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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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ゆかちゃんの家


 最近、とあるきっかけがあって、子どもの頃に遊んでた不思議な女の子のことを思い出したんだ。

 ゆかちゃんって名前の子で、ふわふわした癖っ毛をポニーテールにしている可愛い子だった。会うたびに、上品なワンピースを着ていて、クラスの女の子たちよりずっと垢抜けて見えたなぁ。

 ゆかちゃんとは学区が違うからか、学校で会うことはなかった。でも、俺がよく遊びに行く公園に、ゆかちゃんも遊びに来てたんだ。


 だから、誰とも遊ぶ約束をしなかった日には、俺は公園に行った。ひとりで遊んでいると、ゆかちゃんがやってきて俺に声をかける。

「ねぇねぇ、うちに遊びに来ない?」

 ゆかちゃんはそう言って、俺を誘うんだ。俺はゆかちゃんの家に遊びに行くのがすごく楽しみだったんだ。

 ゆかちゃんの家には、お菓子もおもちゃもたくさんあった。両親は共働きみたいで、ゆかちゃんの家で顔を合わせたことは1回もない。

 ゆかちゃんの家は2階建てのきれいで大きな家で、子ども心に「ゆかちゃんってお金持ちなんだなぁ」って思ったよ。


 ゆかちゃんの家には何度も何度も遊びに行ったんだけど、ひとりで行くとどうしても道に迷ってしまうんだ。

 ゆかちゃんと一緒に行くときに道を覚えようとしても、ゆかちゃんとのおしゃべりに夢中になっていると忘れちゃう。帰るときも、いつもゆかちゃんに公園まで送ってもらってた。

 ゆかちゃんと初めて出会ったのは小学校低学年の頃だったと思う。

 そしてゆかちゃんとの不思議な関係は、中学生になっても続いたんだ。


 中学生になったら学校が一緒になるかなと思ってたんだけど、ゆかちゃんは私立の中学に通ってるみたいだった。

 一度、見慣れない制服を着て公園に現れたことがある。その制服姿が可愛くて、思春期だったのもあって、すごくドキドキしたよ。

 相変わらず、ゆかちゃんは俺を自宅に招いてくれた。両親のいない自宅。子どもの頃みたいにお菓子もいっぱいある。ゲーム機もゲームソフトも最新のものが揃っている。

 どれだけ食べても、どれだけ遊んでも、俺達を叱る親はいない。

 でも、中学生になっても、俺はゆかちゃんの家がどこにあるのか、覚えることはできなかった。


「何回行っても、ゆかちゃん家の場所が覚えられないんだよね」って俺が言うと、ゆかちゃんは笑いながら「いいよ。私が迎えに行くし、送ってあげるから」って言ってた。

 俺も、少しでも長くゆかちゃんと一緒にいたかった。だから送り迎えの間も、ゆかちゃんと一緒に過ごせるのが嬉しかった。ゆかちゃんに恋をしてたんだと思う。


 高校生になっても、俺とゆかちゃんの関係は続いた。

 さすがにもう公園には行かなくなってたけど、学校帰りに道端でゆかちゃんと会うことがあった。

 決まってゆかちゃんの家に連れられていって、試験勉強を一緒にしたりした。ゆかちゃんは勉強ができて、俺はゆかちゃんに勉強を教えてもらってた。

 勉強を教えてもらうときは、ゆかちゃんとの距離が近付くから、なんかクラクラしたよ。


 で、俺は高2の冬にゆかちゃんに告白したんだよ。

 そうしたら、いつものゆかちゃんとはちょっと違った顔つきになってさ。

 いつもニコニコしているのに、ゆかちゃんは無表情のような、真剣な顔つきになったんだ。


「私とずっと一緒にいたいなら、家族との縁を切ってきて。この家で、ずっと一緒に暮らして」


 ゆかちゃんは、そう言った。

 ニコリともしない表情と、あまりに真剣なその言葉に、俺は急に怖くなった。「それは、できない」って答えたら、ゆかちゃんは顔を伏せて「そう」と言ったきり、しばらく黙り込んだ。

 ゆかちゃんが、すっとドアを指さして「なら、もう帰って。大丈夫。君は公園までの道を覚えているから」って言った。

 俺はその場の空気に耐えられなくて、すぐにゆかちゃんの家を出たよ。なんとなく見覚えのある道を進んで行ったら、無事に公園までたどり着いた。

 その後はゆかちゃんに会っていないし、やっぱりゆかちゃんの家までの道順は覚えていなかった。


 で、この話を思い出したきっかけっていうのが、小1の息子の言葉だったんだよ。

 仕事から帰ってきて、息子と話してたらさ「今日、ゆかちゃんの家に遊びに行ったんだよ。ゆかちゃんの家、お菓子もおもちゃもいっぱいあるの。ゆかちゃんの家、いいなぁ」って言ったんだよね。

 息子が言うには、そのゆかちゃんは息子と同じくらいの年齢らしいから、もちろん俺が遊んだゆかちゃんとは別人だけどさ。

 なんだかあの日のゆかちゃんの無表情を思い出して、ちょっと怖くなったよ。



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