歌の意味
俺が今から話す歌について、分かる人がいたら教えてほしい。
その歌は小学生のときに突然流行ったんだ。わらべうたみたいな感じで、クラスの誰かが歌っていたのが急にみんなに広まったって感じ。
最初にその歌を歌い始めたのが誰だったのか、俺は知らない。
素朴なメロディで、歌詞の意味もさっぱり分からない。でもなんとなく口ずさみやすくて、気が付いたら歌ってる。メロディも歌詞も、20年以上経った今でも思い出せる。
歌詞はこうだ。
のらけ ぺそらに つぶりてけ
ふゆる とおりで さかさまる
やまら ぐららに ぽとりんちょ
ふるるおちたで ふゆるふふ
意味不明だろ?
でもこれがマジで流行ったんだ。クラスの中で歌えない奴がいないくらい、みんな知ってた。
だから休み時間に誰かが歌いだしたら、そこから大合唱。
下校のときにも歌いながら帰った。
そんな俺達を、大人たちは奇妙なものを見るような目で見ることはあっても、咎められるようなことはなかった。
そんなある日、事故が起きたんだ。
崖崩れ。
俺が住んでるところはそこそこ田舎でさ、普通に通学路の横に山の傾斜があったりするのね。
連日の雨で地盤が緩んでたみたいで、学校のすぐ近くの通学路で崖崩れが起きたんだ。巻き込まれて亡くなった男の子もいて、かなりの騒ぎになったんだ。
俺もその光景を見た。
ゾッとするような光景だったよ。
見ていた世界が、いっぺんに変わるんだ。文明が自然の暴力によって根こそぎ削がれる感じ。伝わるかな。
よく知っている風景のはずなのに、まったく知らないような、異質な世界になるんだ。
崖崩れが起きてから、あの歌を歌う子どもはいなくなった。
自然消滅っていうのかな。
あれだけ流行った歌なのに、ピタッと誰も歌わなくなったんだ。歌う気にならないっていうか、歌う必要がないから歌わないって感じかな。
まるで歌の存在がなくなったみたいだった。
で、なんでこんな話を思い出したかって言うと、最近、その歌を聞いたんだよ。
俺は地元で就職してさ。未だに実家に住んでるんだけど、この間の休みに近所の子ども達が歌ってたんだよ。
のらけ ぺそらに つぶりてけ
ふゆる とおりで さかさまる
やまら ぐららに ぽとりんちょ
ふるるおちたで ふゆるふふ
それまで無意識に忘れようとしていたのかもしれない。
姿を変えた通学路の様子、巻き込まれて亡くなった男の子、全校集会。
そういう記憶が、歌と一緒にぶわっと思い出された。
俺さ、ひとりで抱えていられなくて、家に帰って母親にこのことを伝えたんだよ。俺が小学校の頃に、崖崩れがあったよねって。
そしたら、母親がこんな話をしたんだ。
「崖崩れが起こる前に、あんた、よく歌ってた歌があったでしょ。『のらけ、ぺそらに、つぶりてけ』ってやつ。あれね、お母さんも知ってるのよ。お母さんが小さい頃にもね、その歌が流行ったの。誰が歌い出したのか覚えてないけど」
俺は、母親の語る記憶と、俺自身の記憶が符合するのを、気味悪く感じていた。
「それでね、その歌が流行ってしばらくしてから、崖崩れが起きたの。やっぱり巻き込まれて亡くなった人がいた。その崖崩れがあってから『のらけ、ぺそらに、つぶりてけ』って誰も歌わなくなった。あんたも、崖崩れのあとにピタッと歌わなくなったでしょ? それが、気持ち悪かった……」
母親の話を聞いて、俺が小学生だったあの日、大人がなんで奇妙な目で俺達を眺めていたのか、その理由が分かった気がした。
たぶん、その大人達も思い出していたんだ。
不思議な歌の流行と、そのあとに起きた惨劇……。
でも、歌を歌う子どもたちを咎められるわけなんてない。
だって、歌が流行ったからって、また崖崩れが起きるかなんて分からない。それに「崖崩れが起きるから歌うな」なんてこと、言えるわけがない。
歌は歌、崖崩れは崖崩れだ。
そこに相関関係なんてあるわけがない。
もし、この歌と崖崩れに相関関係があるなら……その意味は、この歌の歌詞に隠されていると思うんだ。
誰か、この歌詞の意味が分かる人、いる?




