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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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ミラーの向こう


 え? 何か怖い話はないかって。

 そりゃ、こんな仕事してればありますよ。お客さん、そういう話が好きなんですか?

 まぁ……私としてはあんまり体験はしたくないですね。だって、そういう輩を乗せてしまうと、料金を払ってくれませんから。しかも、そういう奴らに限って、大抵は遠距離なんですよ。


 そうですねぇ、いくつか話はありますが、最近の話をしましょうか。

 その夜は、街灯の下で手を挙げていた女性を乗せたんですよ。行き先を尋ねたら「◯◯墓地まで」なんて言う。

 もうね、ベタベタの展開じゃないですか。深夜で、タクシーで、墓地まで。

 墓地に着いたら女性の姿はなく、シートは水で濡れていた……。怪談でよく聞く話でしょう? とはいえ、実際にその状況になってみると、やっぱり怖いもんですよ。


 でも、このお客さんが本当にお化けかどうかなんて、分からないじゃないですか。

 深夜に墓地に用事がある人はあんまりいないけど、たまたまその人の家の近くにその墓地があって、指定しやすい場所として墓地の名前を挙げている。まぁ、そんなこともありますからね。

 私はおとなしく車を走らせましたよ。


 当然、会話なんてありません。別にタクシー運転手と乗客がおしゃべりしなくちゃいけない、なんてルールはありませんからね。

 しかも相手は女性ですから、下手な話をしようもんならクレームになりかねません。最近はなんでもハラスメントになるんですから。

 だから、会話は一切無し。

 ルームミラーを確認したときに、顔を伏せて座っている女性の姿が映るばかりですよ。それがまた気味悪くてね。せめてまっすぐ前を見ててくれればいいんですが、うつむかれてると表情が見えないから余計に怖い。


 そうやってしばらく走りましてね、私はまた、ちらりとルームミラーを見た。

 その瞬間、心臓が飛び出るかと思いましたよ。

 後部座席にいたのが、女性じゃなくなってたんです。

 ぐんにゃりした、肉の塊。

 それに目玉がいっぱいついてるんです。

 お客さん、百々目鬼(とどめき)って知ってます? 私が小さい頃に持ってた妖怪図鑑に載ってたんですけどね。体に目がいっぱいついている、鬼の妖怪。

 形こそぶよぶよした肉の塊でしたけど、私は百々目鬼を思い出しましたよ。


 大人の目、子どもの目、充血した目、ただれた目……。

 いろんな目玉がくっついていて、それがじっと、ミラー越しに私を見てるんです。

 叫びさえしませんでしたけどね。よくまぁ、事故を起こさなかったもんだと思いますよ。

 血圧、ヤバいことになってたと思います。笑い事じゃないですよ。

 前方確認のためにミラーから目を離して、恐る恐るまたルームミラーを見てみる。

 そうしたらね、百々目鬼はいなくなっていて、元の女性が座っているんです。ちゃぁんとシートベルトをつけて、やっぱり俯いたまま。

 幻覚でも見てたのかなと思いましたけど、冷や汗が止まりませんでしたよ。


 なんとか無事に墓地に着きましてね。女性はお金を払ってくれましたし、お礼も言ってくれました。マナーのいいお客さんでしたね。

 私は呆然としながら、女性の姿を見送りました。これで墓地に入って行ったら、すぐに逃げ帰ろうと思っていたんです。

 でも女性は、墓地のとなりの古いアパートに入って行きましたよ。

 そこでやっと、普通の女性だったんだなぁって安心しました。


 私の話、楽しんでいただけました? ネットに書いたりしてもらってもいいんですけど、個人情報だけは気を付けてくださいね。会社にバレたら、私が怒られますから。

 お客さん、本当に怖い話がお好きなんですねぇ。

 それなら、最後に言わせてもらうんですけどね。

 たしかにその日、女性はタクシーから降ろしたんですけどね。

 目玉の化け物は、どうもまだ降りてないみたいなんですよ。


 えぇ、今、ルームミラーを見ましたら、あなたのとなりに座ってますよ。



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