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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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代償


 実は俺、結婚するんだ。

 彼女――ユリとの出会いは、運命だって思ってるよ。

 いいじゃんか、惚気話に付き合えよ。

 ユリとの出会いは大学の頃だよ。ほら、俺、車椅子だろ? あぁ、まずはその話からしようか。


 俺は、小学生のときに突然下半身不随になったんだ。病気でも事故でもない。原因は不明。医者も首を傾げるばっかりで「神経の問題」と言っていたよ。

 当然、俺も親も納得できなかった。納得できなかったけど、受け入れるしかない。どんなに原因を探ったって、俺の足は動かないんだ。

 俺の人生は、俺の足が動かなくなったって止まってくれない。

 歯を食いしばって勉強して、ハンデを背負って生きて、それで合格した第一志望の大学。

 そこで出会ったのが、ユリだった。


 ユリは大学で学生ボランティアをしていた。それで、俺のサポートをすることになったんだ。

 お互いに自己紹介をしたとき、ユリはちょっと驚いたような顔をしてた。このときの驚きの理由を知ったのは、最近なんだけどさ。

 俺としても、内心はちょっと焦ったよ。だって、同じくらいの年齢の女子にサポートしてもらうんだぜ? それにユリは可愛かったからなぁ。でも内心、こんな可愛い女の子にサポートしてもらえるのかって、結構嬉しかった。


 で、最初は授業のサポートをしてもらってたんだけどさ、ユリは徐々に授業以外でも俺のサポートをしてくれるようになった。

 徐々に打ち解けていろいろ話すようになったよ。ユリは自分の授業がないときは、しょっちゅう俺と一緒にいた。

 そうなってくると、俺も彼女のことを意識し始めてさ。

 でも、俺はこんな足だろ?

 もしユリと付き合う、なんてことがあるとして、ユリを幸せにできるのか、悩んだよ。

 悩んだけど、俺はユリと付き合いたかった。ユリが他の男と付き合ってるなんて考えると、頭がおかしくなりそうなくらいには、彼女のことを好きになってたんだ。


 だから、より一層頑張ったよ。

 不自由な体でも、ユリと一緒に生きていける道はないか。必死に考えて、必死に努力した。その結果、学生のうちからエンジニアとして活動を始めてさ。苦労はあるだろうけど、フリーランスでもやって行けそうだって思ったんだ。

 それでやっと、ユリに告白した。ユリからの返事はもちろんOKだったよ。

 付き合い始めてから、ユリは今まで以上に俺に尽くしてくれるようになった。こんなにやさしい彼女と付き合えてる俺は、なんて幸せ者なんだろう。

 大学を卒業して、俺はフリーランスのエンジニア、彼女も事務員として就職した。

 それで、この間ついに、プロポーズしたんだ。ユリはこのプロポーズを絶対に断らないだろうって自信があった。


 そしたらユリはさ、泣きながら「ごめんなさい」って言ったんだ。

 俺は、プロポーズを断られたんだと思って、すっごいショックだった。

 でも、この「ごめんなさい」は意味が違ったんだ。

 ユリは、自分が小学生のときに友達と遊び半分でやったキューピッド様について話し始めた。


 キューピッド様って知ってる? こっくりさんの亜種みたいなやつ。恋愛関係の質問に答えてくれるんだって。小学生くらいの女の子が好きそうな遊びだよな。

 ユリはキューピッド様に自分の将来の結婚相手を聞いたんだ。

 そうしたらキューピッド様は「サキマシンジ」って答えた。そう、俺だよ。珍しい苗字だったから、ユリも覚えてたんだろうな。だから、俺と初めて会って自己紹介したときに驚いた顔をしてたんだよ。


 で、遊び終わってキューピッド様にお帰りいただくようお願いしたんだ。そうすると、キューピッド様はNOと答える。

 それで困り果てて「どうしたら帰ってくれますか?」と聞いてみた。

 するとキューピッド様はこう答えたんだそうだ。


「サキマシンジ ノ アシヲ モラウ」


 その話を聞いて、俺の頭の中で何かが弾けた。

 小学生のときに、突然動かなくなった俺の足。

 これは、代償だったんだ。

 ユリのための。


 ユリは泣きながら「だから、シンジくんの足が動かなくなったのは、私のせいなの。シンジくんが私と結婚してくれるから、シンジくんの足は動かなくなっちゃったんだよ」って言った。

 ユリの言ってることは、ちょっと不思議な理論だなって思ってたけど、そんなことはどうでも良かったよ。

 これを運命と呼ばずして、何を運命と呼ぶだろう。

 偶然なんかじゃない。俺はユリに選ばれていたんだ。そして俺はユリを選んでいた。お互いに、まだ出会ってすらいない小学生のときに。

 幸せすぎて、ゾクゾクしたよ。


 ユリを手に入れるためなら、足の一本や二本、安いもんだ。

 臓器でもなんでも差し出せる。

 俺への罪悪感で、ユリを俺に縛りつけていられるなら、俺はそのキューピッド様とやらになんだって差し出すことができる。

 本当に、俺は幸せ者だよ。

 なんだよ、変な顔して。お前も俺のことを幸せ者だって思うだろ?



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