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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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A23シート


 旅行をするのが趣味だったんです。

 新幹線よりも飛行機の方が好きで、よく飛行機を利用していました。

 その日の僕の席はA23でした。窓側の席です。乗り物はなんとなく、窓側を選んじゃいますよね。

 僕のとなりには、サラリーマン風の男性が座っていました。行き先は九州とだけ言っておきます。

 機内では映画を見て過ごすことが多いです。その日も僕は、いつものように備え付けのイヤホンをつけて、モニターを操作していました。


 そうして飛行機が離陸して、しばらく経った頃でしょうか。

 イヤホンにノイズが入りました。モニターの画面もチラつき始めて「故障かな?」と思っていました。

 すると、ノイズ混じりに、機内アナウンスが聞こえて来ました。

 不鮮明でちゃんと聞き取れない音声でしたが、僕には「この機体は、死者を運んでいます」って聞こえたんです。

 え、と思って、となりに座っているサラリーマンを見ました。サラリーマンは眠っているようでした。

 サラリーマン越しに通路を挟んだ先の席も見ました。そこには家族連れが座っていましたが、僕の視界に入る範囲の人は眠っていました。

 少し腰を浮かせて、後ろの席の人を確認します。女性がふたり座っていましたが、彼女たちも眠っていました。


 僕が確認できる範囲では、誰もが眠っていました。だから、あの不鮮明なアナウンスを聞いていた人は周りにはいませんでした。

 僕は眠っている乗客たちが、さっきのアナウンスが言ったように「死者を運んでいる」ように思えてゾッとしました。

 浮かせていた腰を戻して、僕は落ち着こうと座り直しました。

 目を閉じて、深呼吸をして、目を開ける。

 すると、目の前のモニターには男性の顔が映し出されていました。


 白目まで真っ黒な、ニタニタと笑う男性の顔。

 僕が覚えているのはここまでです。恥ずかしい話、僕は気絶してしまったんだと思います。

 CAさんに揺さぶられて、僕は目を覚ましました。飛行機はまもなく目的地に到着するとのことで、シートベルトを締めるように言われました。

 機内はざわめいていて、となりのサラリーマンもすでに起きていました。

 モニターは消えてしまったのか真っ黒になっていて、僕は夢を見ていたのかと思いました。

 ただ、飛行機を降りるために立ち上がったとき、僕の座席に1枚のカードがありました。それにはパソコンで打たれた文字で「ようこそ」と書かれていました。それ以外には何も書かれていません。

 なんだか異質な世界に来たような感覚がしたんですが、どこかのお店でもらったカードが紛れ込んでいたのかもしれない。そう思って、僕はそのカードを捨てました。


 飛行機内でのことは、旅行中はなるべく思い出さないようにしていました。

 でも、帰りの飛行機に乗るときに、僕は行きでの飛行機のことを否が応でも思い出しました。

 帰りの飛行機のシートも、A23だったんです。僕はなんとなく気持ち悪くて、その席に座りたいと思えませんでした。

 ですから、体調不良を理由にしてとなりの中年男性に席を替わってもらいました。

 飛行機が離陸してしばらく経った頃、僕と同じように映画を鑑賞していた男性は首を傾げるような動作をしました。僕の方をチラッと見たので、僕は軽く会釈をしましたが、男性はそれには応えませんでした。

 しばらく周囲を探っているような様子でした。でもモニターに目を移すと、そこからは食い入るように画面を見つめて微動だにしなくなってしまいました。

 僕はそんな男性の様子にも恐怖を感じて、モニターを切って、眠ることにしました。全然眠れなかったですが、着陸の間際まで狸寝入りをしていました。


 何事もなく飛行機は着陸しました。

 様子がおかしかった男性も、緩慢な動きで飛行機を降りる準備をしていました。

 座席から立ち上がって降りようとしたら、男性から「忘れ物じゃないかな?」って声をかけられました。僕が後ろを振り返ると、男性は白いカードを持っていました。

 僕は嫌な予感がして、そのカードを受け取りたくなかったんですが、男性が「あなたの座席にありましたよ」とカードを差し出してくる。

 受け取って確認したら、カードには「次がある」と書かれていました。


 なんてこともないメッセージです。「ようこそ」と同じように、ありふれたメッセージです。

 でも僕には、それが「今回は上手く逃れたようだけど、次がある」というメッセージに思えました。

 それからまだ、僕は一回も飛行機に乗っていません。そろそろ次の旅行がしたいなぁと思うのですが、何に乗っていけばいいんでしょうか。



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