指切り女
私が小学生の頃に、”指切り女”ってのが流行ったことがあったの。
いわゆる都市伝説ってやつ。
指切り女はね、夕暮れ時に現れるの。家に向かって歩いていると、電柱の影からすっと出てくる。それで「指切り女って、知ってる?」って言うの。
見た目は普通の女の人だよ。別に赤いトレンチコートを着ているとか、口が耳まで裂けてるなんてことはない。
でも絶対に、「指切り女って、知ってる?」って声をかけてくる。だからすぐに「あぁ、こいつは指切り女だ」って分かるんだよ。
それでね、「嘘をついちゃ、駄目よ」って言いながら、小指を差し出してくる。指切りげんまんするみたいに。
指切りを拒否したくても、体が勝手に動いちゃうんだって。指切り女に声をかけられたが最後、どうしても指切りしちゃうんだって。
それだけなら、別にどうってこともない話だよね。
ただ、指切り女と指切りをすると、どうしても嘘をついちゃうんだって。
別にお腹が痛いわけじゃないのに「お腹が痛いから保健室に行きたいです」とか、犬なんて飼ってないのに「今日、ペットの犬が誕生日なんだ」とか。
そんな、ものすごくどうでもいい嘘。
嘘をつくと、その夜に指切り女が家にやってくるの。
そして、「約束をしたのに、嘘をついたね」って言って、小指を切り取っちゃう。
これが、指切り女の都市伝説。
みんな怖がってさ、なるべく日が暮れる前に家に帰ったり、集団で帰ったりしてた。本当に怖がりな子だと、親に迎えに来てもらっている子もいたなぁ。
学校の先生も、指切り女の噂は知ってたけど、子どもの噂話だからって真剣にはとらえてなかったみたい。
そりゃそうだよね。私だって、大人になってみれば、子どもの頃ってすごく突拍子もないことでも信じてたなって思うもん。
でもね、私のクラスに実際に指切り女に会ったって男の子がいたの。
その子を仮に山田くんにするね。山田くんは「昨日の夜、塾帰りに指切り女に会ったんだ」って言って、すごく怯えてた。嘘をついちゃうかもしれないから、話しかけないでって言って。
授業で指されても、間違った回答をしたら嘘をついちゃうことになるからって、首を横に振るだけ。先生も呆れてた。
数日後、山田くんは3週間くらい学校に来なかった。やっと通学してきたと思ったときには、山田くんの左手には包帯が巻かれていた。
山田くんは何も語らなかったけど、みんな指切り女に小指を切られたんだって思ってた。
山田くんが登校してきた日の昼休みには、もう学校中の噂になってた。別の学年からも、わざわざ見に来る子もいて、もう集団ヒステリーみたいな状態になってた。
放課後が近づくと、ひとりで帰りたくないって泣き出す女の子もいて、教室はパニック状態だったよ。
そんな私達を落ち着かせようと、担任の先生が「山田は指切り女に指を切られたわけじゃない。引き戸に巻き込まれた事故だったんだ。だから、指切り女なんていない。変な女性がいるだけだし、警察も動いている。心配しすぎなくても大丈夫」って諭してくれた。
それでも不安な子は、先生が家まで送り届けたりした。
そうして、徐々にパニックは収まっていったんだけど……。
数日経って、今度は先生が学校に来なくなっちゃったの。
特に理由も告げられずに、副担任の先生が私達の授業を受け持つようになった。副担任の先生に、先生がなんで休んでいるのかを聞いても「体調が悪くてね」ってはぐらかされるだけだった。
先生は1ヶ月くらい休んで、また学校に来るようになったんだけど、私達のクラスはそのまま副担任の先生が担当するようになった。
職員室で先生を見たって子がいたんだけど、その子の話では、先生の左手には包帯が巻いてあったんだって。
それで、その子が手をケガしたのかって聞いたら、先生は口を閉ざして、首を横に振っただけだったんだって。
結局、私はその先生に再会することはないまま小学校を卒業したし、指切り女の話もいつの間にか聞かなくなったんだけどさ。
実際のところはどうか分からないけど、先生も指切り女に会って、それで小指を切られちゃったのかなって思うんだよねぇ……。




