呪物蒐集家
高校の頃の友人――アキラは昔から変わった趣味があった。
それが、呪物蒐集だ。『収集』じゃなくて『蒐集』な。
本人が『呪物蒐集家』を名乗っていて、「何この難しい字。『収集』じゃない?」って言ったらめっちゃ怒られた。本人なりのこだわりらしい。
で、アキラが蒐集してた呪物っていうのも、玉石混交って感じだった。
俺もいくつか実際に見せてもらったことがある。
髪の毛で綴じた和綴じの本なんかは、素人の俺が見ても嫌な気持ちになった。ボロボロの本なんだけど、本を綴じてるところが本当に人の髪の毛みたいだった。しかも中身の文字は全然読めない。縦書きなのに、日本語には思えない文字だった。
あと、3センチくらいの石でできた胎児のお守り。緑のつるつるした石なんだけど、胎児の形をしてたんだ。この石はとある家の仏壇に置いてあったんだそうだ。その家では妊婦が亡くなったとかなんとか。
かと思えば、「彼女を呪い殺したときに使用した10円玉」とか、「呪われた消しゴム」みたいな、どう見てもガラクタにしか思えない呪物もある。
そんな感じだったから、アキラは変わり者だったけど、クラスの中では面白い奴ポジションだった。
高校を卒業してからも、仲のいいメンバーで集まって飲み会をすることはあった。
でも大学、社会人、結婚……と人生のステージが変化していくと、自然とみんなで集まる機会ってのは少なくなった。
そんなこんなで、気が付いたら高校を卒業してから20年くらい経ってた。
それでこの間、俺達の中でもリーダー的な奴が「高校のときに仲良かった面子を集めて、飲み会しようぜ」って誘ってきたんだ。
俺はもちろん参加したよ。
当日、会場になってた居酒屋に行ってみたら、もう懐かしい面々が揃っていた。
学生時代から変わらない奴もいれば、太ったり、髪の毛が寂しくなったりして、だいぶ変わっちまった奴もいる。
昔話に花が咲いて、楽しい酒の時間を過ごしていた。
そして、到着が遅れていたアキラが、姿を現した。
アキラの姿を見た瞬間、それまで盛り上がってた席が一瞬で静まり返った。
「ごめんごめん、仕事が長引いちゃって」
そう話すアキラの声は、あまり学生時代から変わっていないように思えた。
でも姿は、俺達が知っているアキラとは全然違う。顔立ちや表情に、学生時代のアキラの面影が見えるだけだ。
40歳を目前に控えた俺達の中で、アキラだけが70代に見えた。
肌はしわしわとして張りがなく、髪はほとんど白髪になっていた。筋肉が衰えて細くなった腕にはところどころシミが浮き上がっている。
目だけが不自然なくらいに若々しく輝いていた。
アキラは俺の近くに座ると、早速スマホを取り出して「なぁなぁ、最近蒐集した呪物、見てくれよ」と言った。
少年のように目を輝かせたまま「これを落札したときにさ……」「ほらこれ、写真ごとに表情が違って見えるだろう?」「これを手に入れた日から、耳鳴りが止まらなくてさ」「これは偽物。コピーだったよ」なんて嬉々として語っている。
スマホの画面には、錆びた小箱や赤黒く汚れた人形、ボロボロの御札、三味線のバチ、欠けた能面……そういったものが次々に映し出された。
アキラの説明は延々と続き、彼の笑い声が異様な響きで俺の耳に届いていた。
俺はひたすら「あぁ」とか「うん」みたいな適当な返事をするしかなかった。
二次会という雰囲気にもならず、飲み会はそれで終了。
帰る方向が一緒だった奴とも、ずっとアキラの変貌について話してたよ。
近くで見たアキラの姿は、明らかにおじいさんって感じだった。
話している途中に呂律が回らなくなったり、スマホを持つ手が震えたりしてた。
どうしてアキラがあんな風になっちゃったのか分からない。
なんとなく、高校の時から集め続けていた呪物に、アキラ自身の生命力が吸われ続けた結果なんじゃないかなって考えちゃった。




