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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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ゼッケンのない子


 今年の、子どもの運動会でのことです。

 うちの子が通う小学校では、秋に運動会をやります。秋といっても暑いですし、感染症予防もあって、運動会は午前中で終わります。

 学年ごとに入れ替えで競技をするので展開も早いですし、場所取りも必要ありません。

 私が子どもだったときとはだいぶ様変わりをしていますが、運動会に1日取られるよりかはいいのかな、なんて思っていました。


 仕事で運動会に来られない夫のためにも、私はスマホで運動会の様子を撮影しました。

 入場する我が子の様子を撮ろうと、スマホを入場口に向けました。

 子どもたちが走って入場してきます。

 そのときに、ひとりだけゼッケンのついてない子がいたんです。

 うちの子も含め、子どもたちの体操服には全員ゼッケンがついています。クラスと苗字が書かれたゼッケン。

 でも、その子の体操服にはゼッケンがないんです。


 それだけなら、例えば体操服がお下がりでゼッケンをつけるのが間に合わなかったとか、理由は考えられます。

 しかしその子はやけに白い顔をしていて、どんよりとした目はどこを見ているのか分かりませんでした。

 ほかの子どもはみんな楽しそうにしてたり、緊張した顔をしているのに、その子の顔からは何の感情も読み取れませんでした。


 入場が完了すると、競技へと移っていきます。うちの子の出番はまだだったので、私はママ友とおしゃべりしながら運動会の様子を見ていました。

「あっ、リレー、ゆう君の番!」

 ゆう君ママがはしゃいだ声を出したので、私は校庭に目を凝らしました。

 スタートラインには、ゆう君を含めて6人の子どもが並んでいました。

 その中に、さっきのゼッケンのついていない子どもがいたんです。


 スタートの合図が鳴ったのに、その子は走らずにスタートラインに立ち尽くしたままでした。こういう場合、先生が子どもに声を掛けに行きそうなものですが、先生は誰も動きません。

 私のとなりではゆう君ママが必死にゆう君を応援していましたが、私はゼッケンのない子が気になって仕方ありませんでした。

 リレーではゆう君が1位になって、ゆう君ママが大喜び。ほんのわずかの間、私の視線はゼッケンのない子から外れたのですが、次にスタートラインを見たときには、ゼッケンのない子はいなくなっていました。


 その後も競技が進んでいき、チラチラとゼッケンのない子が視界に入ります。

 ゼッケンのない子はただいるだけで、競技に参加することはありませんでした。虚ろな目をして、ただ立ち尽くしているだけなのです。

 そして目を離したわずかな隙に、どこかへ行ってしまう。

 私は逆に、現れては消えるゼッケンのない子が気になって仕方ありませんでした。


「ねぇ、変な子、いない?」と私は周りにいたママ友に聞いてみました。

「え? どの子?」と聞かれたので、私はゼッケンのない子だと答えました。ママ友たちは「そんな子、いた?」「気が付かなかったかも」と話しています。

 すると、ミキちゃんママが「私、その子知ってるかも」と言い出しました。

 ミキちゃんママはスマホを操作して、私に動画を見せてきました。

「うち、年子でさ。去年に上のお姉ちゃんが2年生だったのね。お姉ちゃんの運動会で撮った動画なんだけど、ほら、この子」

 そう言って、ミキちゃんママが指さした先には、確かに私が見たゼッケンのない子が映っていました。


 私が見た通りの外見のまま、去年の運動会の映像に映るゼッケンのない子。別のママが「あ、それ、私も聞いたことあるかも」と言い出しました。

 なんでも、2年生の競技にだけ紛れ込むゼッケンのない子がいるそうです。その子は毎年、運動会に参加しているとのこと。もちろん、どこのクラスにも、そんな子は所属していません。

 見える人と見えない人がいるらしく、私はたまたま見える方だったみたいです。

 ミキちゃんママは動画にも映りましたが、私の動画には映っていませんでした。確かに、入場のときにカメラにおさめたはずなのに……。

 その場にいるみんなで、ぞぉ〜っとしましたよ。



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