最期の言葉
うちのじいちゃん、俺が11歳のときに亡くなったんだけどさ。
施設に入ってて、もういよいよヤバいからっていうんで、施設の人から「なるべく会いにきてあげてください」って言われてた。
だから週末になると、母ちゃんは俺を施設に連れて行った。
じいちゃんは痴呆もあって、俺達が会いに行っても分かってるのか分かってないのか、微妙な感じだった。
話しかけると「あぁ」とか「うぅ」って答えるばっかりで、目も虚ろだった。
俺も話しかけたり手を握ったりしたけどさ。何をしてあげればいいのか分からなくて、うろたえるばかりだった。
正直、じいちゃんに会いに行くのは嫌だったよ。
で、うちではインコを飼っててさ。インコはそのとき、9歳くらいだったかな?
じいちゃんが気に入ってて、施設に入るまではすごく可愛がってたんだ。俺が小学校低学年の頃まではじいちゃんも家にいたから、よく指先にインコを乗せて見せてくれたんだ。
じいちゃんが施設に入ってからは、カゴから出されることも減った。でも、カゴの中で元気にしてたし、時々しゃべったりもしてた。
そんなある日、家でゲームやってたら、インコが突然「イヤダイヤダ、マダココニイタイヨォォォ」って言ったんだ。
インコ特有の、あのロボットみたいな外れた音調だから分かりづらかったけど、たしかにそう言った。
そりゃあ「コンニチハ」とか「チィチャン、カワイイ、カワイイ」とかは言うことはあったよ。
でも「イヤダイヤダ、マダココニイタイヨォォォ」なんて言葉、教えた記憶もないし、言ったのも初めてだ。
かなり不気味だったから、鮮明に覚えてる。
俺は母ちゃんにこのことを報告しようと思ったんだけど、ちょうど家に電話がかかってきて母ちゃんは電話に出ちゃった。
母ちゃんが電話している間も、インコはもにょもにょ話すんだ。
「アンナ、サムイトコ、イヤダァ。アナ、オチタラモドレナイ。ダレカァ、ダレカァァ」
時々、不鮮明になりながらも、インコはこんなことを言ってた。
俺はいよいよ気持ち悪くなって、母ちゃんの方を振り返った。
母ちゃんはちょうど電話を終えたところだったんだけど、その表情が泣き出しそうでさ。
その瞬間、インコが「アァァ、クライ、クライナァ」って言って、黙った。
俺は母ちゃんに駆け寄って、このことを伝えようとしたんだ。
そしたら母ちゃんは俺の手を握って「おじいちゃん、死んじゃったんだって。すぐに出かけるから、準備しようね」って言ったんだ。
俺はインコのことを告げる間もなく、着替えて、じいちゃんの施設に向かった。
その後のことは小さかったから記憶も曖昧だし、家の中が慌ただしかったことばっかり覚えてる。
ただ、じいちゃんが亡くなって、家に一旦戻ったときに、インコも死んでたんだよね。
9歳だったし、寿命って言えば寿命だったのかもしれない。
でもなんとなくさ、あの、インコの最期の言葉。
あれ、インコの口を借りて、あの世に行ったばかりのじいちゃんがしゃべってたんじゃないかなって思うんだ。
あの世の入口で、心細さから、じいちゃんがあんなことを言った。そんな気がするんだ。
それでさ、じいちゃんはひとりで逝くのが怖くて、インコを一緒に連れて行ったんじゃないかな。
いや、もしかしたらインコの方が、じいちゃんを哀れに思ってついて行ったのかもしれない。
本当のことはよく分からないけどさ。
あのときのインコの声は、ずっと忘れられないよ。そしてあの言葉が、あの世に触れたじいちゃんの言葉だったんじゃないかって考えも拭えない。
このことを思い出すたびに、俺は死ぬことが余計に怖くなるよ。
怖い話なんかでも、死者が生きてる人を道連れにする、みたいな話があるじゃん?
誰かを道連れにしなければ耐えられないくらい、あの世に行くってのは怖いのかなって思う。
人間は誰しも最終的には死んでしまうのに、人生の最期の最期に、そんな恐怖があるのかも……って考えると、本当に死ぬのが怖いよ。




