に鏡なんてなかったし、放送室も存在しなかった。女子トイレの鍵は全部開いてたし、西階段は間違いなく22段。
でも一度だけ、変なことが起きたんだよね。
友達と3人で放課後の旧校舎に忍び込んだとき、どこの教室か忘れたけど、教卓に埃をかぶった名簿が置かれてた。
私達は興味本位でそれを開いてみたんだけど、その名簿には見知った名前がずらっと並んでた。その名簿は、私のクラスの名簿だったんだ。友達の名前も、私の名前もあった。
私の名前は赤いペンで丸がついていて、翌日の日付が書かれていた。
そしてもうひとり、Aさんの名前にも赤丸がついていて、いつだったかは覚えてないけど、過去の日付になってた。
Aさんは2学期から学校に来ていなかった。いじめはなかったし、先生も何も言わないしで、私達にもAが学校に来なくなった理由は分からない。
友達と「なにこれ……」「イタズラ?」とか言ってたんだけど、すっごい気持ち悪かったよ。
なんで私の名前に丸がついてるの? この日付は何? って。
そしたら、背後の扉がギィって鳴った。
音に私達が振り返ると、そこにはAがいた。
Aさんは顔をぐちゃぐちゃに歪ませて立っていた。制服を着ていて、スカートをぎゅっと握っていた。
ぐちゃぐちゃに歪んだAさんの顔がすごすぎて、私達は何も言えなかった。
Aさんの顔は悲しみと恨みが混ざったような感じだった。
「どうして、私だけ……!」
Aさんの震える声が響く。私達は恐怖で固まってた。そんな私達に、Aさんは手を伸ばして、ぎこちない足取りで向かってきた。
私達は何も言えないまま身を寄せ合って、状況を理解しようと必死だった。
そのとき、唐突にチャイムが鳴った。キーンコーンカーンコーン……って。
チャイムが鳴り終わると同時に、Aさんの体はすっと消えてしまった。
Aさんが消えてしばらく呆然としてたんだけど、私達は口々に「ヤバい、ヤバい!」って言い合って一目散に駆け出したよ。
その次の日、私は高熱を出して寝込んじゃった。
高熱にうなされながら、「私、死ぬんじゃないか……。あの名簿に書かれた日付は、私の死を予言してたんじゃないか……」って思ったけど、翌日にはすっかり平熱に戻ってた。
で、Aさんなんだけど、結局Aさんは3学期が終わっても学校には来なかった。
私達、旧校舎で見たAさんの様子が気になって先生にAさんについて聞きに行ったんだよ。
でも先生は言葉を濁すばっかりで、やっぱり何も教えてくれなかった。
私が生きてるんだから、旧校舎で見た名簿に書かれた日付は死を予言するものじゃない。でも、学校に来なくなったAさんについては、嫌な予感が拭えなかったな。
あの日、私達の目の前で消えてしまったAさんは、なんだったんだろう。
幽霊……だったのかな。
悲しみと恨みでぐちゃぐちゃになった顔でつぶやいた「どうして、私だけ……!」って言葉には、どんな意味があったんだろう。




