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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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もうひとり、どうぞ


 うちのアパートのすぐ近くに、公園があるんです。

 休日には子どもたちの遊ぶ声がよく聞こえます。有給を取った日は、午後3時を過ぎたあたりから夕方頃まで、子どもたちの遊ぶ声が届きます。

 病気で寝込んでるときなんかはうるさいなぁと思うこともあったのですが、普段はそこまで気になりません。


 この間インフルエンザにかかって仕事を休んだんです。

 高熱にうなされながら、外から聞こえる子どもたちの声を、聞くともなしに聞いていました。空が茜色から夜に移り変わるような時刻でした。冬の時期ですから、それでも夕方5時くらいだったと思います。


「ひとり、どうぞ」

「もうひとり、おいで」


 歌うような節のついた無邪気な声が聞こえました。

 きゃぁきゃぁとはしゃぐ声に混ざって、その声は異様なくらい澄んでいて、耳に響きます。

 もうひとり、もうひとり、とその声は呼びます。

 どんな遊びでしょう。

 私はぼんやりと、夕暮れの公園で手を繋いだ子ども達が「もうひとり」の声にあわせて更に手を繋いで増えていく……。そんな想像をしました。


 けれども、ふと気が付いたんです。

 想像の中で、手を繋ぐ子どもたちの数は増えていくのに、現実の子ども達の声は減っていく。

 それは、そうです。

 もう日が暮れますから、子どもたちはそれぞれの家に帰っていきます。当然、公園で遊ぶ声も、時間の経過とともに減っていく。

 やがてすっかり、子どもたちの声は聞こえなくなりました。


 子どもたちの声が聞こえなくなり、夜の訪れを感じました。

 夜の薬を飲むために、何か食べなくては。そう思って、ベッドから起き上がろうとしたその時でした。


「もうひとり、どうぞ」


 妙にクリアに、子どもの声が聞こえました。

 子ども特有の、男の子なのか女の子なのか分からない、あどけない声。くすくすと笑っているような、澄んだ声。

 体調不良とは異なる悪寒が、背筋を走りました。

 声はそれ以降、聞こえることはありませんでした。

 きっと、最後まで遊んでいた子が家に帰ったのでしょう。私も軽く食事を済ませて、薬を飲んで早く寝ることにしました。


 結局、翌日もまだ微熱が残っていて、体もダルかったので仕事を休みました。

 そしてやはり、3時を過ぎると公園から聞こえる声が騒がしくなってきます。昨日の声を思い出して、私はなるべく子ども達の声が聞こえないように布団をかぶっていました。

 そうしていつの間にか眠ってしまったようです。目を覚ました頃、空は夕焼けに染まっていました。

 携帯を見ると、夕方の5時でした。


「もうひとり、おいで」


 前日と同じ声が聞こえました。途端に悪寒が走って、どうせならもっと寝ていればよかったと後悔しました。

 その日も、澄んだ子どもの声が、もうひとり、もうひとりと誰かを呼びます。そのたびに、子どもたちの声が徐々に減っていきました。

 私の想像は前日とは打って変わって、声に呼ばれた子ども達がひとり、またひとりと夕焼けに溶けて消えてしまう、そんなものになっていました。


 子どもの声が全て消えて、「もうひとり、どうぞ」と声が聞こえます。

 この声だけは、不思議と、近くから聞こえるような気がしました。

 私は窓に引かれたカーテンの隙間から外の様子を見てみようと思い、窓辺に近付きました。

 その時、ふっと思い出したのです。

 私はこのアパートに5年ほど住んでいるのですが、ここに引っ越してきた直後に、この近辺で子どもが複数人、行方不明になった事件があったんです。

 日々の忙しさに追われていた頃でしたから、あまり詳細は覚えていません。


 その事件を思い出した瞬間、窓1枚を隔てた距離で「ねぇねぇ、聞こえてるんでしょ?」と聞こえてきました。

 私は驚いて窓から離れたのですが、ここは2階。ベランダのない窓です。窓1枚を隔てて声がするなんてありえません。

 思い切ってカーテンを開けると、わずかに残った夕日に公園が照らされていました。

 濃い影の落ちる公園のブランコの近くに、子どものような影をひとつ見つけましたが、まばたきをした一瞬の間に、その影も消えていました。


 次の日にはすっかり熱も引き、私は仕事に行きました。

 それ以降はまだ、平日の5時頃に家にいるということがないので、あの声は聞いていません。

 休日もなるべくその時間は買い物に出るようにして、家にいないようにしています。


 ちなみに、子ども達が行方不明になった事件。

 ネットで調べてみたのですが、行方不明になった子どもたちはその翌日には全員見つかったそうです。

 子どもたちは公園で見つかっていて、口々に「公園で遊んでいて、気付いたら次の日になっていた」と言ったそうです。

 ネットでは神隠し事件として、面白おかしく書かれていました。


 なんとなく、あの「もうひとり、どうぞ」という声が関係しているような気がして、怖いです。

 あの声に呼ばれると、ひとり、またひとりと子どもが消えてしまう。

 いや、もしかしたら、大人だって消えてしまうのかもしれません。私が呼ばれたように……。



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