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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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7階の宿泊客


 去年の夏休みに友達のユズルと泊まったホテルで、不思議な体験をしたんだよね。

 まぁ、そのホテルを選んだのも、ちょっといわくつきだったからなんだけどさ。

 なんでも、もう何十年も7階の客室が改装中らしいんだ。ホテルにチェックインすると、必ず「7階は改装中ですので、立ち入らないでください」って案内されるんだって。

 7階がずっと改装中な理由も、7階で一家心中があったとか、7階の宿泊客だけが神隠しにあったとか、いろんな噂があった。


 で、チェックインしてみると、早速「7階は改装中ですので、立ち入らないでください」って案内があったよ。

 ユズルと部屋に入るなり「うぉ~、マジか!」とか言ってはしゃいだよ。

 当然、7階には行ってみるつもりだったよ。

 12階まであるホテルだったんだけど、エレベーターは7階には止まらない仕様になってた。

 俺達の部屋が5階だったから、階段で行くことにしたんだ。

 あんまり夜遅い時間だと他の宿泊客の迷惑になるかなぁと思って、22時くらいに7階に向かった。

 電気がついてないかもって思って、部屋に設置してあった懐中電灯を持って行くことにしたよ。


 別に何か起きたってこともなく、7階にはたどり着けた。階段と廊下の間には扉はなかったんだけど、7階の廊下には電気がついてて、ユズルと顔を見合わせて「あれ?」ってなった。

 顔だけ出して7階の廊下を覗いて見ても、俺達が泊ってる5階とまったく同じ感じだった。

 廊下に出ているフロア案内の部屋番号も7から始まってるから、7階に間違いない。掃除もしっかりされているし、廊下に敷かれた絨毯も傷んでる様子はなかった。


「別になんともないじゃん」

「でも、立ち入り禁止って言われたよなぁ?」

「客室じゃなくて、従業員用の休憩室として使われてんじゃねーの?」


 そんなことを言いながら歩いてたら、ビールの自販機とかが置いてあるところに、おじさんがいたんだ。

 おじさんは着なれない感じで浴衣を着てて、片手にはビールを持ってた。「何、君達もビール買いに来たの?」って気さくに話しかけられた。

 俺とユズルは話を合わせて「そうです、俺達の階、自販機なくて」とか言ってた。ユズルがビールを買うふりをして自販機に行ったから、俺はさりげなく「おじさんは7階に泊ってるんですか?」って聞いたら、おじさんは事もなげに「そうだよ~、会社の旅行でさ。たぶん、7階は全部うちじゃない?」って返した。


 俺はますます「???」ってなったんだけど、自販機を見てたユズルが「何これ、見たことないの売ってる!」って言いながら携帯を取り出して写真を撮ろうとしてた。

 ユズルの手に握られた携帯を見て、おじさんが「なになに、その平べったいの」って言ったんだ。


「何って、携帯ですよ。スマートフォン。あれ、カメラ起動しない」

「スマートフォン? カメラって、それ、カメラなの?」

「電話ですよ。壊れちゃったかな、圏外だし」

「え、カメラじゃなくて、電話なの?」

「いや、カメラの機能も、電話の機能もついてるんですよ。っていうか、おじさん、スマホ知らないの?」


 ユズルとおじさんは、そんなちぐはぐな会話をしてた。

 ユズルは写真を撮るのは諦めたみたいで、ビールとジュースを買ってた。

 俺はこの噛み合っていない会話が気持ち悪くて仕方なかった。

 目の前にいるおじさんは50代くらい。50代くらいの会社勤めで、スマホのことを知らないって、明らかにおかしいだろ。俺の頭の中に、ちょっと信じがたい想像が浮かんでた。

 ユズルに「そろそろ帰ろうぜ」って言うと、ユズルも「そだなー、別に何もなかったし」って言って、自販機スペースから出た。


 おじさんと別れる前に、俺は自分の想像を確かめるために、聞いてみたんだ。

「すみません、今って何年でしたっけ?」って。

 そしたらおじさんはきょとんとして「昭和58年でしょ」って言った。

 ユズルが「昭和ぁ?」って声を上げたのを俺は打ち消すようにして、大きめの声で「ありがとうございます!」って言って、ユズルの腕をつかんで階段を降りた。


 逃げるように自分達の部屋に戻って来ると、ユズルが「さっきのおじさん、昭和って言ったの? 令和って言ったの?」って聞いてきた。

 おじさんは、間違いなく昭和58年って言ってた。

 俺はユズルに「お前、さっき飲み物買っただろ、あれ、出してみろよ」って言うと、ユズルはポケットに入れていたビールとジュースを取り出した。

 その缶はすっかりさびていて、ユズルが「なんだよ、これ!」って叫んだ。さびだらけの缶の裏を確認してみると、消費期限と思われる数字は「84.3.20」って読み取れた。


 さっきまで圏外だった携帯は、5階では問題なくアンテナが立ってた。

 それで調べてみたら、昭和58年は1983年。

 俺は、やっぱりって思った。

 ユズルはまだ分かってなかったみたいだから、「たぶんだけど」って前置きをして、俺の考えを伝えた。


 つまり、俺達が入り込んだ7階は、1983年の7階だった。

 あのおじさんも、1983年にこのホテルに泊まっていたおじさん。だからスマホを知らなかった。ビールとジュースの消費期限が1984年になってるから、それもあの空間が1983年だったことの証明だ。

 本当の原因は分からないけど、7階が立ち入り禁止になっている理由は理解できた。


 俺の考えを聞かせると、ユズルは感心するように息をついた。

 それから、缶ジュースの方を俺に渡して「飲む?」って聞いてきた。

 飲んだ後のことを想像すると恐ろしすぎて、飲む気にはならなかったよ。

 これが、俺がこの夏にした不思議な体験。ビールとジュースはユズルが持ち帰ったから、その後どうなったのかは知らない。



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