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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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プレスされる


 これは現在進行形の話なんだけどさ。

 俺が住んでる部屋、出るんだよ。そう、幽霊。しかも家具と家具の間の隙間にいるの。『隙間女』って怖い話って聞いたことある? 視線を感じるんだけど、その視線の主はタンスと壁のほんの数ミリの隙間に挟まっている女の霊だったって奴。

 まさにあれの男版。隙間男だよ。


 最初に気付いたときは、本当にびっくりした。事故物件なんて話は聞いてなかったし。

 俺の場合は、視線は感じなかったんだけど、ぎぎ、ぎぎ、みたいな鈍い音に混じって「うぅ……」みたいな男のうめき声が聞こえたのね。

 だいたい、深夜2時くらいかな? 寝てると、その音で目を覚ますことがあったの。

 小さな音だったし、アパートの外から聞こえる音かなって思ってた。


 ある日、この音が部屋の中から聞こえるってことに気が付いたんだ。

 そして音がどこからするのかを、俺は見つけてしまった。

 タンスと壁の間、1センチくらい。

 そこに男が挟まっていた。いや、その時は男かは分からなかったんだ。それが実際に男だって分かったのは、もっと後。


 その男は、タンスと壁の間でプレスされてたんだ。

 だからほとんど、薄べったい肉塊だった。水色っぽい服を着てるかなって感じ。表情とかも全然分からない。半透明だったから、幽霊だと思う。

 その薄べったい幽霊が、ぎぎ、ぎぎ、って音に合わせるように「うぅ……」って呻くんだ。

 かなり気持ち悪かった。


 翌日、俺はさっそく大家に問い合わせたよ。

 大家は俺の話を聞いて、最初はなんのことだか分からなかったみたいだけど、突然「あっ、もしかして」って教えてくれたんだ。

 俺の前の住人が、職場の事故で亡くなってるんだって。その人は夜に工場で働いてて、プレス機に巻き込まれてしまったんだそうだ。

 大家さんとしても、これは口がすべったって感じで「でも、関係ないからね。そんな非科学的なこと、あるわけないし。その部屋で死んだわけじゃないんだからさ」って言ってた。


 それは、そうだよな。

 別に俺が住んでる部屋で亡くなったわけじゃないから、事故物件じゃない。

 死因も圧死で、今もまさにプレスされているけど、俺に見えている姿はプレスされた姿だから、これが本当に前の住人なのかも確かめようがない。

 でもこれをダシに家賃交渉をしてみたら、毎月5千円の値引きになった。年間6万円はでかい。


 俺は寝る時は耳栓をして寝るようにしたんだ。

 うめき声ときしむ音が聞こえなければ、どうってこともない。最初のうちは耳栓には慣れなかったけど、2週間もすれば気にならなくなった。

 でもこの間、寝てる間に耳栓がとれちゃったんだな。そして、うめき声で目が覚めたよ。

 前よりも、うめき声が大きくなっているんだ。しかも「うぅ……」だけじゃなくて「あぁ」「ぐぎぎ」「うぶぅ」みたいな感じで、レパートリーが増えてた。


 俺は「もしかして」と思って、部屋中の隙間という隙間を確かめてみた。

 そしたら、隙間に挟まってる霊が増えてたんだよ。

 本棚とカラーボックスの間、クローゼットの壁と収納ボックスの間、冷蔵庫とキッチンの間、洗濯機と壁の間……。

 そこに挟まった幽霊たちが、それぞれにうめき声をあげてたんだ。


 こいつ、仲間を呼びやがった……!!


 そう思ったけど、俺にはどうすることもできないし、プレスされてる幽霊たちも出てくる感じじゃなかったから、その日はもう一度耳栓をして寝たよ。

 翌日、普通に目が覚めたし、明るい時間に隙間を確認しても、プレスされてる幽霊はいなかった。どうやら夜限定で出てくるらしい。


 結局俺は、今も同じ部屋に住んでるんだけどさ。

 最近ちょっと、気になることがあるんだよね。

 それは、夜中に布団が重くて目が覚めること。

 なんか、掛け布団が重くなって、ぎゅーっと、敷布団と掛け布団にプレスされている感じ。息苦しくて目が覚めるんだ。

 目が覚めてみると、布団はいつもの重さに戻る。


 これってさ、俺もいつか、プレスされるんだと思う? それとも気のせいかな?



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