代償
実は俺、結婚するんだ。
彼女――ユリとの出会いは、運命だって思ってるよ。
いいじゃんか、惚気話に付き合えよ。
ユリとの出会いは大学の頃だよ。ほら、俺、車椅子だろ? あぁ、まずはその話からしようか。
俺は、小学生のときに突然下半身不随になったんだ。病気でも事故でもない。原因は不明。医者も首を傾げるばっかりで「神経の問題」と言っていたよ。
当然、俺も親も納得できなかった。納得できなかったけど、受け入れるしかない。どんなに原因を探ったって、俺の足は動かないんだ。
俺の人生は、俺の足が動かなくなったって止まってくれない。
歯を食いしばって勉強して、ハンデを背負って生きて、それで合格した第一志望の大学。
そこで出会ったのが、ユリだった。
ユリは大学で学生ボランティアをしていた。それで、俺のサポートをすることになったんだ。
お互いに自己紹介をしたとき、ユリはちょっと驚いたような顔をしてた。このときの驚きの理由を知ったのは、最近なんだけどさ。
俺としても、内心はちょっと焦ったよ。だって、同じくらいの年齢の女子にサポートしてもらうんだぜ? それにユリは可愛かったからなぁ。でも内心、こんな可愛い女の子にサポートしてもらえるのかって、結構嬉しかった。
で、最初は授業のサポートをしてもらってたんだけどさ、ユリは徐々に授業以外でも俺のサポートをしてくれるようになった。
徐々に打ち解けていろいろ話すようになったよ。ユリは自分の授業がないときは、しょっちゅう俺と一緒にいた。
そうなってくると、俺も彼女のことを意識し始めてさ。
でも、俺はこんな足だろ?
もしユリと付き合う、なんてことがあるとして、ユリを幸せにできるのか、悩んだよ。
悩んだけど、俺はユリと付き合いたかった。ユリが他の男と付き合ってるなんて考えると、頭がおかしくなりそうなくらいには、彼女のことを好きになってたんだ。
だから、より一層頑張ったよ。
不自由な体でも、ユリと一緒に生きていける道はないか。必死に考えて、必死に努力した。その結果、学生のうちからエンジニアとして活動を始めてさ。苦労はあるだろうけど、フリーランスでもやって行けそうだって思ったんだ。
それでやっと、ユリに告白した。ユリからの返事はもちろんOKだったよ。
付き合い始めてから、ユリは今まで以上に俺に尽くしてくれるようになった。こんなにやさしい彼女と付き合えてる俺は、なんて幸せ者なんだろう。
大学を卒業して、俺はフリーランスのエンジニア、彼女も事務員として就職した。
それで、この間ついに、プロポーズしたんだ。ユリはこのプロポーズを絶対に断らないだろうって自信があった。
そしたらユリはさ、泣きながら「ごめんなさい」って言ったんだ。
俺は、プロポーズを断られたんだと思って、すっごいショックだった。
でも、この「ごめんなさい」は意味が違ったんだ。
ユリは、自分が小学生のときに友達と遊び半分でやったキューピッド様について話し始めた。
キューピッド様って知ってる? こっくりさんの亜種みたいなやつ。恋愛関係の質問に答えてくれるんだって。小学生くらいの女の子が好きそうな遊びだよな。
ユリはキューピッド様に自分の将来の結婚相手を聞いたんだ。
そうしたらキューピッド様は「サキマシンジ」って答えた。そう、俺だよ。珍しい苗字だったから、ユリも覚えてたんだろうな。だから、俺と初めて会って自己紹介したときに驚いた顔をしてたんだよ。
で、遊び終わってキューピッド様にお帰りいただくようお願いしたんだ。そうすると、キューピッド様はNOと答える。
それで困り果てて「どうしたら帰ってくれますか?」と聞いてみた。
するとキューピッド様はこう答えたんだそうだ。
「サキマシンジ ノ アシヲ モラウ」
その話を聞いて、俺の頭の中で何かが弾けた。
小学生のときに、突然動かなくなった俺の足。
これは、代償だったんだ。
ユリのための。
ユリは泣きながら「だから、シンジくんの足が動かなくなったのは、私のせいなの。シンジくんが私と結婚してくれるから、シンジくんの足は動かなくなっちゃったんだよ」って言った。
ユリの言ってることは、ちょっと不思議な理論だなって思ってたけど、そんなことはどうでも良かったよ。
これを運命と呼ばずして、何を運命と呼ぶだろう。
偶然なんかじゃない。俺はユリに選ばれていたんだ。そして俺はユリを選んでいた。お互いに、まだ出会ってすらいない小学生のときに。
幸せすぎて、ゾクゾクしたよ。
ユリを手に入れるためなら、足の一本や二本、安いもんだ。
臓器でもなんでも差し出せる。
俺への罪悪感で、ユリを俺に縛りつけていられるなら、俺はそのキューピッド様とやらになんだって差し出すことができる。
本当に、俺は幸せ者だよ。
なんだよ、変な顔して。お前も俺のことを幸せ者だって思うだろ?




