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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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いただきます


 大学生の頃にさ、県境にある心霊スポットに行ったんだよ。

 となりの県との間には山があってさ、その山に廃村があるんだ。

 その廃村が、心霊スポットってわけ。

 地図アプリで写真にして見ると、まだ民家が残ってるのが分かるんだ。でも、地図とかには載ってない。

 けっこう有名な心霊スポットだったから、配信者が肝試しに行ったりしてたんだよ。動画ではそれっぽく演出してたけど、おばけが映ってるなんてことはなかった。

 だから、雰囲気を味わうだけの肝試しだと思って、軽い気持ちで友達と行ったんだ。


 肝試しに行ったのは、俺と、A、Bの3人。俺が免許をとったら、親が中古車を買ってくれたから、3人でドライブすることが多かったんだ。

 アプリで道を確認しながら車で進んでいって、途中からは歩きになった。車に積んでった懐中電灯をそれぞれ手に持って獣道を進んで行くと、急に開けた場所に出た。

 そんで、そこには取り残されたままになってる古い家があったんだ。

 だいぶ草が茂ってたんだけど、まだちゃんと立ってた。

 やっぱり肝試しに来る人が多いからか、お菓子の袋とかが捨ててあったよ。


 で、俺達は適当な家に入ってみることにしたんだ。

 ツタに半分覆われた家だった。外壁もところどころ剥がれてるんだけど、柱なんかはしっかりしてた。

 でも玄関を上がった先の廊下は、もうベコベコ。すっごい軋むの。いつ床が抜けてもおかしくないなってくらい腐ってて、なかなかスリリングだったな。


 廊下を慎重に進んでいくと、畳の和室。

 そこで俺達は、不思議な光景を見た。

 和室の中央には、ちゃぶ台が置かれていた。

 そしてちゃぶ台の上には、食事が用意されていたんだ。


「わっ、美味そう!」


 Aが信じられない言葉を口にした。

 いや、確かに美味そうなんだ。懐中電灯の光の中でも分かるくらい、料理からは湯気が立ち上っている。それに美味そうな匂いもしてくる。

 でも畳はぶよぶよだし、天井も一部剥がれ落ちたあとがある。完全に廃屋だよ。

 そこに用意されている飯を見て、気持ち悪いという感想ならまだしも、そんな嬉しそうに「美味しそう!」なんて言うか?


 俺とBが止める間もなく、Aはちゃぶ台の前に座ると「いただきます」と手を合わせてから、飯をばくばく食い始めた。

 俺もBもドン引きだよ。

 Aは茶碗の飯をかっこんで、それを味噌汁で流し込み、今度は魚に箸を伸ばす。普段のAはもうちょっとゆっくり食事をする奴だったから、俺もBも唖然としてた。

 Aはふぐふぐ言いながら、口に飯を詰め込んでる。

 明らかに異常な光景だった。


 そのとき、和室の入口に立っていた俺達の背後、廊下の方からギシギシと音が鳴った。

 俺とBは反射的に和室の入口から離れた。入口の反対側には破れた障子があって、その先はたぶん縁側に続いている。家に入る前に周囲を調べて確認したから、それは間違いない。

 だから俺とBは障子の方に回ったんだ。

 廊下側からの足音に警戒しつつ、俺とBはいつでも障子を蹴破れるように準備してた。

 Aはひたすら飯を食ってた。


 廊下の足音がピタリと止まった。

 そして廊下の奥から、男とも女とも分からないしわがれた声で「美味しいかい?」って聞こえてきた。

 Aは「はい、美味いっす!」って答えてる。お前、何答えてんだよってツッコミながら、俺とBは必死にAの腕を引っ張った。


「馬鹿、お前、何言ってんだよ!」「早く逃げるぞ!」

「なんで逃げるんだよ」

「声だよ、聞こえただろ!」「ヤバいやつだって」

「ご飯出してもらったんだから、家の人に挨拶しなくちゃ駄目だろ」

「マジで何言ってんだ、お前は!!」

 俺とBがきれいにハモった。


 また、廊下で足音がした。足音は確実にこの部屋に近付いて来ている。もう、暗闇の中から、足音の正体が姿を現しそうだ……。

 そこで俺とBは我慢できなくなって、障子を蹴破って外に出た。

 そのまま車まで走って、急いでエンジンをかけたよ。


「Aはどうするんだ?!」

「あれはもう駄目だ!」


 俺達はそんな会話をして、峠を下りた先にあるコンビニまで向かったんだ。

 コンビニでコーヒーを買って、俺とBは「ヤベェ、ヤベェ」って叫びながら気持ちを落ち着けた。30分もしたら恐怖も興奮も収まってきて、廃村にAをひとりで置いてきてしまったことのマズさに気付いた。

 だって俺達、県境まで車で行ったんだ。歩いて帰ることがまったく無理ってわけじゃないけど、限りなく無理に近い。


 結局、少し明るくなってから、俺とBは廃村に戻ったよ。

 もう一度あの家に入るのはすごく嫌だったから、縁側の方に回ってみた。障子は俺達が蹴破ったままで、縁側から和室が見えたんだけど、Aの姿はなかった。

 その頃には日も昇ってきて明るくなってたから、俺とBは縁側から和室に入った。

 和室の真ん中にちゃぶ台はあったんだけど、ちゃぶ台の上には厚く埃が積もっていた。この上に食事が並んでいたなんて考えられないくらい、触られたあとがない。


 Aは歩いて峠を下ったのかも知れない。そう思ったけど、峠の道は一本道だ。

 明るくなった廃村を見て回ったけど、Aの姿はなくて、仕方ないから俺とBは一旦帰ることにした。途中、Aの携帯に連絡してみたけど、圏外か電源が入ってないってアナウンスが流れるだけだった。


 その後、Aは大学には来なかった。4年経った今も行方不明。

 こんな経験をしたけど、俺、今でも心霊スポットとか好きでさ。さすがに行きはしないけど、配信動画とかは見るんだよ。

 それで、この間、この廃村に肝試しに行ってみたって動画を見つけてさ。誰も気が付いてないみたいだけど、その動画に声が入ってたんだよ。

「いただきます」って。

 その声が、Aに似てたような、そんな気がするんだ。



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